a captive of prince 第3章:ゼロ - 1/4

ペンドラゴン皇宮内には、皇族のためのサロンがある。
皇帝の月例謁見に集まった皇族のための控えの間なのだが、皇族同士の交流の場として利用される頻度が高い。
今日も、クロヴィスの葬儀に参列した後、続々と集まって来ていた。
と、いうのも、エリア11代理執政ジェレミア・ゴッドバルト辺境伯が捕らえた、クロヴィス・ラ・ブリタニア殿下殺害犯が、公開護送される映像を見るためである。
スザクが、シュナイゼルと共にそこを訪れると、既に主立った上位皇位継承者達が集まっていた。
「スザク。シュナイゼルお兄様。」
真っ先に声をかけて来たのは、第三皇女のユーフェミアだった。
彼女の声に、他の皇族等も一斉に彼らを見る。
「やあ。皆さんお揃いですね。」
「ちょうど良かった。そろそろ始まるようだよ。」
第一皇子のオデュッセウスが、2人に自分の近くの席を勧める。
2人が席に着くと、スザクの隣に座る第五皇女のカリーヌが楽しそうに話しかけて来た。
「笑っちゃうわよ。この犯人『枢木スザク』を名乗ってたんですって。」
スザクは、ここにいるのにねえ。とコロコロ笑う。
その言葉に、何人かが顔をしかめた。
「またか。」
「次から次へと、よく湧いて出て来るものだ。」
「父上が公式に発表しないから、皇族を名乗る不逞の輩が後を立たない。」
「それだけ『枢木』の名前が、イレヴンにとっては象徴的な意味があるのだろうね。」
オデュッセウスのため息まじりの言葉に、周りの者が頷く。
エリア11で『枢木』姓を名乗るテロリストが出没する様になって久しい。
年に2,3人は枢木を語る紛い物が捕らえられ処刑されている。それでも後を断たないのは、イレヴンの中で枢木ゲンブが”最後の侍”と神聖視されている事が大きく寄与する。
兄弟達の会話に小さくため息をついたシュナイゼルが隣に座る弟を見やれば、彼らの話に意を介した様子もなく、殆ど表情を殺して中継画面を見つめている。
モニターは、アナウンサーの声と共に殺害犯とされる名誉ブリタニア人をアップで映し出した。
その瞬間、スザクの表情に変化が現れた。
驚きにその目は大きく見開かれ、視線が食い入る様に画面に注がれている。
「スザク?」
弟の異変に声をかけると、少し青ざめた顔を向ける。
「──知り合いです。あの人……。」
「あの、名誉ブリタニア人かい?」
「はい。彼はキョウト六家の1つ刑部家の人間のはずです。名は……」
”刑部賢吾”と、アナウンサーが高らかに容疑者の名前を読み上げる。
「刑部賢吾は、刑部家当主の庶子です。後継となる嫡子を先の極東事変で亡くしていますが、普段から素行の悪かった彼を後継には指名しなかったようです。2年前、賢吾は名誉ブリタニア人となって入隊。キョウトとは絶縁状態です。」
シュナイゼルに、影のように付き従っているカノンが、手にした資料を読み上げる。
「入隊当初から枢木スザクを名乗り、名誉の部隊ではずいぶんと幅を利かせていたようですわ。」
「それじゃあ。結構目立っていたんだろうね。」
「あの人は昔から粗暴な性格で、なんでも自分が中心にいないと気が済まないところもあったから……
僕も何度か喧嘩しています。
………全然変わっていないんだ……」
ぼそりと漏らした言葉には、そんな事だから目を付けられるんだと言う響きが含まれている様に感じられて、シュナイゼルは苦笑した。
呆れと同情の入り乱れた表情で画面を見つめるスザクが、再び驚愕に固まる。
彼だけではない。その場にいた全ての者の表情が凍った。
刑部を前方に固定し見せしめるためにゆっくりと動く車列。その行く手を阻む様に立ちふさがる山車。
それは、エリア総督が公式行事でパレードに使用する物に酷似している。その山車の上に立つ黒尽くめの仮面の怪人。
山車が火を噴き、怪しげな装置が姿を現すと、一同息を呑んだ。
「ね、ねえ。スザク。あれは一体何?」
先ほどまで楽しげに見ていたカリーヌが、怯えた表情で問いかける。
「おそらく…シンジュク事変でテロリストに奪われた物ではないかと……」
「報告では、毒ガス……だったね。」
シュナイゼルも、緊張した声でスザクの答えを補足する。
「そのような物を、あのような場所で……!」
怒気を孕んだ響きで、コ-ネリアが唸った。
怪人は「ゼロ」と名乗り、そしてこの中継を見る全ての者を驚愕させた。
『クロヴィスを殺したのは、私だ。』
機械で変えているのであろうか。低音のよく通るその声が、水を打った様に静まるサロンに響く。
そしてゼロは刑部の解放をジェレミアに持ちかけ、脅しに屈しないと知ると新たな脅迫を試みた。
『良いのか。公表するぞ、オレンジを。』
「オレンジ?」
脅迫されているジェレミアも、何のことを言っているのか解らないという態度を取っていたが、見逃せと迫るゼロに
「いいだろう。その男をくれてやれ。」
と、刑部を解放してしまった。
「ジェレミア卿!?」
あまりの事に思わず立ち上がったスザクの横で、カリーヌが罵声を浴びせかけている。
「ジェレミア卿が、脅しに屈した……?」
呆然と画面を見つめる一同の中、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がった人物がいた。
「行くぞ。ギルフォード。」
「はっ!」
第二皇女。戦女神の二つ名を持つコーネリア・リ・ブリタニアである。
つかつかと歩き始める姉姫に、ユーフェミアがあわてて腰を浮かせる。
「お姉様。どちらへ?」
「皇帝陛下に謁見を申し込む。」
「お父様に?」
「エリア11の総督に指名して下さる様にお願いするのだ。」
そう答え、さらに歩調を早めてサロンを去ろうとする姉とその騎士の後を追うために、ユーフェミアも立ち上がった。
「待って下さい。私もご一緒しますわ。
それではお兄様、お姉様方。お先に失礼します。」
挨拶もそこそこに、ユーフェミアもサロンを去って行った。

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