「私は、神聖ブリタニア帝国の皇子なのです。」
スザクの表情が変わる。その厳しい顔に、カレンは息を呑んだ。
「私は、戦いを否定しません。ですが、彼らは、目的のためには貴女のお母上の様にけなげに生きている人々にも犠牲を強いている。」
スザクの言葉に、カレンは唇を噛み締める。
忘れもしない。ナリタ戦。正義を語る自分たちが巻き込んだ善良な人々……友人の涙……その死を無駄にしないと誓ったゼロに賛同した。
私は、あの人について行く。でなければ、お兄ちゃんの死は母さんを追いつめただけになってしまう。
「覚悟のないものも平然と自分たちの戦いに巻き込む彼らを野放しにしていては、このエリアには平穏は訪れません。」
「殿下は、日本人はブリタニアの言う事を聞いていればいいと?そうすれば平和に暮らせると仰りたいのですか。」
「現状を受け入れなければ、苦しいだけでしょう。」
「受け入れたところで、イレヴンへの差別は無くなりません!」
「彼らの抵抗は、その差別に拍車をかけるだけです。
カレンさん。僕だって、日本人が苦しんでいるのを見ているのは辛いです。だから、この国を少しでも良くしたい…そう思って名乗りを上げました。
望んでなった立場ではありませんが、兄や姉に働きかけて、ナンバーズと呼ばれる人達が少しでも良い暮らしが出来る様に、いつかエリア政策を変える事が出来る様に務めて行くつもりです。」
「それでも……殿下が彼らと闘い続ける限り、“裏切り者”と呼ばれる事になるわ。」
「それでも構いません。いえ…それでいいんです。」
「どうして!?」
思わず叫んでしまった。
カレンの声に、ミレイとジノが東屋を振り返る。
「カレンさん。貴女がお母上を大切に思われている様に、僕にも大切な人達がブリタニアにいるのです。
僕にはもう、肉親と呼べる人はいません。父が戦争で死に、母もずいぶん前になくしましたから。
そんな僕にも“家族”と呼べる人達がこのブリタニアにいる。
例え、自分と同じ民族に罵られようと、その人達を裏切る事は出来ない。」
「ご自分から皇族になる事を望んだのではないと、仰ったではありませんか。」
「それでもです。ここが、僕のいる場所だから……
もう、この話は止めましょう。貴女も、お辛い立場なのは解りますがシュタットフェルトのご令嬢なのですから、さっきのような発言はなさらない方がいいですよ。」
「──殿下だから話したのです。他のブリタニア人に話せる事ではありません。」
「なら、光栄だな。」
そう微笑むスザクに、不覚にも赤面しながら言葉を続ける。
「私を、反体制論者として捕らえますか?」
彼女の問いかけに、スザクはびっくりした顔をする。
皇子にしては表情が豊かすぎる。嘘はつけないタイプだとカレンは評価した。
「どうして貴女を捕らえるだなんて。僕の事を心配して言って下さったんでしょう。」
「え……」
どうしたら、あの会話をそう捕らえる事が出来るのだろう。カレンは唖然とした。
そんな彼らの元に、ミレイとジノが戻って来た。
「なんだ、なんだ。ずいぶん白熱した議論をしてたみたいじゃないか。」
「白熱だなんて……ちょっと声が大きくなってしまっただけで……」
「うん。特に問題なんてないよ。
カレンさんとの会話はとても有意義でした。ありがとうございます。」
「いいえ。こちらこそ…失礼な事ばかり申し上げて……」
「とんでもない。貴女の祖国を思う気持ちには感銘しました。」
さらりとそんなことを言うスザクに毒づく。
前言撤回。さすが、宰相に育てられただけある。
「ええ?どんな事言ってたの。気になる、」
ミレイの茶々に、スザクとカレンは顔を見合わせ肩をすくめた。
「ところで殿下。一度我がアッシュフォード学園に遊びにいらっしゃいませんか。」
「遊びに……ですか?」
「アッシュフォード学園文化祭の特別ゲストとして、ご招待しまーす!」
楽しげに宣言するミレイに、3人は狐につままれたような顔をするしかなかった。
「そうか。では、スザクは日本人の事には心を砕いている様子なのだな。」
クラブハウスにある自室で、ルルーシュはカレンからの報告を携帯端末を使って聞いていた。
『はい。ですが、他の皇族の事を“家族”だと言い、ブリタニアから離れるつもりはないようです。』
「ブリタニアでのスザクの扱われ方はどうだ。」
『コーネリアやユーフェミアは好意的なようですが、信用できる人間は少ないようです。
自分のメイドを、秘書にしているくらいですから。』
「メイド?それは……」
『子供の頃から仕えている人物のようです。スザク本人が本国から呼び寄せたと言っていました。 それから……』
「なんだ。」
『ナイトオブラウンズのナンバ-3とナンバ-6が幼なじみだとか。』
「皇帝の騎士が身近に……
これで決まったな。スザクはブリタニアに皇子として捕らえられている。
自分の意志でそこに留まっていると思い込まされて……皇帝が、自分の騎士をスザクの側においているのが何よりの証拠だ。」
『ラウンズは監視役…!』
「スザク・エル・ブリタニアを解放する。ブリタニアの皇子という鎖から。
日本とともに枢木スザクを取り戻すぞ。」
『はっはい!』
力強いルルーシュの声に、カレンが慌てて返事をする。
通話を切り、ルルーシュは窓の向こうにそびえるブリタニア政庁を見据えた。
「待っていろスザク。お前を必ず、枢木スザクに戻してやる。」
決意と共に低く笑うルルーシュを、ベッドの上から魔女が静かに見つめていた。
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