a captive of prince 第2章:ペンドラゴン - 5/7

「少々お疲れのようですが、問題ないでしょう。」
初老の域に達しているであろう白髪まじりの侍医の診断に、スザクは、ほっと息を吐きだした。
そして、はだけたシャツのボタンを留めながら、自分の後ろから診察の様子を見ていた人物に一瞥くれると、うんざりした顔で言葉を紡ぐ。
「先生もこう仰って下さるのですから、もう普通の生活に戻してもいいですよね。」
ブリタニアへ帰還した当日、皇帝への謁見の後、前後不覚で運ばれてきた事を理由にスザクを2日間ベッドに縛り付けていたシュナイゼルは肩をすくめた。
「そうだね。医師の許可が出たのなら、私としても問題ない。」
「本当に…僕がいくら『もう大丈夫だ』と言っても、先生がいいと言うまではだめだの一点張りで……兄上は、過保護すぎです。」
「お前はすぐ無理をするから。過保護にもなろうと言うものだよ。」
「もう子どもではないんですから。自分の体調管理くらいで来ます。」
「出来ていないから、倒れたりするんじゃないのかな。」
シュナイゼルの突っ込みに、スザクは、ウッと言葉を詰まらせる。
そんな兄弟のやり取りに、侍医が思わず吹き出してしまった。
言い争っていた二人が赤面して顔を見あわせる様子に、侍医の笑みはますます深くなる。
「ああ、失礼。あまりにも仲がおよろしいので、つい……」
「そういう風に見えるかい?」
「見えますよ。羨ましいくらい仲の良いご兄弟です。」
「それは…何よりも嬉しい言葉だね。」
「ええ。本当に。」
シュナイゼルの言葉を受けて頷くスザクの笑顔は、幸せに満ち溢れている。
「失礼します。」
「何だい?」
ノックをして入って来た侍女に、部屋の主であるスザクが答えると
「ヴァインベルグ卿がお見えになりました。」
と、来訪者の事を伝える。
「ヴァインベルグ卿?」
「ああ。すぐにいくから、待ってもらってくれ。」
「かしこまりました。」
事情が解らないと言う顔をしているシュナイゼルに、スザクは少し愉快になりながら
「ジノに、迎えにくる様に頼んだのです。」
と言った。
「何だって?」
ますます困惑の色を深めるシュナイゼルに、スザクはクスクスと笑みをこぼす。
「迎えが来てしまえば、兄上も僕を閉じ込めておく訳にもいかないでしょう。
ジノなら、護衛としても申し分ないですし。」
「それはそうだけどね。ラウンズを陛下からお借りするのは……」
「今日私は非番ですので、そのご心配には及びませんよ。」
気がつけば、白い騎士服に身を包んだ長身の若者が、悪戯っぽい笑顔で入り口に立っている。
「ジノ。」
「ヴァインベルグ卿。」
「ご無礼をお赦し下さい。久しぶりの殿下からの呼び出しに大人しく待っていられず、お部屋まで参上してしまいました。」
おどけて挨拶する、ナイトオブスリーに、室内の皇子達から笑みがこぼれる。
「いや、構わないよジノ。君は、スザクの大事な友人だからね。多少の無礼は大目に見よう。」
「ありがたき幸せ。」
「ジノも兄上もそのくらいにして。
それでは兄上。出かけて参ります。」
「どこへ行くんだい。」
「アリエス宮です。 誰かさんのおかげで帰還の挨拶が済んでませんから。」
「父上にも困ったものだね。」
「──兄上……!」
咎めるようなスザクの口調に、シュナイゼルはまた肩をすくめ。行っておいでと送り出す。
皇帝の騎士と肩を並べて出て行くスザクを見送ったシュナイゼルは、退出する機会を逸した侍医と顔を見あわせた。
「本当に。逞しくなられましたな、スザク様は。
初めてあの方を診察した時は、成長できるか危ぶんだものでしたが。」
「やはり、危険な状態でしたか。スザクは。」
「正直、心の病で死んでしまわれると思っていました。
それが、こんなにも好青年に成長されたのは、ひとえに、シュナイゼル様が愛情を注がれたからだと思います。
スザク様は、全幅の信頼を殿下に寄せていらっしゃる。それは、端から見ていてもよくわかります。」
侍医の言葉に、シュナイゼルは嬉しそうに頷いた。

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