a captive of prince 第20章:対話 - 4/7

 話は数時間前に遡る。
 ルルーシュは、スザクからの通信を切ると、誰の目にも明らかにため息をついた。
「どうした?スザクから、カレンを返すと連絡が来たのではないのか?」
 C.C.の問いかけにルルーシュは黙って頷くのみだった。
「その割には、ずいぶん難しい顔をしているな。」
「スザクからは正式に、捕虜返還交渉の申し入れだ。」
「──ブリタニア軍としての手続き通りという事か?」
「そうだ。交渉の場には、俺と神楽耶が出席することが条件になっている。他の者では交渉には応じないそうだ。」
「ふうん。」
 C.C.は面白そうな顔をして鼻で笑った。
「向こうの出席者は誰なんだ。」
「さあな。少なくともスザクとシュナイゼルはいるだろう。」
「お前たちを招待してお茶会でも開くつもりじゃないのか。」
「まさか。」
 冗談めかした彼女の言葉をルルーシュは一蹴する。
「それなら、わざわざ正規ルートで話を持ってこないだろう。」
 カレンの身柄が、ブリタニアのスザク皇子に渡されたと聞いた時、スザクであればすぐにカレンを戻してくれるはずだと思った。
 しかし、現実にはカレンはブリタニアの捕虜として正式な交渉で返還するという。
 シュナイゼルの指示であることは容易に想像がつくが、なぜ、交渉の場に神楽耶を呼ぶ必要があるのか……
 ルルーシュは息を吐くと内線通話を繋ぎ、神楽耶をゼロの執務室に呼び出すのだった。

「ゼロさまっ。直々のお呼出と伺って、飛んで参りましたわ。」
 扉が開くと同時に、文字通り踊りこんできた少女の勢いに思わず一歩あとずさりながら、ルルーシュは神楽耶を応接に招き入れる。
「私に、どんなお話でしょう。」
 うきうきとした様子で問いかけてくる神楽耶に苦笑しながら、ブリタリアからの申し入れについて伝える。
「大宦官の方々……ずいぶん早々とカレンさんをブリタニアに引き渡したのですわね。」
「ブリタニアへの恭順の証としたのでしょう。紅蓮とそのパイロットであればおつりがくるとも計算したかもしれません。」
「私も同感です。意外なのは、ブリタニアの動きですわ。エリアまで送還すると思っていたのですけれど……」
 エリア到着前に、洋上で返還するという申し出に、神楽耶は困惑を隠しきれずにいた。
「私も、今回の申し入れには解せないものがあるのです。
ただ……考えられることは……」
 ルルーシュは真剣な表情で自分を見つめてくる翡翠の瞳を見つめ返し息を整える。
「神楽耶殿にお伺いしたいのですが。」
「はい。なんでしょう。」
「貴女は、この仮面の下にご興味はありますか。」
 ゼロの問いかけに、神楽耶は一瞬唖然とした様子であったが、少々小首をかしげたかと思うと穏やかな笑みを向けてくる。
「どうして、今このタイミングなのか分かりませんが。ゼロさまが私に真実を伝えてくださる気になったのは、光栄なことだと思いますわ。
仮面の下の素顔に興味がないと言えば嘘になりますけれど、きっと素敵な殿方だと信じております。」
「───有難うございます。貴女が思っているような男か……確認してください。その後どのような反応をお示しになられても、危害を加えるつもりはない事は保証します。」
「まあ。なんだか怖いですわね。
ゼロさまがここで仮面を取られることと、カレンさんの返還交渉がどのような関連性なのか教えて頂けませんの。」
 ルルーシュの意図を図りかね、問いかける神楽耶に、また一つ息をつく。
「私の想像が正しければ、ブリタニア側は私に仮面を取ることを要求するはず。
その時に、神楽耶さまが衝撃を受けてしまわれないようにと思いまして……」
「───その口ぶり……まるでブリタニア側はゼロさまの正体を知っているようですわね。
それに……あまり、私を見くびらないでくださいません?伊達や酔狂で仮面のテロリストの妻を名乗っているわけではありませんのよ。」
 にこやかではあるが、若干怒りをにじませた答えに、ルルーシュは肩をすくめる。
「そうですね…失礼しました。お察しのとおり、ブリタニアは私が何者か知っています。その上で、貴女の同席を望んでいると考えられるのです。」
 彼の言葉に、神楽耶は居住まいを正しゼロを見据える。
「見せてください。あなたの素顔を。」
 その要求にゼロは頷き、仮面の後ろに手をやるのだった。

 仮面の下からさらさらと零れ落ちる自分と同じ色の髪。白磁のような肌の色。そして深い暗紫の瞳……「素敵な殿方」と口にした神楽耶であったが、言葉以上の美貌を持つ青年に思わず息を呑む。
 そして、ややあってにっこりとほほ笑んだ。
「お久しゅうございます。ルルーシュ殿下。」

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