a captive of prince 第20章:対話 - 6/7

「では、開戦前にお二人を日本から脱出させるつもりだったのですね。
それがうまくいかず、終戦後統治軍総司令として指揮していたのは、シュナイゼル殿下……皇帝の命でスザクをブリタニアへ拉致した張本人という事ですのね。」
 話を大人しく聞いてくれるものの、随所にとげのある言葉を投げかける従妹に、スザクはいたたまれない思いでそこにいた。
 彼女の怒りは至極当然ではあるが、もう少し何とかできないものか。
 ちらりと兄の横顔を見れば、相変わらず涼しげな表情をしているが、口元が微かにヒクヒク動いている。
「スザクから、ルルーシュたちの母親の援助をしていた貴族が保護したと聞き、コンタクトを取ろうとしたのですが……」
「国に見捨てられた身ですから。相手がたとえ誰であっても死んだことにしてほしいとルーベンに頼んでおいたのです。」
 無表情で言葉を挟むルルーシュに、内心頭を抱える。
 ルルーシュとシュナイゼルとの間には、見えない大きな溝がある。この溝はそう容易く埋まるものではない。時間がかかるのは致し方がない。
 結局8年間兄たちは何もできなかったのだから……
 だが、彼らを忘れていた訳ではない。
 溝を埋めるのに時間がかかるのなら、橋をかけて渡れるようようにすれば良い。
 スザクは、大きく息を吐くと兄には申し訳ないが主導権を自分に渡してもらうことにした。

「ルルーシュ。神楽耶。ブリタニアに連れていかれ、皇帝の養子にされた僕を、兄さんたちは本当に大切にしてくれた。ルルーシュが親友と認めた僕を守り育てるのは、助けることのできなかったルルーシュとナナリーへの罪滅ぼしだといつも言っていた。」
「スザクっ。」
 長兄次兄は口を揃えて、それは違うと言う。
「……初めは確かにスザクの言う通りだったかもしれない。だが……っ。」
 言葉を続けようとするオデュッセウスに「ええ。分かっています。」と微笑むことで制する。
「ルルーシュ。君のきょうだいは、本当に心優しい人ばかりだよ。だから、神楽耶……兄さんたちをこれ以上責めないでくれ。」
 懇願するスザクに、神楽耶は仕方ないという顔で苦笑する。
「───分かりましたわ……過去の過ちを責めても未来には進めませんものね。
 オデュッセウス殿下の様子を見ればスザクの言う通りのようですし……宰相殿下の口ぶりにも僅かですが、お気持ちのこもった部分も見受けられましたし……」
 感情を無意識にコントロールする習慣が身についてしまったシュナイゼルは、弟に助けられたことに苦笑する。
 話が前進し始めたことに、胸をなでおろすスザクであった。

「スザクが、黒の騎士団のスポンサー?」
 私と同じ立場という事ですの?
 神楽耶は唖然とした。
 だが、ルルーシュから受けた説明から、一つの推論を導き出してもいた。
「───ゼロさまを処刑したことにして、ルルーシュさまを学園に軟禁していたことが関係あるのですね。」
 呑み込みの早い神楽耶に、シュナイゼルは目を細める。
「そうです。ルルーシュをあの学園に戻したのは皇帝の指示です。
しかし、彼が生きていることを私たちは、彼女から聞かされるまで知らなかった。」
 そう言ってシュナイゼルは、ブリタニア側の末席に座るカレンに目をやる。 それを受けて、今まで沈黙を保っていたカレンが口を開いた。
「そう。私は、ルルーシュが生きていることを知っていました。ある人物に聞かされたから。
ルルーシュは、その人物をおびき出すための餌として生かされていたんです。」
「餌?」
 聞き捨てならない言葉に、神楽耶は眉をひそめる。
「皇帝は、ルルーシュの生存を知るその人物を探していました。
自分の計画を成就させるために、その人がどうしても必要だから。」
「その人物とは……?」
「ゼロの共犯者を名乗る、神楽耶さまもよくご存じのあの女です。」
 カレンの言葉に、神楽耶の目が大きく開かれた。
「C.C.さまが?皇帝の計画とは何なのです?」
 その問いに答えたのは、スザクだった。
「僕たちの口からではなく、皇帝から追われいる本人から説明してもらった方がいい。」
 そう言って席を立つと、ロックをかけたドアを開放する。
 開かれた扉の外には、件の少女が立っていた。
「C.C.!お前っ、どうして……」
 ここに来るなんて言っていなかったじゃないか。というルルーシュの問いに苦笑しながら、緑の髪の魔女は、スザクの勧める席に着いた。
 そこは、黒の騎士団、ブリタニア双方の間。一番上座に当たる位置、いわゆるお誕生日席だ。
「私も、来るつもりはなかったんだがな……」
「僕が頼んだんだ。」
「スザク?お前いつの間に……」
 彼女とコンタクトを取っていたのか訝るルルーシュにスザクは苦笑で答える。
「この!年で、僕も超常的な特技を身に着けてさ……」
「さて、どこから話したものか……」
 困ったようにつぶやくC,C,に、神楽耶は先ほどと同じ質問をぶつけた。
「なぜ、ブリタニア皇帝が、貴女を探しているのです?皇帝の計画というのをご存知だからですか。」
「ああ。知っている……同士、だったからな。」
「同士……」
 事情が分からぬまま、神楽耶は反復した。
「シャルル皇帝が目指しているもの……それは、現存する世界の破壊と人類すべての融合だ。」
「世界の破壊と、人類の融合?」
「神楽耶。Cの世界というもの知っているか?」
「───いいえ。それは、なんでしょう。」
「既存の言葉で言うなら集合無意識。人の心と記憶の集合体。輪廻の海。大いなる意思……神と呼ぶ者もいるな。」
「シャルル皇帝が壊そうとしているものとは、そのCの世界なのですか。」
「そうだ。今ある世界は、Cの世界を動力源にして動いている。人はここから生まれここへ返っていく。」
「───輪廻の海……根源の渦……」
 神楽耶は、何かを思い出そうとするかのように、俯きながら、小声でつぶやいた。C.C.はその様子に「ほぉ……」と感心したように微笑む。
「今まで、何人かに説明したが、お前が一番理解が速そうだ。」
「───古い血脈を守ってきた一族の末裔ですから……」
「そういう点では、こいつも同じのはずだが……」
 そう言って、スザクを見て嗤う。C,C,から説明を受けた時、何度も訊き直して、彼女を辟易させた経験があるスザクは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
 同じ説明を神楽耶にする自信がないために、今回の呼び出しとなったのだ。
「人は根源の渦から生まれた塵だ。それぞれに「個性」という仮面をつけて生まれてくる。今いる人々が別個の個性を持って存在しているのは、Cの世界がそれを望んでいるから……
生まれた塵は溶け合う事を知らない。それがCの世界が定めた世界の摂理。」
「皇帝は、その摂理を壊そうとしている……?」
 その問いかけに、C,C.は楽しそうに「その通りだ。」と頷いた。
「人が個性を持って存在することが摂理なら、シャルル皇帝はその摂理を壊し、人々から個性をなくそうとしているという事ですか。
個性とはつまりその人のパーソナリティ……人格や経験、記憶……それらを奪って何をしようというのです。」
「奪うのではない。
シャルルが目指しているのは、嘘のない世界。」
「嘘のない世界?」
 さすがの神楽耶も、その答えに首を傾げるのだった。

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