a captive of prince 第20章:対話 - 5/7

「お久しゅうございます。ルルーシュ殿下。」
 笑顔で自分に語り掛けてくる少女に一瞬目を見張ったが、その反応に肩の力が抜けたのをルルーシュは感じた。
 そして、無意識に安堵の笑みを浮かべていたらしい。というのも、神楽耶が自分の様子に「あら、あら。」と声を漏らしたからだ。
「私がもっと驚くと思っていらしたのでしょうか。」
 でしたら、申し訳ありませんでした。と笑う彼女にルルーシュも笑みでこたえる。
「私の事を覚えてくださっていたのですね。」
「忘れるも何も。私にとってルルーシュ殿下は恩人に等しい方ですから。」
 記憶から消えようもございません。とまた、微笑む。
「恩人?」
 思いもよらぬ言葉を反復するルルーシュに神楽耶は大きく頷いてみせる。
「私に、上に立つ者の『矜持』を教えてくれた方ですもの。あの時、あなたに出会わなければ、今の私はきっと存在していなかったと信じています。」
 ただ1回の邂逅であった。それを忘れずにいてくれたという神楽耶に、ルルーシュは驚きと共に感謝の念も覚える。
「ありがとうございます。」
「私の方こそお礼申し上げますわ。生きていてくださって……私たちをここまで強く導いてくださって。何度感謝申し上げても足りないくらいですわ。」
 二人は、顔を見合わせ何度目かの笑みを浮かべる。
 実は、ゼロさまの正体が殿下ではないかと考えたことも何度かございましたのよ。と、神楽耶は言う。
「桐原が、日本人ではないがゼロさまのブリタニアに対する怒りは本物だと言った時、一瞬殿下の事を考えましたの。ですが……」
「死亡したということにしていましたから。」
 ルルーシュの言葉に、神楽耶も小さく頷く。
「あの貴族が、ずっと日本でかくまっていたとは思いませんでした。」
 神楽耶が自分の生存をこんなに喜んでくれるとは心外だった。仮面の下がブリタニアの皇子と知ったら、確実に激昂すると思っていた自分が恥ずかしくさえ思う。
 ひとしきり再会を喜ぶと、神楽耶は真剣な表情を浮かべる。
「ルルーシュさまには確か妹姫様がいらっしゃいましたわね。あの方は……」
「ええ。今はエリア11の総督をしています。」
 ルルーシュの言葉に、神楽耶の表情が厳しくなる。
「何故、ナナリーさまはブリタニアに?」
「ブラックリベリオンのどさくさに紛れて本国に連れ戻されたのです。」
 ルルーシュの言葉を受け、神楽耶は思案気な表情を浮かべる。
「ブリタニアはゼロの正体を知っているとおっしゃいましたわね……では、ナナリーさまは……」
「私を抑えるための駒です。」
 その答えに、神楽耶は納得いったという顔をする。
「分かりましたわ。ルルーシュさまが何故ゼロになられたのか……全ては、妹姫様のためですわね。」
 全て打ち明けなくとも理解した神楽耶の洞察力に、ルルーシュは感嘆する。優秀な人物であると理解していたが、まさかここまでだとは……
 いや。おそらく自分が何も見てこなかったのだ。自分の周りに集まってくる人物は、すべて駒と考えていた。
 己の目的を成就させるための駒。
 ブリタニアに対抗するためにはそのくらい非情でなくてはならないと信じていた。
 正直侮っていたのだ。目の前にいる少女を…自ら立ち上げた「黒の騎士団」に集った仲間たちを。
 もっと早くに素性を明かしていれば、ブラックリベリオンは、あの時とは全く違った結果になっていたのかもしれない。
 自嘲するルルーシュの表情を、神楽耶が不思議そうな顔で見ていた。

 ブラックリベリオンで戦線離脱した理由とそこでナイトオブワンに捕らえられたこと、その後、エリアに戻されアッシュフォード学園の学生として監視軟禁されていたことを説明したが、ギアスや現在の状況を説明するまでの時間はなかった。
 自分に同情するあまり、ブリタニアに対する怒りがさらに膨れ上がった神楽耶が、今は共闘関係にある自分の兄弟たちを睨みつけているこの状況をどうやって変えるか思案してると、自分の目の前にに座る次兄も困ったという表情で、嘆息している。
「ルルーシュ。彼女にはどこまで話したのかな。」
「私の素性と、黒の騎士団を離れていた間の事までです。」
「そうか……」
 そうつぶやくと、シュナイゼルは肩をすくめた。
「皇さん。誤解されるのは当然の事だと思いますし、事実私たちが行ったことは糾弾に値します。
ですが。私たちもルルーシュたちを救い出そうとしていたことはお伝えしたい。」
 穏やかに語り掛けるシュナイゼルの声に、悔恨の情を感じ、神楽耶はブリタニア皇族たちに向けていた怒りの矛先を収め、帝国宰相の懺悔に耳を貸すのだった。

3

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です