a captive of prince 第2章:ペンドラゴン - 6/7

帝都ペンドラゴンに次ぐ第二の都市ネオウエルズ。ここに、皇帝の妻たる皇妃とその子どもたちが住まう離宮が建ち並ぶ広大なエリアがある。
その離宮群の最も奥まった場所に、その城は存在した。
アリエスの離宮。百人以上もいると言われる皇妃の中で最も皇帝の寵愛を賜りながら、凶弾に散った悲劇の皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアと、ルルーシュ皇子、ナナリー皇女が住んでいた城である。
貴族出の皇妃の居城のような華やかさはないが、周りの自然ととけ込むような静かな佇まいは、スザクを始め多くの者に愛されている。
主達を失っても尚美しい姿を留めていられるのも、ここを愛する者達が丹精して手入れをしているからに他ならない。
その美しい城の中で、訪れる者全てが感嘆する庭園。
色とりどりのバラが咲き乱れるバラ園に、スザクと、帝国十二騎士の第三席、ナイトオブスリーの称号を持つ騎士、ジノ・ヴァイベルグの姿があった。

パチン、パチンとハサミの音も軽やかに、美しく咲いたバラを切っていく。
スザクやジノだけではない、多くの使用人が同じ様にバラを摘んでいる。
明日、クロヴィスの葬儀で棺に手向ける白バラである。
皆が白い花を選んでいる中、スザクだけは赤やピンクといった明るい色の花も選んでいる。
「それは?」
ジノの問いかけに、スザクは小声で答えた。
「これは、大切な友達の分。この奥に眠っている……一緒に来るかい?」
スザクに誘いに、ジノは二つ返事で庭園の奥、常緑樹の生い茂る林へついて来た。
林の入り口付近にひっそりと三つの墓が並んでいる。
それぞれの墓に、かつてこの城で生活していた人たちの名が刻まれている。
「これは……ヴィ家の方々の。」
「僕が、兄を通して陛下にお許しを頂いて作ったんだ。
マリアンヌ様は皇族陵にいらっしゃるが、ルルーシュとナナリーは入れないから……せめて、家族3人仲良く眠れる様に。」
敵地で戦争に巻き込まれて死んだ兄妹は、廃嫡されたために母と一緒の墓に入る事が許されなかった。
死亡したという報告のみで、遺体が本国に戻る事もなかった彼らには墓すらもなかったが、この城の管理を兄から引き継いだ際に作ったのだという。
「陛下がよくお許しになったなあ。」
「こんな些細な事、あの方にはどうでもいい事なんだよ。
お伺いを立てた兄上に、『そんなつまらぬ事に、貴重な時間を割かせたのか』と仰ったそうだよ。
兄上には、申し訳ない事をしてしまった。」
「おやおや。」
ジノは、肩をすくめた。
「以来、国を離れた時など必ず挨拶に来る様にしているんだ。」
そう言いながら、花束をそれぞれの墓に供える。
「白い花は供えないんだな。」
「マリアンヌ様は、華やかな物がお好きだったそうだから……それに、僕はまだ希望は捨てていない。」
そうスザクが見つめる兄妹の墓には、あるべき物が記されていなかった。
「……没年がない。」
「そう言う事。2人が死んだと言う確かな証拠が出るまでは、どこかで生きていると信じてる。」
「だったら、何故墓なんか。」
作ったのかと問うジノに、スザクは寂しそうに笑う。
「ここに来る口実がほしかったんだ。
皇族の中には、不浄の城と言って忌み嫌う人も少なくない。僕がここに通う事で、兄上の評価が下がる事もしたくないから……。」
墓を作って魂を慰めるために通っている事にしている。
「本当は、ルルーシュやナナリーと話がしたくて来るんだ。」
ここには、二人の息づかいを感じるから……
「だったら、私がいつまでも一緒では、落ち着いて話せないな。
少し離れているよ。クロヴィス様の事を報告するんだろ?」
「うん……ありがとう、ジノ。」
「どういたしまして。 それでは殿下、ごるゆりとお話し下さい。」
おどけて頭を下げるジノに笑顔で応えると、スザクは、ルルーシュとナナリーに話し始めるのだった。

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