「くそっ!」
味方がどんどん破壊される中、スザクも苦戦していた。
戦闘パターンを研究されている?
敵からの攻撃を回避し、反撃に転じようとするものの、ことごとくそれを読まれ潰されていく。
ランスロットは次第に追いつめられていた。
そしてついに、敵が繰り出す三段突きを躱しきれず、コクピット上部を斬り飛ばされてしまった。
「まだ、大丈夫……!」
急いで、機体にその他の損傷がないことを確認する。屈んだ状態のランスロットの体勢を起こし、反撃しようとした瞬間。
「よせっスザクくん!!スザクくんなのだろう!?」
敵ナイトメアのコクピットが開かれ、今日スザクがその最期を見届けるはずだった、かつての師が叫んでいる。
「藤堂さん……」
「どうして君がブリタニア軍に……ナイトメアに乗っているんだ!?」
「───あの日、ブリタニアに拾われたんですよ。」
不敵な笑みを浮かべて自分を見据える少年に、藤堂は息をのんだ。
「拾われた……?」
スザクの姿が晒されたとことで、敵にも味方にも動揺がさざ波の様に起こる。
辺りを見回したスザクは、通信をオープンに切り替えると、すっくと立ち上がった。
「神聖ブリタニア帝国第十二皇子、スザク・エル・ブリタニアである!」
名乗りを上げたスザクに、その場が震撼した。
「映像を……中継をすぐに止めさせなさい!」
ユーフェミアが叫んだ。
新築されたクロヴィス美術館のオープニングセレモニーの最中、突如ホールの巨大モニターに映し出されたチョウフ収容所での戦闘中継。
コクピットを破壊されたランスロットとそのパイロットの姿が流されてしまった。
いけない。止めなくてはならない。スザクが…スザクが傷つく!
彼女の頭の中にはそれしかなかった。
祖国を追われた少年が、敵国の皇子として戻って来たなど…この国の人達が喜ぶ訳もない。スザクに対する誹謗中傷は容易に想像できる。
「ダールトン将軍。」
隣に立つダールトンを縋る様に見つめる。
ダールトンもまた、食い入る様にモニターを見ていたが、自分の携帯端末を取り出し、総督府に通信を繋げる。
『スザク・エル・ブリタニアである!』
凛と響くスザクの声が、蜂の巣をつついたような騒ぎを止めた。
「───スザク…どうして……!!」
ユーフェミアが漏らした声は、もはや悲鳴だ。
「───いや、いい。このまま流させろ。」
傍らのダールトンの会話に、ユーフェミアが目を見開く。
「将軍──!」
泣き出したいのを一生懸命押さえているユーフェミアに、気の毒そうな顔で説明をする。
「スザク様には、チョウフの模様が中継されていることは伝えてあります。その上で名乗られたからには、ご本人も覚悟なさってのことと考えてよろしいかと。
それに、あのままでは兵に混乱が生じます。」
そもそも、スザクの存在を軍上層部のみで隠しおおせる訳がなかったのだ。
今思えば、スザクもいつかこの日が来ることを予想していたのではないだろうか。
自分の生まれ故郷に戻って、民達の窮状を見て見ぬ振りをしながら特派のラボで研究につきあっていられるような気性ではない。
そんな人間なら、皇帝が自分の息子にと望むはずもない。
「───私たちは、こうして見守るしかないのですね……」
ユーフェミアの声が、切なく響く。
「はい。この状況を、殿下がどのように切り抜けられるか見届けましょう。」
ユーフェミアの手の中で、コンテストの最優秀者に掲げられるはずだった花が、強く握り込まれた。
あの、目障りだった白兜をついに打ち取った。そう思って確認したファクトスフィアからの映像に、ゼロ…ルルーシュは驚愕した。
そんな──馬鹿な!何故……何故お前がそこにいる!!
忘れもしない。その柔らかそうな癖毛…子供っぽい翡翠色の大きな瞳…そしてなによりも意志の強そうな顔……あの夏の日、別れたときと変わらぬスザクがそこにいた。
「───スザク……!」
ずっとずっと探していた。いつか再会できる日を信じていた……
だが、だがしかし、決してこのような形ではない。
こんなことはあってはならない!
ブリタニアの皇族を名乗る旧友を凝視したまま、ルルーシュは動かなかった。
「ブリタニアの皇子だって……?」
「どういう事だ。あそこにいるパイロットは、どう見ても日本人じゃないか。」
「藤堂さん、あの子ですよね。枢木首相の息子さん……スザクくんですよね。」
幼少の頃のスザクを見知っている朝比奈が、動揺を抑えきれず確認する。
「ああ。間違いない……だが……」
ブリタニアの皇子だと……どういう事なのだ。
奇跡の藤堂と呼ばれ、多くのレジスタンスの希望になっている旧日本軍の象徴は、かつての弟子の面影を色濃く残す敵国の皇子を呆然と見つめていた。
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