Re;commenece 【Re;gain】 - 3/4

「スザクが、喘息を起こしただとっ⁉」
ラクシャータからもたらされた報告に、ゼロ・ルルーシュがスザクの病室に駆け付けると、そこには、数多くの人間が集まっていた。
「一体何があった。」
入室を許されていない人物が3人もいることに、責任者であるラクシャータに疑問を投げかける。
「勝手に病室を抜け出して、この3人に見つかったみたいなの。そこで、何かあって喘息発作を起こしたそうよ。」
ラクシャータはそう答えると、その場に待機している2名の看護師と、スザクを発見した3人に視線を送る。
それを受けて、スザクの担当看護師が口を開いた。
「午後の検温の後、おやつの時間に病室に来たら、スザク君はもういなくて、彼女と一緒に探しに出たんです。共用通路の手前で彼らに抱えられているのを発見して、その時にはもう喘息を起こしていました。」
「多分、ゼロに会いに行こうとしたんだと思います。昨日のタブレットを持って出てますから。
これを、返しに行こうとしたんじゃないかと……」
そう言って、もう一人の看護師がタブレットを差し出す。
「きっと、そうだと思うぜ。ゼロに、助けてもらった礼を言うって。こいつ、そう言ってたからよ。」
玉城が、顎でベッドの上のスザクを指しながら、そう伝える。
スザクは、今は眠っているようだが、呼吸するたび胸から喘鳴が聞こえる。その苦しげな様子に、ルルーシュは眉をひそめた。
「発作止めの薬を投与したから、そのうち呼吸も楽になるはずよ。
発作を起こした時の状況が知りたいわね。」
ラクシャータは、玉城・杉山・南の3人を一瞥する。
「状況といってもなあ……」
どこから話せばいいんだ。と、玉城が頭をかく。
「扇の見舞いを済ませて帰る途中で、自分らの前を歩いているのを見つけて……足を引きずってかなり辛そうだったから。手を貸そうと声をかけたんです。」
3人の中で、杉山が話し出した。
「その時、どんな様子だった?」
ラクシャータの問いかけに、彼らは記憶をたどっていく。
「───結構、息が上がってたかな。」
確認するように自分を見る杉山に、南も相槌を打つ。
「そうだな──ちょっとした運動をした後のような息遣いだったかもしれない。」
あいまいな答えしかできない。何しろ、重傷で面会謝絶のはずの枢木スザクが歩き回っていることの方が驚きで、相手の様子までは意識が回ってはいなかったのだ。
「杉山が、どこへ行くつもりか聞いたら、ゼロの所へ行くって言うからよ。まだゼロの命を狙ってるのかって言ってやったんだ。そうしたら、助けてもらった礼を言いたいなんて殊勝なこと言いやがって。
そんなこと言って、実は虐殺皇女の仇を討つつもりじゃないのかって言ったら、こいつ、すげえ驚いた顔してよう。」
玉城の説明に、ラクシャータは息を吐くとゼロに視線を移す。
「特区でのことは、教えてなかったんでしょ?」
「ああ──。今の彼にはショックが大きいと思ってな。
特区のことや、反乱については入れてはいなかった。」
そう言って、ゼロは看護師から受け取ったタブレットを見る。
「その配慮が裏目に出ちゃったみたいね。
特区でのことを、話したの……?」
鋭い視線で質問する彼女に、玉城は一瞬息を呑んだ。
「あ、ああ。何のことだって、すごい形相で怒鳴ってくるから、てめえの皇女様が、日本人は虐殺しろって命令しただろうって怒鳴り返したら、腰抜かしてへなへなと座り込んじまって……」
ラクシャータは深々とため息をつくと、小さく首を振った。
「歩行訓練も始めていないうちから歩き回ったことと、『虐殺』なんてショッキングな言葉を聞いたストレスね。」
「ストレスが原因で、喘息を起こしたと……?」
「ストレスって、体の弱いところに溜まりやすいから……」
ゼロの問いかけにラクシャータは嘆息交じりに答えた。
看護師たちが、玉城を睨みつける。彼女らの視線におの,のいて、一歩後ずさった。
「すみません。」
彼らの会話を聞いていた南が、突然頭を下げた。
「彼が、ショックを受けてしまったのは、俺のせいだと思います。皇女が、総督殺しで有名になった枢木を騎士にしたのは、行政特区に日本人が集まりやすいように利用するためだったんじゃないか、という憶測を言ってしまったからだと………」
「なんでそんなこと、本人の前でいうのよっ!」
担当看護師が怒鳴り声をあげる。
「───すまん。」
「俺も……特区の式典会場は血の海だったって言っちまった。あいつ、自分のせいでたくさん殺されたって……真っ青な顔して……」
杉山の懺悔に、彼女は耐え切れずに手で顔を覆って泣き出してしまった。
室内は重苦しい空気に支配された。
南の憶測は、行政特区が公表され参加希望者が殺到した時から、特区に懐疑的な人間の間で囁かれていたことだ。実際の出来事から鑑みれば、彼らの憶測は当たっていたという事になるだろう。それも、想像を超える最悪な形で。
「でもよう。」
空気を読まない男が口を開く。
「こいつだって、あの会場を見ているはずだぜ。
なんで、今更ショックを受けてるんだ?」
「───覚えていないのよ。」
泣き出してしまった同僚を慰めていた看護師が、絞り出すような声で伝える。
「はっ?」
玉城が頓狂な声を上げ、他の2人も驚きで目を見開く。
「けがの後遺症か、直近6年分の記憶を喪失しているの。ブリタニア軍に所属して私たちと戦っていた記憶は、今の彼にはないわ。精神年齢は11歳の子供なのよ。
知らなかった事とは言え、重傷を負った子供には、酷な事を言っちゃたわよね。」
ラクシャータの言葉に、男たちは沈黙するしかできなかった。
ゼロが、スザクの枕元まで進み出る。
「すまなかった。私が中途半端な情報しか渡さなかったために、かえって辛い思いをさせてしまった。」
この言葉に呼応するかのように、スザクの閉じられた瞳から一筋の涙が流れた。
ゼロは、それを指先でぬぐい取ると、右手の手袋を外し素手でスザクの頬に触れる。
「人の体温は、涙に効く……と、聞いたことがある。」
その様子に、科学者で医学博士の女性は目を細める。
スザクの口元が、かすかに動く。何を言っているかと思い、ゼロは耳をそばだてた。
スザクの口から漏れ聞こえてくる音は、人の名前だった。
「ルルーシュ………ナナリー………」
とても微かな声で、意識を集中させていないと聞き取れないほどであったが、彼は確かにそう言っていた。

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