a captive of prince 第7章:スザク皇子 - 4/6

 スザク…貴方は心底からブリタニアの皇子に成り下がってしまったの?
 それとも、私達に助けを求めて名乗りを上げたの?
 ミレイと楽しそうに談笑するスザクを見つめていたカレンであったが、「あ……」と小さな声を漏らしてよろめいた。
「おっと。危ない。」
 倒れかかった彼女を、ナイトオブスリーが支える。
「カレン!?」
 皇帝の騎士に助けられている友人に、ミレイが駆け寄る。
「大丈夫?」
「すみません。人に酔っちゃったみたいで……」
「それは良くないですね。人の少ないところへ移動しましょう。」
 そう言ってスザクが抱き上げようと近づくが、彼女を支えていたジノが、さっさと横抱きに抱えていた。
「きゃっ。」
「失礼。お嬢さん。か弱い姫君を助けるナイトの役目を、私に頂けますか?」
「は…はい……」
 その様子に、あちこちから黄色い声が上がる。
「本物の騎士がそんなことを言うと、気障以外の何者でもないね。」
 スザクがくすくす笑いながら言うと、ジノも楽しそうに笑みを浮かべる。
「ぬかせ。お前がやったら、もっと凄い騒ぎになるぞ。」
 その指摘に、スザクは今気がついた様に驚いた顔をしたが、すぐにふわりと微笑む。
「ああ。確かにその通りだ。」
 そして、ボーイに冷水とおしぼりを持って来る様に指示する。
 会場の隅に置かれたカウチにミレイが先に座り、カレンを支える様にして介抱する。
 ボーイが用意したグラスを差し出すと、小さく礼を言って受け取った。
 大丈夫かと気遣うスザクに、病弱なのだとミレイが答える。
 病弱設定が意外なところで役に立ったとほくそ笑むカレンであったが、スザクと一対一で話をする機会を作りたい彼女にとっては、この状況でもあまり好ましくない。
「客間を用意させますから、そちらで休まれてはいかがですか?」
 気遣わしげに申し出るスザクに、首をふって断る。
「いいえ。そこまでして頂かなくても……大分楽になりましたし…」
「そうですか?」
 なおも心配そうなスザクに、カレンは一計を案じた。
「でも。出来れば外の空気が吸いたいです。」
「そうですね。ここは人が多くて空気も悪くなっているでしょうし…では、ちょっと庭園までご案内しましょう。」
 そう言ってスザクが右手を上げると、1人の女性が近づいてくる。
 髪を結い上げ、ぴしりとしたスーツ姿のその人物は、4人の前に来るとにこりと微笑んだ。
「殿下。お呼びですか。」
「うん。ちょっと彼女達と席を外すから、姉上に上手く言っておいてくれないかな。」
 頼むよ。とスザクが重ねて言うと、女性は肩をすくめながらも笑みを絶やさず、承知しましたと答える。
 その面差しはどこかナナリーに似ていると、ミレイとカレンは感じた。
「アメリー?アメリーじゃないか。」
 ナイトオブスリーが驚いた声で話しかける。
 アメリーと呼ばれた女性は、笑みを一層深くして、懐かしそうにラウンズを見た。
「お久しぶりです。ヴァインベルグ卿。」
「貴女までこのエリアにいるとは思わなかったな。ヴァインベルグ卿だなんて、他人行儀な……昔の様に名前で呼んで下さいよ。」
「ジノ様。本当にご立派になられて……殿下と一緒にお説教されていた悪戯小僧だったなんて思えませんわ。」
「アメリー……」
 ジノとスザクの声がはもる。
「あの、殿下。こちらの方は……」
 ミレイの問いかけに、アメリーが頭を下げる。
「失礼しました。私、スザク殿下の秘書官を務めますアメリー・ステイプルトンと申します。」
「殿下の秘書の方ですか。」
「元々はメイドだったんですよ。私。」
「え。そうなんですか?」
 驚いて聞き返すミレイに、スザクは肩をすくめた。
「でも、彼女はとても優秀な人で、僕が公務につく事になってスケジュール管理をしてくれる人が必要になったので、本国から来てもらったのです。」
「政庁には、私なんかよりずっと優秀な文官が大勢いらっしゃるのに…」
「ごめんね。でも、誰か僕に心当たりはないかと姉上に聞かれて…貴女しか思いつかなかったんだ。」
「──光栄ですわ。」
 和やかに話すアメリーとスザクを見るカレンの目は鋭かった。
 自分のメイドを秘書に抜擢する……それはつまり、政庁内には身近に置ける安心できる人間がいないってことじゃないの。
 やっぱりスザクは、ブリタニアの中で孤立している。
 考えに没頭しているカレンは気分が悪いのを耐えている様に見えたのか、スザクがすまなそうな顔をした。
「待たせてすみません。こちらです。歩けますか。」
 体調を気遣うスザクの声を受けて、ジノが、私が運びましょうと進み出る。
 それには丁重に断りを入れた。
「私が横で支えますから。」
 ミレイが、カレンの腕をとった事から、スザクの先導でパーティー会場を出る。
「おい。スザク。主役が抜けるのは拙いんじゃないのか。」
 ジノがたいして心配した様子もなく尋ねる。
「どうせ兄上とのパイプを求めて群がって来ている連中だ。一通り挨拶もすませたから、義理を果たしたろう。
 適当に待たせておくさ。」
 そう後ろを振り返るスザクの目は、これまでと違って冷ややかだ。
 その目に、カレンは既視感を覚えた。
 あいつの目、そっくり……
 生徒会副会長を務める同級生が、他人を酷評する時の視線と同じだと気づいた。
 隣を見ると、ミレイも同じ事を感じたのか、肩をすくめている。
「あの目……ルルちゃんそっくりよね。」
「ええ。………あの、私会長にお願いが……」
 前後を歩く2人に聞こえない様に耳打ちすれば、ミレイは楽しそうに了解と返事をくれた。
 スザク……貴方の本心、聞かせてもらうわよ。
 自分の前を歩く帝国の皇子を、カレンは睨みつける様に見つめた。

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