a captive of prince 第2章:ペンドラゴン - 4/7

シュナイゼルが駆けつけると、スザクの部屋の前では多くの従者がおろおろとしている。
侍女の一人が、おずおずとスザクに呼びかけ部屋に入ろうとするが、叫び声とともにクッションが投げつけられる。 その様子にシュナゼルは眉根を寄せた。
「スザクの様子は?」
近くの侍従に尋ねれば、シュナイゼルを見てほっと肩をなで下ろす。
「先ほどから落ち着かせようと試みているのですが、すっかり怯えてしまっておいでで誰も近づけさせてくれないのです。」
困り果てた様子に静かに頷くと、スザクの部屋に足を踏み入れる。
部屋の中は物が散乱し、酷い有様だ。
「スザク……」
声をかけると、ひっと悲鳴を上げ、
「い、嫌だ!来るなっ来るなぁ!」
と、座っているベッドから手当たり次第に物を投げて来る。
それに構わず近づいて行くと、スザクは恐怖におののきベッドを後ずさる。
ついにベッドヘッドまで追いつめられたスザクは、頭を抱え体を丸めて泣き叫んだ。
「やっやだっ!来ないで!助けて…助けて、誰かぁっ!」
パニック状態のスザクに心を痛めながら、シュナイゼルは身をかがめそっと声をかけた。
「スザク。私だ。シュナイゼルだよ。スザク。」
静かに優しく、何度も呼びかけると、スザクはようやく伏せていた顔を上げた。
「シ…シュ…シュナ…イ……。」
名を呼ぼうとするが、声が続かない。その内スザクの呼吸が著しく速くなり、苦しげに胸を押さえだした。
「スザク!」
「いけない。過呼吸発作を起こされている。誰か、紙袋を!」
持ってくる様にと、シュナイゼルに次いで中に入った執事が指示を出す。
廊下で控えていた従者があわてて動き出した。
「待ってなどいられない。」
そう言うと、シュナイゼルは苦しむスザクを抱き上げると、その口を吸った。
「ん……ん─っ!」
苦しさに、抵抗も出来なかったスザクが声を上げ始めると、シュナイゼルはスザクを抱える手を緩めた。
ゲホゲホと咳き込む背中を撫でさすリ、優しく声をかける。
「もう大丈夫だ。スザク。さあ、ゆっくり息を吸って…吐いて……。」
シュナイゼルの事に合わせて呼吸を整えて行く。
様子が落ち着くのを見計らって乱れた部屋を片付けた従者達が去ると、スザクとシュナイゼルだけが残された。
ベッドに横たえられて、初めて自分の傍らにいる人物にスザクが気がついた。
「シュナイゼル殿下……お戻りになったのですか。」
「つい先ほど戻ったのだよ。それよりスザク。私に対して『殿下』と言うのはおかしくはないか。」
「あ……え…と。」
シュナイゼルの指摘に、戸惑ってしまう。
「私は、お前のなんなのかな。少なくとも、私はお前を使用人や部下とは思っていないのだけどね。」
「あっ。」
そう言われて、スザクの表情は千変万化した。驚きから戸惑い、そして頬を赤らめる。
「ん?どうしたんだい?」
もじもじと恥ずかしそうにしていたスザクではあったが、意を決した顔を浮かべる。
が…毛布の中に顔を半分かくして、小声で
「あ…兄上……。」
と、つぶやく様に呼んだ。
「うーん。まだ、その呼び方には不満だが、しかない。今はそれで我慢しよう。
ただいま。スザク。」
優しく微笑むシュナイゼルに、スザクもやっと笑顔が戻った。
「お帰りなさい。シュナイゼル…お…お兄様……?」
恥ずかしそうに、たどたどしく言う姿に、自然と笑みがこぼれる。
しばらくの間、二人は顔を見あわせてくすくすと笑いあった。
やがてスザクは、シュナイゼルの手を握りながら安らかな眠りについた。
しっかりとすがりつく様に手を抱え込んで眠るスザクの髪を空いた手で撫でながら、自分の心が満たされているのをシュナイゼルは気がついていた。
この小さな子どもが、自分の中で大きな存在になっていく…それは、とても喜ばしい事だと思う。
「コーネリアやルルーシュも、妹をこういう気持ちで思っているのだろうか……」
同腹の妹を持つ弟妹の気持ちが少しわかったような気がして、愉快になった。
「私にこんな安らぎを与えてくれるとは……」
そのスザクを苦しめる皇帝に怒りを覚える。
「陛下には…陛下にだけは、スザクを奪われてなるものか。」
シュナイゼルは、憤怒の表情でつぶやく。
雷が光り、雷鳴が大地を揺るがせた。

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