a captive of prince 第6章:チョウフ襲撃 - 2/5

「ロイドさんがお見合い?」
 ダールトンとの会談の後、特派のラボに立ち寄ったスザクは、そこで思いがけない話を聞かされた。
「あの、マッドサイエンストも、ついに年貢の収め時のようですよ。」
 ニヤニヤと面白そうに笑う研究員の視線の先に、解析装置の前に座るロイドと盛装の女性の姿があった。
「もしかして……ここで?」
「相手のお嬢さんもお気の毒ですよね。せっかく着飾って来たのに、こんなむさ苦しい上に機械油の臭いが充満するところで見合いだなんて。」
 あの人に一般常識なんて通じないというか、持ち合わせていないからなぁ。と気の毒そうに溜息を漏らす彼に、スザクも苦笑する。
「その不幸な女性は、どちらのご令嬢です?」
「ええ…と。確か、アッシュフォード家のご令嬢だとか……」
 その家名に、スザクは見合い中の2人へ歩みを進めていた。
「殿下。のぞきなんかしたら姉上様達に叱られますよ。」
 からかい半分で止める様に声をかける研究員達に、口元に人差し指を出して合図を送る。そうすると、肩をすくめてそれぞれの持ち場へ戻っていった。
 ロイド達のそばへ行くと、ちょうどセシルが2人のための紅茶を用意しているところだった。
「あら、殿下。」
「ロイドさん、お見合いですって?」
「ええ。そうなんですよ。いつもは面倒くさがって全然相手にしないのに、今回に限ってすぐに会いたいって……」
「凄いな。よほど美人なんですね。」
「ええ。お美しい方ですけど……あの人、どうやら別の目的があるみたいで……」
 そう言って、上司を睨みつける。
「それ、2人に出すんでしょう?僕も一緒に行っていいですか。」
「え?」
「あの、ナイトメアフリークと会ってみようという、勇気ある女性にご挨拶してみたくて。」
 駄目ですか?と小首をかしげると、苦笑まじりに了承する。
「殿下も、こういう事に興味のあるお年頃ですものね。
2人だけじゃきっと、相手の方も会話に詰まるでしょうし……」  
 場を和ませるのに良いかも。と、ふたりで見合い中のカップルの元に行く。
「どうぞ、ごゆっくり。」
 カップを置いて挨拶するセシルの言葉尻を捕まえて、ロイドが爆弾発言する。
「時間がもったいない。結婚しよう。」
「早っ!」
 スザクと見合い相手の声がはもる。
「あれぇ。駄目だった?」
「普通、会ってすぐプロポーズするものなんですか?」
 スザクがセシルに尋ねれば、首をブンブン振って否定する。
「この人に世間一般の常識はありませんから。参考になんかしたらダメですよ。」
 当事者そっちのけで盛り上がる2人に、女性が不思議そうな顔をする。
「あの、ロイド伯爵。こちらの方々は……」
「ああ。僕の部下のセシル・クルーミー女史と、僕の上司の弟君のスザク・エル・ブリタニア殿下。」
「で…殿下って……しっ失礼しました。ミレイ・アッシュフォードと申します。」
 膝を折るミレイに、スザクの方が慌てる。
「あ。どうかそんな事しないで下さい。見合いの邪魔をするつもりはなかったんです。」
 そして、改めて挨拶する。
「初めまして。スザク・エル・ブリタニアです。」
「彼はねぇ、うちの上司で帝国宰相のシュナイゼル殿下が、もう目に入れても痛くない程可愛がっている弟君でね。
この間も、ちょっと体調崩したって言ったら、すーぐ飛んで来るぐらいなんだよォ。」
「あのシュナイゼル殿下の……申し訳ございません。私、殿下のことは全然存じ上げなくて……」
「当然だよぅ。彼のことは公表されてないから。スザクくんはね、皇帝ちゃんの養子なんだよ。」
「ロイドさん……!」
 セシルが、上司の不敬な発言をたしなめる。
「ご養子…では、シュナイゼル殿下とは……」
「ええ。血のつながりは全くありません。7年前にエル家に引き取られたのです。」
「7年前…という事は、殿下はもしかして……」
「そう。本来ならイレヴンと呼ばれて、このエリアの最下層にいる人物なんだよ。」
「ロイドさんっ!」
 セシルが怒鳴る。
「僕の以前の名前は、枢木スザク。日本最期の首相の息子です。」
 スザクの告白に、ミレイは驚愕した。
「あの…最後の侍の息子がブリタニアに……終戦後すぐに?」
「はい。極東方面軍総指令だった兄に保護されて本国に…まさか、陛下が僕を養子にして下さるとは思いも寄りませんでした。
今は、この特派で、新型ナイトメアのデバイサーを務めています。」
「軍の機密ですので、他言無用でお願いします。」
 セシルの言葉に、ミレイは頷いた。
「はい。よく心得ています。」
 愛想良く答えるミレイに、特派主任の目が細められる。
「アッシュフォード家というと、マリアンヌ妃の後援貴族でしたね。」
「ええ。それも、マリアンヌ様がお亡くなりになったと同時に過去の栄光となりましたわ。」
「アッシュフォード嬢は、マリアンヌ様のお子様方がその後どうなったかご存知ですか。」
「殿下。どうか、ミレイと御呼び下さい。
 勿論、ルルーシュ様とナナリー様のことは存じております。このエリアに人質として送り出され、戦後は、私どもがお護りするつもりでした。……でも、我が家に到着する前に軍と抵抗勢力の戦闘に巻き込まれ亡くなられたと……そう聞いております。」
「ミレイさんは、その…2人の遺体をご覧になったのですか。」
「いいえ。父からそのように聞いただけです。またお会いできるのを楽しみにしておりましたのに……」
 そう言って、ミレイはハンカチで目頭を押さえる。
「ルルーシュとナナリーとは面識が……」
「本国におりました時に何度か……」
「そうですか。悲しいことを思い出させてしまって、すみません。」
「いいえ。
 私、殿下にお伺いしたいことがあるのですが…よろしいですか。」
「ええ。どうぞ。」
「殿下は、どうしてマリアンヌ様のお子様達のことをご存知なのですか。」
 ミレイの質問に初めは面食らっていたスザクだが、次の瞬間には苦笑を浮かべていた。
「日本に人質に出された2人の受け入れ先をご存知ですか。」
「いいえ。」
 ミレイの答えに合点の行ったスザクは、説明を続ける。
「2人の預け先は、僕の実家でした。日本国首相枢木ゲンブの元に預けられたのです。」
 その説明に、今度はミレイが納得いったという顔をする。
「それでおふたりのことを……」
「2人とは、初めこそ喧嘩しましたが…いや…あれは、僕が一方的に殴り掛かっただけだな。でも、すぐに仲良くなって。ルルーシュとは、親友だと思えるまでになりました。」
「そうでしたか。おふたりのことをお知りになられたのは……」
「ブリタニアで…皇帝陛下から、アッシュフォード家からそう報告が来たと知らされました。」
 答えるスザクの表情は暗く、皇帝の名に心無しか憎しみを感じ取り、ミレイは眉根を寄せた。
「でも、ミレイさん。僕はまだ心のどこかで2人は生きていると信じているのです。
 紙1枚の報告だけで、全て受け入れるわけにはいかない。」
「そう…ですね。私も、死んだと聞かされても、おふたりがどこかでご存命ではないかと思う事がありますわ。」
 ミレイが同意するとは思わなかったスザクは、驚いて彼女を見つめた。
 そんなスザクに、ミレイは優しい顔で応えている。
 見つめ合う2人に、無粋な横槍が入った。
「あのースザクくん?彼女は僕の見合い相手、いや、婚約者なんだけど。」
 2人で見つめ合って、良い雰囲気作らないでくれる?
 見合いの最中に相手を取られる形になったメカオタクの伯爵が、不満たらたらで文句を言う。
「あ…ああ。失礼。話に夢中になってしまって……すみませんでしたロイドさん。それにミレイさんも……」
「いいえ。殿下とお話しできてとても良かったです。」
「それじゃあ。お見合いを中断させてしまって、申し訳なかったです。」
 その場から離れようとするスザクを、ミレイが呼び止めた。
「殿下は、もしルルーシュ様とナナリー様がご存命でしたらどうなさいます。すぐに、本国に知らせますか?」
「──いいえ。もし2人が生きていたら、まず2人の無事と意思を確認してから、国に知らせるかどうか考えます。」
「おふたりの意志が優先だと?」
「勿論です。もし生きているのに7年も所在不明だったとしたら、本人達もしくは第三者の意志が働いていると考えますから。」
「殿下は、本当におふたりのことを大切に思っていらっしゃるのですね。」
 スザクの答えに、ミレイはとても満足そうに笑うのだった。

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