a captive of prince 【extra edition】Prayer - 1/2

「お早うございます。スザク様。」
開かれたカーテンから差し込む光に、スザクは瞬きしながらゆっくりと目を覚ます。
そこには、人懐っこい笑顔の侍女の姿があった。スザク付きに命じられた少女アメリーが、ニコニコとスザクの寝起きの顔を覗いている。
「……おはようございます……。」
一応目は開けたものの、まだぼーっとしているスザクに、眉根を寄せた。
「ご気分が優れませんか?夕べも、なかなか眠れなかったようですわね。ご朝食は召し上がれますか?」
「……大丈夫…食べれます。」
そう言いながら起き上がれば、部屋着を肩からかけてくれる。
「お食事はダイニングにご用意しましょうか。こちらに運んだ方がよろしいですか。」
「あの…シュナイゼル…様は。」
「兄上様は、今日は早朝から会議があると、宰相府の方へ……夕方にはお戻りになりますよ。」
「そう…ですか。」
身支度をするためにベッドから降りたものの、俯いて座り込んでしまったスザクに、アメリーは小さく息を吐く。
「お食事は、お部屋の方にご用意しますね。さ、殿下。お顔を洗っていらして下さい。
その間にお召し物の用意をいたします。」
「はい。あっあの……!」
「お着替えはご自分でなさるのですよね。難しいところだけお手伝いさせて頂きます。」
「──ありがとう。」
にっこりと微笑むアメリーに、スザクもほっと笑みを浮かべると、洗面所へ向う。
部屋からは、クローゼットの衣類を出す音が聞こえてくる。
エル家に引き取られて3ヶ月余「殿下」と呼ばれかしづかれる事にようやく慣れて来たものの、兄となったシュナイゼルをなんと呼んだらいいのか戸惑い、つい「様」付けで言ってしまう。そうすると周りの者が「兄上様」と言い直すという事が日常になっていた。
そして、スザクを悩ませている事のもう1つは、自分専属の従者が付き、身の回りの事など全てやってくれる事である。何しろ、目が覚めたらベッドから降りるだけで、自分では指一つ動かさないうちに身支度ができてしまう。赤ん坊の様に何もしなくても良いという環境には、スザクは戸惑うばかりである。
しかも、自分の担当となったのはどう見ても自分と同じ十代の少女、そんな彼女の前で…と言うか、彼女に自分の裸を晒すというのは、さしものスザクも恥ずかしい。
かといって、この皇族服というのは、自分が着慣れているTシャツやGパンと違って一人では上手く着れない構造になっている。
どうしたものかと考え、アメリーに相談して着れるところまでは自分が着るという案を承諾してもらった。
そうやって徐々に自分の生活リズムを作ろうとしている。
だが、夜になると悪夢に襲われ、それを気にするあまり不眠に陥るという悪循環に苦しめられていた。
夕べも、やっと眠れたのは明け方近くだった。
そんなスザクを側で見ているアメリーは、若いながらも優秀なメイドで、さりげない心配りでスザクを和ませてくれている。
ふわふわとしたアッシュブロンドの髪と大きな青い瞳の彼女は、ナナリーを思い起こさせる。
用意された服に着替えていると、彼女が朝食のワゴンを運んで来た。
ドアの向こうでは、今日はずいぶんと従者達の動きが慌ただしい。
訝っていると、アメリーがニコニコと楽しそうに話しかけてくる。
「今夜、シュナイゼル様主催でパーティーを開くので、その準備をしているのですよ。」
「パーティー?」
「ええ。クリスマスパーティーですわ。仲の良いご兄弟をお招きして、ごくごくお身内だけの。」
「クリスマス……。」
もうそんな時期だったか……スザクの中ではまだ夏のままだというのに…照り返す強い日差し、蝉の声、爆音、硝煙の臭い…血の…生暖かい血の感触……!
「スザク様?」
青い顔で俯くスザクにアメリーが声をかける。
「あ、ああ。ごめん……何でもないです。」
「今日は家庭教師も休みですし、お食事が済まれましたら、サンルームの方へおいでになられたらどうでしょう。」
「サンルームへ?」
「ええ。クリスマスツリーの飾り付けをしていますから。」
アメリーは、それはそれは楽しそうに微笑むのだった。

 

「──大きい……。」
広いサンルームの中央に2メートル近くはあろうかという立派なもみの木のツリーが置かれていた。
それを、何人もの従者が色とりどりのオーナメントで飾り付けている。
「さあ。スザク様も飾って下さい。」
「う、うん。」
初めのうちは戸惑いながら作業していたスザクであったが、綺麗に飾り付けられていくツリーを見ているうちにうきうきとして来た。
楽しそうに飾り付けに興じるスザクを見守る従者達の目はとても温かく、穏やかだ。
最後に星の飾りをてっぺんに飾ろうとしている時に、入り口から声がかけられた。
「やあ。これは立派なツリーだね。」
「シュナイゼル様。」
嬉しそうに駆け寄るスザクの頭を優しく撫でる。
「ただいま。スザク。今日は体調が良さそうだね。」
「はい。皆とクリスマスツリーの飾り付けをしていました。」
「うん。とても綺麗なツリーになったね。それで最後かい?」
スザクの手の中の飾りを指して尋ねると、こっくりと頷く。
「では、手伝おう。」
そう言うとシュナイゼルはスザクを軽々と抱き上げ、自分の肩にまたがせた。所謂肩車である。
「うわっ。」
「シュッシュナイゼル様。」
驚く一同をよそに、シュナイゼルは上機嫌である。
「何。こんな事を一度やってみたかったのだよ。スザク、この高さで届くかい?」
「はい。充分です。」
背の高いシュナイゼルの肩車で、星は難なく飾り付けられた。
「さあ完成だ。スザク、昼食はまだだろう。私もまだだから一緒に食べよう。
会議が、思ったより早く片付いてよかったよ。」
そう言ってスザクを肩からおろすと、そのまま抱いて歩き出す。
「あ、あの。シュナイゼル様。」
「何だい。」
「おろして下さい。歩きますから。」
「いいじゃないか。こういう事もしてみたかったんだよ。」
「で、でも、重いし…。」
「大丈夫。軽いくらいだ。……大分痩せてしまったね。」
「そう…でしょうか。」
「うん。初めて会った時と比べるとね……しっかり食べないと体力がつかないよ。」
「はい……。」
そんな事を話しながら歩く二人をすれ違う従者達はにこやかに見送る。
「やっぱりおろして下さい。恥ずかしいです。」
「ダイニングについたらね。」
「シュナイゼル様。」
困った顔で訴えるスザクをよそに、シュナイゼルは機嫌良く笑うのだった。

 

「今夜のパーティーの事は聞いたかい?」
「はい。アメリーに聞きました。」
「パーティーと言ってもごくごく身内だからね。コウとユフィ、クロヴィスとオデュッセウス兄上をお招きしてる。
余計な者には知らせていないから、スザクも安心していいよ。それから、スザクの話し相手になればと、私の選んだ子供達も呼んでおいた。きっと、スザクも気に入ると思うよ。」
「はあ……。」
昼食の最中も、シュナイゼルは機嫌良く話しかけて来た。スザクが不思議そうな顔で見ていると、シュナイゼルも首を傾げる。
「スザクは、パーティーは嫌いだったかな。」
心配そうに尋ねて来るシュナイゼルに、首を振る。
「いいえ。パーティーは楽しみです。シュナイゼル様も楽しそうだな。と思って。」
「うん、そうだね。身内だけのパーティーなど開いた事ないから、私も楽しみなのかもしれないね。」
「初めてなんですか?」
「私がずいぶん子供の頃…母が健在だった時には、母が私のために開いてくれた事もあったが……その母も死んで久しいからね。
私が主催する集まりは、どうしても政治がらみになってしまうから……
難しい話をしてしまったね。」
「いいえ。わかります。僕も、父の仕事がらみで、大人ばかりのパーティーによく連れて行かれましたから。」
「そうか。それではスザク、今日のパーティーはお互い楽しもう。」
「はい。」
穏やかに微笑むシュナイゼルに、スザクも笑顔で応える。
冬の穏やかな昼下がりの事だった。

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