a captive of prince 【extra edition】殿下たちのお正月

 スザクがブリタニアに来て1年が過ぎ、2度目の新年を迎えたある日、エリア11となった日本に総督として赴任しているクロヴィスが、シュナイゼルとスザクが住まう離宮にやって来た。
 ニコニコと何やら大量の荷物を従者に運ばせると、それらをいそいそとスザクの前に並べ、興奮気味にまくしたてる。
「スザクにお土産だ。見てくれ、全てエリア11で見つけた民芸品だよ。
いやー、実に素晴らしい。この繊細な美しさ、愛らしさ。この色使いは、ブリタニアにはない物だ。
聞きしに勝るとはこの事だ。日本人の手仕事の素晴らしさには感服するよ。」
「ほお。確かに美しい細工だね。この箱は、木を組み合わせて作ってあるのかな。
木目の色の違いで模様を作るとは……。」
 そう言ってシュナイゼルがしげしげと見つめているのは、寄木細工の箱である。
「これは、模様の美しさもさることながら、もっと面白い細工があるのです。」
 クロヴィスが箱の一部をスライドさせると、蓋がずれて収納スペースが現れる。さらに横の一部も動く様になっており、そこをずらせば小さな引き出しが出現した。 
 これには、シュナイゼルも感嘆の声を上げる。
「面白い物だね。スザク、これはなんと言う物かな。」
「え…と…寄木細工と言って、薄く小さく切った木を組み合わせて作った箱で、こういう風に仕掛けがある物をからくり箱といいます。」
「こういう玩具ばかりではないのですよ。釘を使わずに家具を作ってあったりするんです。
素晴らしく緻密な細工で、驚きました。」
 他にも色々あるのだと、小さな物を見せる。
「スザク。これは子供の玩具かな。」
 ずらりと並べられた木の玩具に、スザクは目を細めた。
「ええ、そうです。懐かしいな……。」
 たった1年…だが、その日々はスザクに取ってどれほどの時間だったか……2人の兄は、スザクの様子に眉根を寄せた。
「そうだ。他にも沢山玩具やゲームらしき物を持って来たのです。
ユフィやジノ達も呼んだら喜ぶかもしれませんね。」
「それはいいね。皆を招待して、新年会を開こう。」
 兄達の盛り上がりぶりにスザクが唖然としているうちに、トントン拍子に話が進み、離宮内に賑やかな笑い声が響きだした。
「スザク。この愛らしい人形のような物は何ですの?」
「この綺麗な模様の紙も遊び同具なのか?」
「姉上。これは美術品でしょう。」
 わいわいと、クロヴィスの持ち込んだ物に興味津々のコーネリアとユーフェミアに、スザクの笑みがこぼれる。
「この、人形のようなもはこけし、この紙は千代紙と言って、こうやって折って形を作って遊ぶんです。」
 そう言って折り鶴を作ってみせる。
「まあ!紙が鳥になりましたわ。」
「すごいね。」
「殿下。他にも作れる?」
「うん。」
 アーニャのおねだりに、他の物を作ってみせる。
「舟。」
「これを。こうやると……」
「おおっ。向きが変わった!」
「おもしろい。」
「殿下。殿下。この木枠に貼られた紙は何ですか?」
 ジノが持って来た物を見てスザクの顔がほころぶ。
「これは凧だよ。」
「カイト?これが!?」
「ブリタニアの物とは全然違うね。」
 シュナイゼルも、和凧を手に取ってしげしげと見つめる。
「殿下。これ、飛ばせますか?」
「え…と。うん。たこ糸もあるみたいだから飛ばせるよ。」
 ちょっと準備しないといけないけど。
「それじゃあ。後で遊んでみたらいい。この木のボールがついたハンマーのような物も遊び道具だね。」
「これは、剣玉という遊びで、この玉をここに刺したり、このお皿の部分に乗せて遊ぶんです。」
 実際にやってみせると、全員が歓声を上げた。
「面白そうですね。やらせて下さい。」
 早速ジノが挑戦する。
「スザク。こっちにカードゲームらしき物が色々あるのだが。」
「こっちはカルタで、これは花札というゲームです。」
「この、カルタというのは絵の札と文字の札があるのだな。
「この文字札が、絵札の説明になっていて、トランプの神経衰弱の様に床に散らばらせた絵札を読み上げた文字札から探して。早く取る事を競うんです。」
「花札はどうやって遊ぶのだ?」
「トランプのポーカーのように札の組み合わせで強さが決まっているので、それを競って遊ぶんです。」
「この、絵が色々書かれた紙と、大きな顔の紙は?」
「こっちが双六、こっちは福笑い。どちらも簡単なゲームで楽しいですよ。」
「では、早速やってみよう。」
 好奇心旺盛なクロヴィスの音頭で、ゲーム大会が始まった。
 さんさんと陽光の降り注ぐサンルームは、子供達の歓声に包まれ、離宮で働く者達の表情を柔らかくさせる。
 ゲームの後は、コマ回しに凧揚げと、サンルームの前庭で元気に遊び回る子供達を紅茶を楽しみながら見守る年長者達の表情は穏やかだ。
「クロヴィス。今日はありがとう。こんな風に生き生きと遊ぶスザクを初めて見たよ。」
「いいえ。私も、スザクがこんなに喜ぶとは、感無量です。」
「こんなにたくさんの民芸品…集めるのも一苦労だったろう。」
 コーネリアの問いかけに、クロヴィスは大きく頷く。
「そうですね。占領直後に一斉に処分されてしまいましたからね。
頭の固い文官どもに、破棄せずに保管する様に徹底させるまでにずいぶん骨を折りました。
兄上。私はこの度の事で、エリア政策が本当に正しい物なのか疑問を感じましたよ。
占領した国の土着の文化を根こそぎ破壊し、我が国の物を押し付ける……
なんでも力づくのやり方で、果たして良いものだろうかと……。」
「しかし、占領された国々は負けたのだから、仕方ないのではないか。」
「だからといって、彼らのささやかな楽しみまで奪う権利はないのでは?
姉上も、楽しんでいらっしゃったではありませんか。」
「う……そうだな……」
「国を奪われ、占領されたのは、その国の大人達の責任ですが、そのつけを次代を担う子供達に払わせるのは、いかがなものかと……
いまこうしてスザクの様子を見ていて、つくづく思うのです。」
 クロヴィスの言葉に、大人達は今一度楽しげに遊ぶ子供達を見やる。
「兄上。私の考えは、エリアを治める総督としてはいけない事でしょうか。」
「──いや。エリア政策の根幹に影響を及ぼすものでなければ、総督の裁量でいくらでも対応できるのではないかな。彼らの文化をある程度保護する事で、エリアの治安や生産性が上がるというのであれば、それは立派なエリアの施策であると私は思うよ。」
「ありがとうございます。エリアに戻ったら、早速条例の立案を提案します。」
「頑張りなさい。」
「はい。」
 嬉しそうに笑うクロヴィスに、シュナイゼルとコーネリアが頷く。
 政治に全く感心のなかったクロヴィスが、エリア政策に意見を持つ様になった事に、シュナイゼルは兄として喜びを感じていた。
 スザクの存在が、兄弟達の意識にも良い影響を与えている。

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