a captive of prince 第19章:革命 - 5/12

 陽光差し込む明るいカフェテラス。
 そこから臨める庭園には、色とりどりの薔薇が今が盛りと咲き誇っている。
 風に運ばれてくる芳香に負けぬほどのよい香りが鼻孔をくすぐる。
 それを楽しむように目を細め、白磁の陶器に注がれた紅茶を口に含むと、オデュッセウス・ウ・ブリタニアはうっとりと目を伏せ、口一杯に広がる味と香りを堪能する。
 よい茶葉を使っている。
 どこの店の品か尋ねて、是非とも取り寄せよう。
 そんなことを考えていると向かいの席から、はぁと吐息が漏れ聞こえて来る。
 吐息の主は、訪問先の主人の前だというのに溜め息ばかりついている。オデュッセウスが知る限り、これで5度目だ
「 大分、こたえているようだね。」
 力なく頭を垂れる 様に苦笑する。こんな姿を見る日が来ようとは……
 臣民の誰もが知る彼とはまったく違う様子に心配よりもむしろ、珍しいものを見られた優越感を覚える。
 自分の前に座っているのは、この大帝国ブリタニアを己の裁量で 動かし、つい最近も、この先の世界情勢に大きく影響を与える国際結婚をまとめた中心人物、 最も次期皇帝の座に近い男、帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアなのだから。
  彼を憂鬱にしている原因は予想がつく 。それを思えば、気の毒としかいえない。
「スザクは反対なのだろうね。この政策に……」
 オデュッセウスは あえて自分の結婚を 政策と言った。
 そう、 言葉の通りなのだ。 自分の花嫁となる女性とは 一度も 会わないままの婚姻……
 第一皇子であるということ以外、 大した軍功もない 凡庸な人間である 自分が、弟の窮状を救い何かしらの役に立つと、見も知らぬ少女との結婚を承諾した。
 自分はまだ良い。もうとっくに身を固めても良い年だ。だが結婚相手はまだ10代前半の少女……
 ユーフェミア や ナナリーのように 夢や希望もあっただろう。
 その全てを 奪い、この国に縛り付けることになる。気の毒を通り越して、罪悪感さえ覚える。
 スザクが 異を唱えて当然だろう。
「溜め息ばかり吐いていないで、お茶でも飲んだらどうだい?君が選んだ茶葉だけあって、さすがに美味しいよ。
 どこの店か、あとで教えてくれるかな。」
 兄の心遣いにシュナイゼルは 微笑し、カップを口に運ぶ。
「兄上。スザクが私の弟になって、何年でしたか?」
「うん?……8年、じゃないかな。」
「8年……もう、そんなに経つのですね。
 私は、あの子が側にいるのが当然になっていて、スザクがこの国に……皇室に入った経緯を失念していたのです。」
 オデュッセウスは小首を傾げる。
「スザクに言われたのです。他人の意志によって他国に籍を置くのは、仕方のない事なのか…と。」
 驚きに目を見開く兄に、シュナイゼルはさらに肩を落とす。
「お前……そんなことを言わせてしまったのか……」
「私にあるまじき失態です。何故、そんな事が言えてしまったのか……我ながら浅慮に呆れます。」
「───スザクがこのブリタニアに馴染だということじゃないか。18年この国にいたと思わせるくらいに。」
 慰めるようとかけられた兄の言葉に、シュナイゼルは首を振る。
「それだけ、あの子に無理強いしてきた……という事です。」
 2人は揃って苦い顔をする。
 皇帝がスザクの存在を公にし、皇位継承権を与えた事も大きく影響したのだろう。皆が、思い込んでしまっていたのだ。スザクはもう、ブリタニアの人間なのだと……
 これまでの彼の苦労を側で見ていながら、それを忘れていた。
 大いに反省すべき事だ。
「シュナイゼル……お前は、彼にどう詫びるつもりなのかい。」
「直接あって詫びるつもりです。」
「エリア11に行くのか。だが。時間がないだろう。」
 結婚式は10日後だ。式の段取りなど中華と確認する事が多い。まして、披露宴はこのブリタニアでも執り行う。その準備にもシュナイゼルの指示が必要だ。日々の執務もある。多忙な彼にエリアまで行く時間を取る事が可能だろうか……
 オデュッセウスは、大丈夫かと尋ねる。
「───兄上。この結婚を、中華にいる『黒の騎士団』が大人しく見ているでしょうか。」
「───思わないね。」
 シュナイゼルが考えている事に思い当たったのか、オデュッセウスの口の端に笑みが浮かぶ。
「ゼロは必ず動きます。そして、きっと私たちの前に現れる……」
「………ルルーシュが直接動くと………」
「ええ。きっと……
 懐かしい友人との再会を私からの謝罪とさせてもらいます。」
「スザクを中華に招くのかい?」
 どうやってと尋ねる兄に、シュナイゼルは得意のアルカイックスマイルを浮かべる。
 理由などいくらでも作れるが、最もストレートな方法がいいだろう。上手くすれば、離ればなれの兄妹をあわせる事が出来、なおかつ自分も「ゼロ」と話す事が出来る。
 シュナイゼルは、本人も気づいていないが、クスクスと笑みを漏らしていた。
 自分の案に悦に入って笑みを浮かべる弟を、兄は苦笑しながら見る。
 相変わらず、スザクが絡むと表情が豊かになる。
 面白いものだと、にやける宰相をお茶請けに紅茶のおかわりを楽しむオデュッセウスだった。

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