Present - 1/3

優しい夢を見た。懐かしい…美しい人の…その人の温もりに包まれた優しい夢……
目覚めたとき、自分が涙を流しているのを知った。
「ルルーシュ……」
君に会いたい…君に触れたい…君の息づかいを…声を…聞きたい……!
「C.C.君のせいだ。」
あんな風に、ルルーシュと再会させたりするから……!
自分が、コード無しでCの世界につながれる力を持つ事を知ってしまったから。
自分の中のルルーシュへの想いが、欲求が…強くなっていくのを押さえられない。
「最近、ルルーシュとつながれない事が多いんだ。」
『久々にあって、甘える事を覚えてしまったからか。だから余計そう思うのだろう。』
からかうような魔女の声が忌々しい。
「自分の感情がコントロールできない事が怖いんだ。
僕は、こんなにもルルーシュに依存してしまっている…きっと、それを彼も危惧しているんだ。だから、呼びかけに応じてこない。
最近は、政治的な案件の相談くらいにしか応じてくれない。」
近頃では、それすらもただ笑って応えるしかしない…アドバイスもない。
『それはつまり、ルルーシュが口を出すまでもないという事だろう。
今、世界は安定してきているからな。目立った不安材料がない。
ルルーシュがまいた種が芽を吹き、花を咲かせようとしている証拠だろう。』
「……だったらいいけど……」
『何か心配事でもあるのか。』
「いや。具体的に何がという訳はない。勘と言うか…何か胸の中でざわつくんだ。それが何なのか解らない。」
だから不安になる。ルルーシュ…僕は、どうしたらいい?

 

ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…
機械音が正確に時を刻む。それは、そこに眠る人物の鼓動とシンクロしている。
「お兄様……」
幼い頃より片時も離れず育った人と引き離され、その人を失ってからどれほどの時が経ったのだろう。
今、その人の身体は自分の元にある。だが、心は…、まだ手に入れられない。
もう、戻ってこないのかもしれない。
一番身近にあったはずの自分が、信じる事が出来なかった。
彼の人の思惑だったとしても、一番手酷く拒絶してしまったのは自分だ。
「もう、戻ってきて下さらないのかもしれないですね。」
自分の傍らに立つ人物に話しかける。
「だが、お前は戻ってきて欲しいのだろう。」
「ええ……」
「戻ってきたらこいつになんと言うつもりなんだ?謝罪などきっと受け付けないぞ。」
「そうでしょうね。何故、そのままにしておかなかったのかと、凄く怒るでしょう。もしかしたら二度と口をきいて下さらないかも。」
「ナナリー。何故、こいつを助けようとする。贖罪のためか?それとも自分の欲か。」
「……多分欲です。私はきっと救われたいのです。自分にとって大切だった人達を犠牲にして、今ものうのうと生きている浅ましい醜い自分を認めたくないのです。
最期の時、“愛しています”と言ったその口で、その人を悪し様にいい、世界から賛辞を受けているこの道化のような自分を救ってくれるのは、きっとこの人しかいないのだと…未だにこの人に甘えようとしている弱い自分を……」
そう言って自嘲する。
「お兄様がいなければ、私は、永遠に“明日”を迎える事は出来ない…」
そのとき、モニターの機械音が、今までと違う音で鳴った。

 

ブリタニア。帝都ペンドラゴン消失後、新たに政府の置かれた首都ネオウエルズからほど遠くない森林地帯に、ゼロ・スザクの住まいがあった。
人里離れた森の中にあるログハウスの周辺には、最先端の監視システムが張り巡らされ、侵入者を許さない様になっている。
そこにスザクは今、C.C.と2人で暮らしている。といっても、放浪癖のあるらしい彼女がここにいるのは、一年のうち数ヶ月もないが……
そしてスザクも、1年程前までは、ひと月のうち何日か居れればいいという状態だったが、最近はここで生活する時間が長くなった。
ゼロとして人前にでる事が、極端に減ってきたのだ。
そして今、超合衆国最高評議会議長から届いた通信メールを開いたスザクは、PCの前でじっとその画面を見つめたまま動けずにいた。
微動だにしない彼を訝ってその画面を見たC.C.は、フッと笑みをこぼした。
「ゼロもいよいよ引退だな。超合集国特別顧問の任を解くか……」
「僕にとっては死刑宣告だ。これでは、ルルーシュとの約束が果たせない。」
ゼロとして、一生を世界のために尽くすという約束を……
そう言って、文面の最後の行を指す。

───どうか、もう自由になって下さい。貴方は充分に世界に尽くして下さいました───

ルルーシュの死後、最高評議会議長に再任された皇神楽耶の名が記されている。
「──お役御免という事だな。」
ゼロの正体が、一部の人間に知られている事は承知の上だった。
彼らもまた、ルルーシュとスザクの意をくんでくれ、その事に触れてこなかったのだ。
「可愛いじゃないか。ここにある“枢木のお兄様”と言うのはお前の事だろ?」
「もう、捨てた名だ。戦没者霊園の墓に埋めたのだから。」
死んだ者の名を返されても困る。
「ゼロレクイエムからまだ5年しか経っていない。
ゼロとしての生まで奪われてしまっては……」
長い余生をどうやって生きてゆけと言うんだ。
「いつになったら、僕はルルーシュのそばに行けるんだ。
C.C.僕を殺してくれ…自分じゃ死ねないんだ。」
「この私に、そんなことを言うのか。」
C.C.の言葉に、スザクは顔をしかめて俯く。
「……こめん……」
「本当に死にたかったら、ジェレミアに言って、ルルーシュの願いを解除させればいい。そうすればお前の望みはかなうだろう。」
辛辣な響きとは裏腹に、穏やかな表情でC.C.は言う。
「それは嫌なんだ。ルルーシュから貰ったものを手放したくない。」
「矛盾しているぞ。」
「そんな事はない。ルルーシュから貰ったもの、引き継いだものを抱えてそばに行きたいんだ。」
「会おうと思えば会えるだろう。お前なら。」
「Cの世界のルルーシュとは、ここ数ヶ月つながれない。
呼びかけに応えてくれなくなったんだ……
C.C.僕はついにルルーシュに愛想を尽かされたのかな。」
今にも泣きそうな顔を、C.C.は自分の胸に抱き寄せた。
「そんな事はない。あの男がお前を見放すものか。」
「だったら何故……!」
何故応えてくれないの…ルルーシュ。
耐えきれず翡翠から溢れる涙を吸いながら、C.C.はスザクの体をきつく抱きしめる。
「泣くな…お前に泣かれると、私まで辛くなる。」
「だったら…慰めて……」
「同病相哀れむか……非生産的だな……」
それ以上言葉は続かなかった。絡み付く様に身体を重ねる。
世界から解放された英雄を、魔女は聖女の様に慈しんだ。

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