a captive of prince 第6章:チョウフ襲撃 - 3/5

「刑の執行は30分後の予定です。それまで、ごゆるりとお寛ぎ下さい。」
 案内されたチョウフ収容所内の1室で、所長とそのお付きが去ると、スザクは同行して来たロイド、セシルと顔を見合わせ小さく息を吐いた。
 応接室の設えをしているが、大きなソファが並んで置かれているその前面は大きなはめ殺しの窓となっており、その向こうが見える様になっている。
 窓ガラスの向こうは、まさに処刑場。この部屋は、処刑を見物するためのものである。
 重罪人の処刑には、エリア総督かそれに準ずる高位の人間が立ち会う事が多い。この部屋は、そういった人物のためのものである。
「こんなソファでゆったりしながら、銃殺刑の見学ですか。」
 悪趣味だねえ。ロイドがはっきり聞こえる様につぶやく。
 処刑場の壁には、洗い流しても落ちないしみがくっきりと残っている。
 体勢批判とも取れる言動を普通に出来るロイドに、セシルが肩をすくめた。
「確かに良い趣味とはいえませんね。でも、刑が確実に執行されたか見届ける人間は必要ですし、それが高位な立場なら、こういう部屋も用意しなければならないんじゃないですか?」
 僕は、ここまでする必要はないと思うけど。と付け加えてスザクが答えれば、今度はロイドが肩をすくめる。
「刑が始まりそうになったら、おふたりは退室して頂いていいですよ。見ていて気持ちのいいものじゃありませんから。」
 スザクの申し出に、セシルは安堵の息を吐くものの、スザクを1人にすることに抵抗を示す。
「でも……」
「僕は、こういうもの見慣れてますから。」
「でも…お知り合いなのでしょう?」
 心配そうに尋ねる彼女に大丈夫ですと答える。
「あの人と同じ軍人という立場を選んだ時から、いつかこういう日が来るだろうと覚悟はしてきましたから……」
 そんなスザクを、痛ましげに見る。
 そのとき、大きな爆音とともに建物が揺れた。警報がけたたましく鳴り響く。
「何がありましたかっ!」
 セシルが内線電話に飛びついて確認すると同時に、所長が所員とともに飛び込んで来た。
「所属不明のナイトメア多数来襲!黒の騎士団と思われます。
この棟は危険です。安全な場所にご誘導します。」
 そういって扉の前で待つ若い所員に、その必要はないと告げる。
「自分もナイトメアを持って来ている。応援に入ろう。」
「で…ですが……」
 スザクの申し出に、所長は青い顔で口ごもる。
「この施設に配備されている兵力では、対応しきれないでしょう。」
「既に援軍の要請はしております。殿下自ら出撃頂かなくとも……」
 スザクに出撃させまいという態度がありありと出ていることに肩をすくめる。
「敵の中に紅い機体はあったかな。」
 苦い顔をしている所長の隣の若い所員に尋ねれば、
「あ。はい。かぎ爪のような腕を持ったものが一機ありました。」
 と、素直に答える。
「なら、尚更だ。あれのスペックはサザーランドでは太刀打ちできない。所長、将軍には自分から連絡入れますからご心配なく。
 ロイドさん。出撃準備お願いします。」
「イエス ユア ハイネス。」
 ロイドがこれ見よがしに返事をするのを、所長はますます顔をしかめて見る。
 スザクにそこまで言われてしまえば、黙って従うしかないからだ。
「所長。全体の指揮は貴方が取って下さい。自分はあくまで応援です。」
「イッイエス ユア ハイネス!」
 面目を保つことが出来た所長は、慌てて司令室へ戻っていく。
 その様子に3人は苦笑し、ランスロットが収められているトレーラーへと急いだ。
「しかし、あの所長、よほどスザクくんを出したくなかったんだねぇ。」
「僕を単独で出撃させるなの命令は、総督と宰相の連名で軍に浸透しているみたいですから。
コーネリア姉上が不在の時に僕を出させて、何かあったら困ると思ったんじゃないですか。
それに…ナンバーズ出の皇子に仕切られるのも嫌だったんじゃないかな。胸に紅い羽がついてましたから。」
「ああ…純血派ね。」
 それで、指揮を任せると言った時、あんなに安心していたのかと、ロイドが手を打つ。
 そんな会話の合間に、スザクはトウキョウ租界にいるダールトンと連絡を取っていた。
「ええ、出撃します。租界に第二種警戒令を発令?はい。解りました。ここの様子が中継されているんですか……そうですね。
空挺部隊の到着予定は……はい、了解しました。」
「殿下。出撃準備完了まであと1分です。」
「司令部から戦況の報告は?」
「チャンネルオープン。全て把握できます。」
「了解。システムオールグリーン。ランスロット出撃します。」
「敵は、藤堂を奪取した模様。紅いもの以外にも、こちらのデータにない新型機が多数見られます。」
「ゼロめ。組織をどんどん増強して……!」
「早めに叩いておかないと、厄介になるねぇ。」
「ランスロット発進!」
 白き騎士が、黒き騎士の群れに躍り出ていった。

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