Present - 2/3

超合集国定例評議会。3日間の会議の最終議案は、ゼロの特別顧問解任についてだった。
満場一致で可決され、ゼロは、世界の行く末を見守るだけの役割になった。
会議後、ゼロの控え室にはスザクに縁のある者達が集った。
「出来れば、お別れの会を催したかったのですが……」
「そのようなお気遣いは無用です。」
「ええ。そう言われると思ってました。ですから私達、ゼロのこれまでのご苦労に労いと感謝をこめて、記念になるものをお渡ししようと思って……」
「記念品。ですか。」
「いいえ。品ではありませんの。でも、きっと気に入って下さると思いますわ。出来れば、末永く愛して下されば、きっと本人も満足でしょう。」
「───?」
神楽耶とナナリーの言葉に訝しげなゼロを見て、周囲から笑みがこぼれる。
「さあ、ゼロ。どうぞこちらへ。」
ナナリーが車いすで、続き部屋の扉へと誘導する。
「ナナリー代表?」
問いかけるゼロに、笑顔で応え、扉を開くよう勧める。
言われるまま扉を開くとそこには……
玉座の様に贅を凝らした大きな椅子に座する男の姿があった。
肘掛けに肘をつき、胸の前で指を組んでいる。
左足を高く組んだ慇懃な態度でこちらを見つめる紫紺に、ゼロは声もたてずに立ちすくんだ。
男は、組んでいた足をとくと、椅子から立ち上がりゆっくりとゼロに近づく。
不敵な表情は崩さずに……
男が歩く度に、その艶やかな黒髪がさらさらと揺れる様を、スザクは呆然と見続けた。
そして男の手が上げられ、目の前の紫電に移り込む自分を見つけた。
カランと金属音が静寂の中に響く。
「あ……っ。」
言葉が上手く出ない。もたつく舌に苛立ちながら、口を動かすが声にならなかった。
男の手が、スザクの左頬に触れた瞬間。堰を切った様に瞳から涙が流れ出した。
「お前はいつも泣いているな。」
苦笑まじりにかけられた言葉に、ついにスザクから声が発せられた。
「ル……ルルーシュッ!!」
倒れる様にすがりつく。その体をルルーシュは優しく受け止めた。
「貴方の騎士をお返ししましたわよ。お兄様。」
「ああ。確かに受け取った。」
「ナナリー?」
少々剣のある兄妹の会話に、ルルーシュの肩に預けていた顔を上げ、彼女を見る。
ナナリーの口元は確かに笑みを作っていたが、その目は射抜く様に鋭く自分の兄を見据えている。
「お二人とも、まだ喧嘩の最中のようですわね。」
「喧嘩?」
事情の飲み込めないスザクの耳に一番身近な女性の声が届く。
「つまり。忠義の騎士が、最後の最後で主の命に背いたのさ。」
「ジェレミア卿が?」
「ああ。密かにルルーシュを助け、その身柄をナナリーに預けた。」
扉を境に向こうの部屋に残る者の中から、C.C.とジェレミアが姿を現す。2人ともばつの悪そうな顔をしていた。
C.C.の話で全てを察し、ルルーシュを見る。
「スザク。今まで、我が愚妹がいろいろと世話をかけた。すまなかったな。」
「いいえ。愚兄の我が儘につき合って、これまで多くのご苦労をおかけしました事を、本人に成り代わってお詫び申し上げますわ。」
「誰が愚兄だ。母を失ってから7年間、献身的にお前を育てた兄に向って。」
「命の恩人に向ってどのツラ下げて、愚妹などとほざくのです。
私の事を言い訳に、やりたい放題世界をかき回してきたくせに。」
「貴様。まだ言うか。」
「何遍でも申し上げますわよ。この独りよがりの自己満バカ兄貴!」
「何を言うか。折角人の真意を見抜く能力を持ちながら、シュナイゼルにいい様に利用されて、捨てられた愚か者の分際で。」
「さんざん他人を巻き込んで。最期はスザクさんに自殺の手伝いまでさせて、後始末は丸投げしてやり逃げした卑怯者のくせに!」
「なっ。あれは…あれは、俺とスザクが考えた、俺たちの精一杯の贖罪だったんだぞっ!」
「それが、独りよがりだというのです。そんな事を誰が納得するというのです。貴方がした事は、残された者の傷を拡げただけでしたわ。
私達が、ゼロとして世界に尽くすスザクさんを見て、何も思わないとでも?
お兄様を求めて涙するスザクさんに気がつかないとでも思ったのですか。」
「ちっちょっと、ナナリー?」
突然自分の事に言及され、赤面するスザクを、ルルーシュが強く抱きしめる。
「だから。これから先は、俺がスザクに尽くすと言っているだろうっ!」
怒鳴るルルーシュに、一同がにやりと笑う。
「スザクさん。こんな愚かな兄ですが、どうか受け取って下さい。
本人もこのように申しておりますので…どうか末永くよろしくお願いします。」
「でも……いいの?僕がルルーシュ貰っても。」
「本人の希望ですから。自分の死を認めないと言うなら、世界に貸してある騎士を返せと。」
「その言葉を切っ掛けに、今日まで何ヵ月も兄妹喧嘩を続けているのよ。」
カレンが呆れ顔で言うと、ナナリーは未だ不満げに顔を膨らませる。
「誰が、貴方の騎士を貸してくれと頼んだのです。勝手に置いていったくせに。
スザクさん。こんな我が儘な男につき合っていられないというのであれば、いつでも捨てて頂いて結構ですわ。世界のためにうんとこき使ってあげます。」
「駄目だよ。ルルーシュは世界に渡さない。ずっと僕のものだ。」
嬉しそうに笑うスザクに、ルルーシュが反論する。
「違うな。間違っているぞ。スザク、お前が永遠に俺のものだ。」
そう言って、見せつける様にスザクの唇を奪うルルーシュだった。

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