a captive of prince 第6章:チョウフ襲撃 - 1/5

「藤堂鏡志郎……」
 スザクは、ダールトン将軍に渡された書類を食い入る様に見つめた。
「先日、トウキョウ湾で自爆した日本解放戦線の生き残りです。
かつて、我々ブリタニアに唯一土を付けた男ですが、ついに命運が尽きたようです。」
「今はチョウフ収容所に?」
「はい。そしてこちらが、総督がサインされた死刑執行書です。」
 手渡された書類を見るスザクの表情には、何の色も現れていない。
 そのことに、ダールトンは安堵した。
「死刑執行は明後日の予定です。」
「その見届け人に僕が?」
「はい。出来ますれば……」
 ダールトンの申し出に、スザクは一度瞑目すると、真直ぐ彼の目を見て明瞭に是と答える。
「明後日ですね。了解しました。」
 あまりにすんなりと引き受けたので、ダールトンとしては少々拍子抜けだったことは否めない。肩の力が抜け、表情も、ほっと緩んでしまった。
 そんな彼を、今度はスザクが訝しむ。
「将軍?」
「あ、ああ。失礼。実は、殿下が引き受けて頂けないなら、誰に任そうか考えていたのです。
藤堂とは、師弟の間柄だったとか?」
 ダールトンの問いかけに、スザクは遠い目をした。
「子供の頃です。もう昔のことですよ。
あの人は、7年前に奇跡とも呼べる勝利を日本に齎した。
でも、そのことが今のエリア11に於ける抵抗運動の原動力になっているのなら排除すべきだし……もう楽にしてあげても良いのではないかと……」
「楽に…とは?」
「藤堂鏡志郎は、枢木ゲンブに次ぐ伝説です。
しかも、父と違って今も生きている。そのことで、人々の希望となることを要求され続けていたのなら……それに応えられないことで苦しんでいるのではないかと……
こんなことを僕が考えているなんて知ったら、先生は怒るかもしれないけど…いや…本当は、怒って欲しいのかもしれないな。」
 自嘲気味に笑うスザクに、刑の執行前に面会することは可能だとダールトンが進言すれば、ハッと目を大きく見開くが、それもすぐに閉じられゆっくりと頭を振る。
「いえ…止めておきます。先生も、今更僕に会いたいとも思わないでしょうから。」
「そうですな。では、これで。」
 部屋を辞そうとしたダールトンではあったが、再び応接のソファに座り直すことになった。
「将軍。将軍は、ゼロの…黒の騎士団のことをどう思いますか。」
「憎むべき犯罪者であり、目障りな勢力であると思っています。」
 ダールトンの回答に、スザクは明らかな不満の色を現す。
「ゼロの目的です。
黒の騎士団に集まる人々の思いと、ゼロが目指しているものが同じだとは思えないのです。」
「……ゼロの目的ですか。」
「クロヴィス総督を殺した時に、何故名乗りを上げなかったのか。皇族殺しが目的なら、何故ホテルジャックではユーフェミアを見逃したのか。
かと思えば、ナリタとトウキョウ湾では執拗にコーネリア姉上を狙っている…どちらも日本解放戦線を囮として……」
「……確かに、クロヴィス殿下殺害の時に、すぐ名乗りを上げなかったのは謎が残りますな。
だが、ホテルジャックでユーフェミア様を殺さなかったのは、殺してしまっては“正義の味方”を名乗れなかったからでしょう。あの時は、ユーフェミア様こそ、被害者でしたから。
ゼロは、黒の騎士団という組織を大々的に知らしめるチャンスをうかがっていたのかもしれませんな。
弱者のために闘うという大義名分で、ナンバーズらの支持を取り付けることに成功していますから。」
「その“正義の味方”は、このエリア最大とはいえ、ブリタニアからは“弱者”である日本解放戦線を、助ける振りをして実は見捨てている……
将軍。僕は、あのトウキョウ湾でのことは、自爆ではなく爆破されたと思っているのです。」
「──ゼロに…ですか?」
「はい。黒の騎士団は、我々に取り囲まれた片瀬らを助ける様子もなく、その爆発を合図とする様に攻撃して来ている。初めから見捨てるつもりだったのではないかと……」
 スザクの考えに、ダールトンも頷く。
「ゼロとしては、エリア最大の勢力を誇る奴らが目障りだったのでしょうな。
奴らを囮に、総督を抹殺するつもりだったのでしょう。
ゼロの目論みは2度とも殿下のおかげで潰すことが出来ましたが。」
 ここで、ダールトンは再びスザクの表情を伺った。
 だが、彼を褒める言葉に気づく様子もなく、考え込んでいる。
「将軍。将軍は、ゼロの正体を皇室に恨みを持つものではないかと仰っていましたね。」
「はい。」
「僕は、皇室ではなく皇帝陛下に恨みを持っているのではないかと思うのです。
だから…皇族でありエリア総督であるクロヴィス兄上や、コーネリア姉上を狙ったのではないかと。」
「……エリア総督である皇族が次々殺されれば、いずれは陛下がお出ましになると?
陛下のお命が目的だと仰るのですか。」
「はい。でも、そうするとゼロが黒の騎士団を結成した理由は何でしょう。目的を隠すための揺動でしょうか。
騎士団のメンバーも、日本解放戦線の様に利用されているのでは……」
「さて、どうでしょうか。利用されているとしても、彼らにしてみればエリア解放の目的が達せれば良いのでは?
どちらにしても推論の域を超えないことです。」
「───そうですね。僕の考えが正しいかどうか。ゼロにあって話さなくては解らないことですね。」
 小さく息を吐くスザクを、ダールトンは面白いものを見るような顔で見つめる。
「殿下は、ゼロとの対話をお望みで?」
「……できたらしてみたいと思っています。彼のやり方は、あまりにも性急だ。何をそんなに急いでいるのか知りたいと……」
 ここまで話して、スザクはダールトンの視線に気づき頬を赤らめた。
「すみません……埒もないことを言いました。」
「いやいや。私も、ゼロに関しては大いに興味を持っていましてな。殿下の、ゼロについての貴重なご意見を拝聴できたことは、大きな収穫です。殿下の考察には驚かされました。」
「将軍。からかわないで下さい。」
「滅相もない。ゼロの目的が陛下であるというのは、思いも寄りませんでしたからな。」
「そうですか?」
「テロリストが、エリアの最高権力者を狙うのは当然としか考えませんから。」
 ダールトンの言葉に、スザクは今気がついたという顔をした。
「そうですね。何で、そう思ったんだろう……
 でも、ゼロはただのテロリストとは違う……そう感じるんです。」
 はっきりと確信を持って話すスザクに、ダールトンは目を見張った。
「もし、ゼロと話す機会があって、殿下のお考え通りであったらどうします?」
「皇子としては、捕らえるか抹殺した方が良いんでしょうね。」
 そう答えるスザクの顔に、暗い笑みが浮かんでいる様に見え、ダールトンは背筋に冷たいものを感じるのだった。

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