a captive of prince 第4章:黒の騎士団 - 1/5

 もうどのくらい時間が経ったのだろうか、サクラダイト分配会議が開催されるカワグチ湖ホテルをジャックしたテロリスト「日本解放戦線」を名乗る一団と、コーネリア率いるブリタニア軍との睨み合いは続いている。
 例え人質を取られようともテロリスト殲滅を優先するのがブリタニアのやり方であったが、今回コーネリアは手をこまねいているしかなかった。
 というのも、テロリストは気がついていないが、人質の中に実妹で副総督でもあるユーフェミアがいるからに他ならない。
 G-1ベースの司令室のモニターに映し出される画像に、スザクは歯噛みした。
 なぜ、こんな…民間人を人質に取るような卑怯な真似をするんだ。
 こんな事で自分たちの主義主張が認められると思うなら、愚か以外の何者でもない。日本解放など、出来るはずもない。
 握りしめた拳に力が入る。
 人質の映像の隣、外部からホテルを映したモニターに動きがあった。
 ホテルの屋上に人影が…テロリストが人質のうち何人かを連れて来たようだ。
「まっまさか……!」
 よせっ止めろ。殺すなっ! スザクの声にならない叫びも空しく、多くのブリタニア軍人の目の前で悲鳴を上げながら突き落とされる人質達。
「我々の要求が受け入れられるまで、30分おきに人質を殺す!」
 ブリタニアへの憎悪を隠さないテロリストの主犯、草壁の声が響き渡る。
「まだ、進入路は見つからないのか!」
 コーネリアの悲鳴に近い声に、幕僚が1つの経路を示す。
 それは、ホテルに物資を運ぶための地下通路。
「しかし、敵も我々の侵入を阻むために大型のリニアキャノンで対抗して来ており、斥候に入ったナイトメア3機が撃墜されています。」
「むう!」
 幕僚の説明に、コーネリア始めギルフォードやダールトン将軍も悔しげにホテルの図面を睨む。
「だが、そこを破れば中から基礎を破壊できる?」
 沈黙の中発せられた声に、一同が視線を集める。
「は、はい。基礎を失えば自重によってホテルは湖に沈む事になり、テロリストの虚をついて有利な状況に持ち込めるかと……」
「自分が行きます。」
 声の主、スザクの言葉に真っ先にコーネリアが異を唱える。
「何を言っておる。スザク。お前がいく事はない。」
「ですが総督。ランスロットの機動力なら回避は可能です。」
「機体性能に頼った作戦は危険だ。それに、お前は皇族だぞ。自ら敵の的になるような作戦を認めるわけにはいかない。」
「姉上。ホテルの中には、助けを求めて待っている者が大勢います。
助けられる道があるのに、我が身大事で黙って見ているのが”皇族”なのですか。
皇族なればこそ、身を挺してでも臣民を守るべきではないのですか。」
「スザク。」
「出撃の許可を下さい。総督。」
「──分かった。だが、先導と後援を選ぶ時間を……」
「時間がないのはお分かりのはずです。こうして手をこまねいている間にも、人質達の危険は増すばかりです。それに、単機の方が動きやすいので援護は不要です。」
「スザク。お前は、まさかまだ……!」
「……無謀な事をしようとしているのは分かっています。ですが、生きて帰る自信もあるのです。
大丈夫。もう、あんな事は考えていませんから……」
 最後に囁く様に語られた言葉と穏やかな笑みに、コーネリアは小さく息を吐く。
「──分かった。お前を信じよう。必ず生きて帰れよ。」
「はい!」
 司令室を飛び出していく弟を見送り、コーネリアはダールトンを見やる。
「アンドレ。今のスザクの言葉。少々耳に痛かった。」
「はい。皇族らしくなられたと申し上げてよいかと……ただ…」
「ただ?」
「身を挺しても…というお考えは気がかりですな。殿下は、正義感が強すぎる傾向がおありです。
自己犠牲もいとわない姿勢は尊いですが、我々、守る側の人間からすると困ったものですな。」
「───そうだな。」
 コーネリアは苦笑し、司令室の一同に新たな指示を出す。
「ランスロットが作戦成功次第突入する。準備にかかれ。」
「イエス ユア ハイネス!」
 コーネリアの号令のもと動き出した司令室に、通信兵の緊張した声が響く。
「総督。ゼロがっ!」
 その声に振り向いたコーネリアが見たものは、モニターに映るゼロの姿だった。

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