a captive of prince 第2章:ペンドラゴン - 7/7

弔いの鐘がしめやかに鳴り響く。
クロヴィスの葬儀が行われている教会は、密葬であるにもかかわらず多くの弔問客が訪れている。
続々と横づけられる黒塗りの車。大貴族の紳士淑女が黒い衣装に身を包み、続々と建物の中に消えて行く。
中には皇室のエンブレムをつけたリムジンもあり、皇位継承者達の姿も見て取れる。
彼らが到着する度に、参列者から囁き声が漏れる。
その囁きは、二人の皇子の登場でにわかに大きくなった。
「まあ。これはこれは……」
「お二人ご一緒とは、お珍しい。」
「スザク殿下は、滅多に公の場に出られないからな。」
「陛下の定例の謁見の場にも、何かしら理由を付けてご欠席あそばされているとか……」
「それは…陛下に対し不敬なのでは。」
「他の皇族方に気を使われての事ではありませんの。分を弁えていらっしゃるのよ。」
「何しろ、ナンバーズご出身だからな。」
「陛下がご養子になさるとおっしゃった時は、皆様こぞって反対なさったそうですが……」
「今や、数々の軍功を挙げられ、コーネリア様ご出征のおりには必ずお連れになるとか。」
「さすが、シュナイゼル殿下のご教育の賜物ですな。」
口さがない貴族達のうわさ話に、苦笑が漏れる。
「皆様、今後の身の振り方を決めなくてはならないから大変ですわねえ。」
シュナイゼルとスザクの後ろに控えるカノンが嘲笑を浮かべる。
皇位継承第三位と言う極めて高い地位にいたクロヴィスが死んだため、彼の後ろ盾として支援してきた貴族達は、新たに寄るべき大樹を見つけすり寄ろうと必死である。
スザクの事を「ナンバーズ上がりの下賎皇子」と陰口を叩いていたのと同じ口で、今は「さすが皇帝陛下のお眼鏡にかなっただけある」と褒めそやす様を見ては、嘲りを持ってみるのも当然であろう。
囁き声に居たたまれなくなったスザクは視線を下げる。
すると、隣に歩く兄がさり気なく手を握って来た。
反射的に顔を上げたスザクは、その笑顔に顔を和ませた。
献花台に花を手向け、喪主であるガブリエッラ皇妃に深々と頭を下げる。
顔を上げると、皇妃と目が合った。
「スザク。」
「──はい。」
今まであれば、例え顔を会わせようとも絶対に声をかけてもこなかった皇妃の呼びかけに、スザクは戸惑った。
「クロヴィスのために、美しいバラを届けて下さってありがとう。
あの子は、本当にあのバラが大好きで…可愛がっていたお前が届けてくれたのだから、さぞ喜んでいるでしょう。
お前も、あの子にはよくなついて……それなのに、お前が側にいるとあの子のためにならないと、遠ざけようとして冷たい態度や嫌がらせをしました。本当に申し訳ない事をしました。」
「いえ……皇妃様のお立場でしたら当然の事です。
本来ならば、僕は本国にいる事すら出来ない者なのですから。」
「ああ。本当に思いやりのある、いい子なのね。
生前、エリアにいるあの子から、お前の事を嫌わないでくれとたくさんの文とエリアの美術品などを贈られました。あまりにお前の事をかばうものだから、嫉妬してしまいましたわ。
もう、お前に対して悪い感情はありません。時間が空いた時でかまいません。たまに、私のところに顔を出してはくれませんか。
あの子の思いで話などを一緒にしたいのです。」
皇妃の涙ながらの訴えに、困惑していたスザクの表情もすっかり解け、柔らかな笑顔を彼女に向けていた。
「はい。皇妃様のお望みであれば、いつでも伺わせて頂きます。」
「ありがとう。」
そう微笑むガブリエッラ皇妃の顔は、とても穏やかだった。

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