a captive of prince 第6章:チョウフ襲撃 - 5/5

「ゼロ。そこにいるのだろう。少し話がしたいのだが、出て来てくれないだろうか。」
 敵に取り囲まれているというのに、落ち着いた様子のスザクに、騎士団の面々は毒気を抜かれた。
 スザクの呼びかけに無頼のコクピットが開かれ、黒い仮面のテロリストが姿を現す。
「はじめまして…と言うべきなのかな。」
 既に何度も相対した間柄である。
「初めましてと申し上げておきましょう。スザク・エル・ブリタニア殿下。今まで、何度も私の邪魔をしてくれたナイトメアのパイロットがまさか皇族だったとは、思いも寄りませんでしたよ。
貴方には、何度も煮え湯を飲まされてきました。」
「それは、こちらも同じだ。君のことを何度取り逃がしたことか…」
「今回は、形勢逆転というところですかな。」
「さあ。それはどうだろう。ここはブリタニアの軍施設だよ。
ここの異変は誰もが知るところだ。危ない綱渡りをしているのは、むしろ君たちの方じゃないのかな。」
「仰る通り。話は早く済ませたいところです。
しかし、あの皇帝に貴方のような皇子がいたとは存じませんでしたよ。」
「皇室には詳しいようだが、さすがに私のことは知らなかったようだね。
君が知らなくて当然だ。私の存在は、これまで公にされてこなかった。私が皇子になったのは、7年前だからね。」
「7年前……殿下のご出身は、このエリア11ですか。」
「そうだ。ここにいる藤堂鏡志郎がよく知っているよ。
私も、君に聞きたいことがあるのだが…かまわないか。」
「どうぞ。」
「君は、このエリア11をどうしたい?君の目的は何だ。」
「ずいぶんと、はっきりと聞かれるのですね。」
 ゼロから笑い声が漏れる。
 その、歯に衣着せぬ物言い……変わらないな。スザク。
「性分でね。回りくどいことは苦手なんだ。
それに、君も時間が惜しいだろ?」
「そうですね。では、私もはっきりとお答えしよう。
私の目的はただ1つ。神聖ブリタニア帝国の破壊だ!」
 言葉とともにバサリと大きくマントを払い、ブリタニアの皇子に向って指を突きつける。
 その様に、スザクは口角をつり上げた。
「そう答えるだろうと思っていた。やはり、この男は渡せない。」
 そういって、感情のこもらない目で藤堂を見下ろす。
 スザクは、事の成り行きを見守っているブリタニア兵に体を向けると、彼らに語り始めた。
「勇敢なるブリタニア軍兵士諸君。今までの会話で察しはついているだろう。
私は、生粋のブリタニア人ではない。元日本国首相の嫡子として生を受け、本来ならイレヴンとして支配されるべき人間だ。」
 “イレヴン”という単語に、日本人の顔が歪む。
「だが、皇帝陛下の格別なご温情により皇籍の末席に名を連ねる栄誉を賜った。宰相シュナイゼル閣下が私の身元を引き受けて下さり、閣下の弟となる事を許された。」
「シュナイゼルの弟……」 
 堂々と語るスザクを見つめるルルーシュの目が細められる。
「私ごときが、今こうしていられるのも全て陛下と宰相閣下のおかげ。おふたりのご寵愛に報いるためにも、今目の前の反乱分子を全力をもって叩く!」
 スザクもまた、ゼロに向って指を指した。
 その様に、ブリタニア軍から歓声が上がる。
「そうは言っても、彼らは私が生まれ育った故郷の民だ。情に流され、手心を加えてしまうかもしれない。
私に不審な動きがあれば、遠慮なく敵とともに撃墜して欲しい。」
 その言葉に、歓声がさらに大きくなった。
 自分がナンバーズ出である事を隠さず、それ故に手加減するかもしれないと正直に話したスザクの実直さが、潔しと受け入れられたのだろう。
「スザク殿下。万歳!」
「オール ハイル ブリタニア!」
「オール ハイル ブリタニア!」
 歓声に、スザクは小さくありがとうと答えると、ランスロットを攻撃態勢に戻した。
「スザクくん。それが、君の生きる道か。」
 藤堂が、かつての弟子に問いかける。
「はい。決して自ら望んだ地位ではありませんが、この立場だからこそ出来る事がある。
 僕は、今の自分に出来る事をやります!」
「そうか。分かった。では、私も私の道を行こう。遠慮などしないぞ!」
「はいっ!!」
 四聖剣が取り囲んで一斉に飛びかかる、それをスザクはロイドの指示により、ハーケンを一斉射出する事で迎え撃った。
 スザクと、藤堂はじめ四聖剣が睨み合う中、ゼロが撤退の号令を発した。
 前方の空を見た藤堂は、応援のためにやって来た空挺部隊を確認し、ゼロの判断を支持した。
 引き際を良く心得ている。指揮官として申し分ない。
 ゼロの指示に従い、煙幕を張って撤退する。
 白煙の中去って行く黒の騎士団を、スザクは静かに見送った。

「見ろ。敵が逃げていくぞ!」
「さすが、陛下がお認めになっただけはある。」
「スザク殿下。万歳!」
「オール ハイル ブリタニア!」
「オール ハイル ブリタニア!」
「オール ハイル ブリタニア!」
 先ほどとは違った興奮に包まれた美術館の中央ホールで、ユーフェミアはほっと胸を撫で下ろした。
「どうやら殿下は、民に受け入れられたようですな。」
「ええ。ほっとしました。」
「さて、これからが大変だ。急ぎ政庁に戻って対策を練らねば……」
「ユーフェミア様。スザク殿下について教えて下さい。」
「スザク様はいつからこのエリアに?」
「殿下のお人柄と経歴を是非!」
「あ…あのっ……」
 やつぎばやに出される質問に、ユーフェミアは後ずさる。代わりに、ダールトンが前に進み出た。
「スザク殿下の経歴等については、追って広報より発表する。
それ以外の取材は一切受け付けない。また、今後の公務についても同様である。」
「そんな……」
 折角のスクープを前に、報道を規制されてしまった記者から不満の声が漏れるが、強面のダールトンに一蹴され、渋々大人しくなった。
「将軍。公務…て……」
「こうなってしまった以上。スザク様には表に立ってもらうより他ありません。」
「でも…それでは……」
「ナンバーズの中には、反抗的な者ばかりではなく恭順的な者が大勢います。殿下が表に出られる事で、それらの者の支持を得やすくなるかもしれません。」
「そう…ですね。」
 ダールトンの意見は最もではあるが、ユーフェミアは、反抗勢力の筆頭とも呼べる黒の騎士団と今回このように相対した事が、スザクをさらに危険に晒す事になるのではないかと危惧していた。

「スザクが、皇族として名乗りを上げた?」
 ホクリクの反抗勢力討伐に出征していたコーネリアにも、チョウフでの出来事が伝えられた。
「敵の攻撃でコクピットが破損し、お姿が晒されてしまったそうです。運悪く、たまたまTV局の取材機がその側を飛んでいたため、全土に中継されてしまったとか……」
 ギルフォードの説明に、こめかみを押さえる。
「なんと間の悪い……」
「ですが、姫様。これは好機なのでは?スザク様も、いつまでも“隠された皇族”のままでは身動きができないでしょう。」
「だがな。ギル。」
「スザク様は、もはや立派にブリタニア皇族の一員です。ただ護られるばかりの立場では、お気の毒だと思います。
それに、先々の事を考えれば姫様の理想通りになるのでは……」
「──ユフィを総督とし、スザクを副総督に置いて補佐させる事が出来るかもしれぬな……」
 主従は顔を見合わせて笑った。

「勝手な真似をいたしました。ご処分は如何様にも……」
 政庁内皇帝謁見の間には、大型モニターに映るシャルルの前に膝まづくスザクの姿があった。
 頭を垂れるスザクを見下ろし、シャルルは薄く笑う。
「よい。あの口上は、なかなかの物であったぞ。
これからは、皇族としての務めに励め。」
「イエス ユア マジェスティ。」
 モニターからシャルルの姿が消えると、やっとスザクは顔を上げ、詰めていた息を吐き出す。
 立ち上がったスザクに、待ち構えていたユーフェミアが駆け寄る。
「スザク。お父様は何と?」
「これからは公務に励めと……怒られたりしなかったよ。」
 微笑んで答えるスザクに、ほっとした様に笑顔を向ける。
「それじゃあ。これからはスザクも一緒に……」
「うん。このエリアが一日も早く平和で安全になる様に、僕も頑張るよ。」
「宜しくお願いします。でも…スザクの事を知った日本の方々がどう出て来るのか……」
「そうだね…でも、それは覚悟の上だから。ブリタニアの皇族として、このエリアの人達のためになる事をしていくよ。」
「そうですか……私も、何が出来るのか真剣に考えます。」
「皆が笑顔でいられる様に頑張ろうね。」
「はい。」
 スザクの差し出す手を握り返して、ユーフェミアは嬉しそうに笑った。

「ゼロは……?」
「まだコクピットの中に……さっきから全然応答がなくて……」
「ゼロが、無頼から出てこないって?」
 ブリタニアの追跡を躱してアジトにたどり着いた黒の騎士団メンバーが見守る中、その声は突如響き渡った。
「フ…フフフ……ククク……ハ…ハハハハ……アッハハハハハハハハハハ……!!」
 コクピットから漏れ聞こえて来る笑い声に、その場にいる全ての者が顔を見合わせる。
 狂ったように笑い続けるゼロの声が、カレンには何故か切なく聞こえた。

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