a captive of prince 第20章:対話 - 7/7

「嘘のない世界?」
 首を傾げて尋ねかけてくる神楽耶に、C.C,は「いや、違うな……」と呟く。
「正確には、嘘をつかなくていもいい世界だ。」
「人が、なぜ嘘を吐くことができるのか。それは、自分の内面を他者に透視されないという大前提があるからだ。だから、腹にに一物抱えながらも、表面的には穏やかに対話を成立させることもできる。」
 そう言って、彼女はシュナイゼルと神楽耶を交互に見てクスリと笑った。二人は、居住まいを正して互いを見るとふっと笑みを漏らす。
「C.C.……」
 咎めるような視線を送り、スザクが話を進めるよう促した。
「他人には知られない自分だけの真実。それがあるからこそ人は噓が吐けるし、嘘を吐く必要性も生まれる。」
 C.C.は自分の周りに座る全員をぐるりと見まわして目を細める。果たしてこの中に、全く嘘偽りのない真実の自分を曝け出している者がいるだろうか。答えは否だ。それが人というものだ。経験や知識を積み上げるほど、人は自分を隠そうとする。本来の自分を隠して、周りに合わせながら生きていく術を身に着けていく。Cの世界の定めた摂理に則って………
「では、個々の内面が他者に侵入されないようにしている「壁」が無くなってしまったら、どうなると思う。」
「それは───」
 神楽耶が、顔をしかめて口をつぐんだ。
「意識の共有が始まる。個を隔てていた壁が無くなることで個は失われ、それぞれの意識が混ざり合い混濁する。
これは、これまで分からなかった他人の内面が分かるというような生易しいものではない。それぞれ別のものだった意識が混ざり合い一つに溶け合うのだ。」
 神楽耶は、ぞっとした顔をする。
「人は1つの意識を共有する。それぞれが同じ「自分」を持つことになる。私は神楽耶で神楽耶は私……
自分に対して「嘘」を吐く必要はない。嘘から生まれる誤解も、憎しみも……人同士の争いは極端に減るだろう。」
 シャルルが作ろうとしているのはそういう世界だ。

  一通り話し終えたC.C.に、スザクが労いの言葉と共に手づから淹れた紅茶を差し出す。
 それを当然のように、カップに口をつける。
「スザク。私にも頂けます?」
 強請る神楽耶に、スザクは愛想よく笑う。
「もちろん。突拍子のない話で、疲れたろう。」
 そう言いながら、スザクはルルーシュの前にも同じカップを差し出した。アールグレイのふくよかな香りが鼻腔をくすぐる。
 神楽耶は、紅茶を一口含んでその香りを十分楽しんだ後、隣に座るルルーシュに話しかけた。
「ゼロさま。今のお話……」
「私も、C.C.から聞いた。人類すべての意識を1つにするなど……許されることではない。」
 神楽耶はあえて、ルルーシュを「ゼロ」と呼び、彼もまたゼロとして答えている。
 今この場において、彼らはあくまで黒の騎士団CEOと最大出資者という立場を崩す気はないという事を、スザクたちに示している。
 自分たちが期待した打ち解けた会話は、やはりまだ難しいようだ。
 嘆息を漏らすと、隣の兄からも息を漏らす音が聞こえ、苦笑した。
「でも、そのような計画が実現可能とは思えませんが。」
「理論上では、可能だ。そのための装置もほぼ完成している。」
 神楽耶の問いかけに、C.C.は断言した。
「───その仕上げとして、C.C.さまが必要という事なのですね。そして……今あなたがここにいるという事は、皇帝の計画に加わるつもりはないという事で宜しいのでしょうか。」
「その通りだ。神楽耶、お前は本当に賢いな。」 
 C.C.は目を細めて微笑んだ。
「そして、スザクとC.C.さまがこれだけ懇意であるという事は、そちらの皆さまも皇帝の計画に反対であると……」
 彼女の確認に、3人の皇族大きく頷く。
「父が、昔から何かの研究をしていることは知っていました。それが、まさかこんな計画のための研究だったとは……」
 シュナイゼルが頭を振って答えた。
 相変わらず、芝居じみている。ルルーシュは表情に出すことなく嘲笑した。
「父は、ブリタニアの国是を利用して、世界に怒りと憎しみと混乱を齎しました。父にしてみれば、これらが人間の隠れた本性であるという事なのでしょう。
数々の侵略戦争もこの計画を成就するため……計画に必要な駒を集めるためだったのです。」
 シュナイゼルの言葉に、神楽耶はハッとして、自分の従兄を見た。
「まさか……日本が侵略を受けた理由はサクラダイトだけではなく……!」
「───皇帝の日本侵攻の目的は、『枢木』が所有する島と…僕だ。」
 自分を見つめる瞳が、昏く鈍い光を放っている。神楽耶は両の手を膝の上で握りしめた。その指先はわななき、服の布地をぎゅっと掴んでいる。
「すべては、あの男の計略……!私たちは、たった一人の男の手の上で踊らされていたという事ですかっ。」

 C.C.は、日本を象徴する存在である皇神楽耶という少女に好感を持っている。彼女は強い。
 皇はブリタニア皇家同様「王の器」…コード継承できうる資質を今でも保持している少ない存在だ。
 彼女には残念ながらその資質はなかった。だが、王たる器量は十分備わっている。敗戦後も「日本」を陰から支え続けたキョウト六家が先のブラックリベリオンで皇のみとなってしまっても、「日本」を取り戻すという矜持は捨てなかった。
 だからこそ。彼女の怒りがどれ程のものかと思うと、すでに感情など捨ててしまったはずの心が疼く。
 テーブルを挟んで向かい合う男女に声にならない言葉を紡いだ。
「すまない……」
 本来であれば彼らは並んで座っているべき存在だ。それを敵同士にしてしまったのは、私だ。

 まだ、シャルル達の計画に加担している頃、コードを引き継がせる相手として、マリアンヌの息子を紹介された。それが日本にいると知らされ、彼の様子を見るために日本に渡った。同年代の少年と仲良くしてることをマリアンヌに伝えた時、その少年にも別の資質があることに気が付いた。
 王の器ではない。だが、コードに関わる何か別の力……それが「守護者」の資質であることを、その時は知らなかった。
 その事をマリアンヌを介してシャルルに伝えてしまった。

 彼女もこの計画をつぶすことに賛同するだろう。コードやギアスの事に触れなくとも、神楽耶を仲間にすることは叶う。
 C.C.は、自分の向かって右側に座る、彼女の魔王に微笑んだ。

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