a captive of prince 第19章:革命 - 2/12

 その光景に誰もが息を呑んだ。
 さほど高くない位置からの中継でも、その全体が把握できてしまうほどの小さな島。
 そのひとつの海岸沿いに、何隻もの軍艦と飛行型ナイトメアフレームが待機している。
 その先に何があるのか…カメラが海岸に近づいていくと、その砂浜に人影がぽつんとあるのが判る。
 その人影が徐々に大きくなり、それがエリア総督として就任した少女であると知った時、人々はその目を疑った。
 エリア総督が自ら、立てこもり犯に説得を試みた事などあっただろうか。しかも、彼女は………
 目も見えず足の不自由な少女がただ一人、人質を取って立てこもる犯人の前に座っている。
 彼らがその気になれば、いつでもその命を奪える距離だ。
 この暴挙と言える行動に、さしもの元日本軍人も肝をつぶした。
 皇女の投降の呼びかけ。この島への定住を求めて行動を起こした彼らの心情をふまえてか、法的手段に訴えるための訴状を用意していると言う。さらに、原告後見人に総督である自分がなるとも伝えてきた。たかが名誉ブリタニア人に対する超法規的取引としてはあまりにも破格だ。
 だが、「ブリタニアは信用ならない」そう返答した三木に対して、現在のこの無防備な姿なのだ。
 その行動はあまりにも大胆。後ろでナイトオブラウンズが見守っているとはいえ、無謀としか言えない。彼女の幼さ故なのか、それとも………
 旧日本軍大佐三木光洋は、明らかに困惑していた。

『何やってるんだ。アーニャっ!』
 こんな事は作戦にない! 何の打ち合わせも無く、突如手の上の皇女を砂浜に下ろしたモルドレッドに、ジノは思わず叫んでいた。
 ジノの怒声に、操縦桿を握る手をぴくりと震わせ、ナイトオブシックス アーニャ・アールストレイムは明らかに不機嫌な顔をする。
「それが総督の意志で、私もそうする事がいいと思った。」
『だからって、何の確認も無く動いていいものなのかっ。
今は作戦行動中だろっ。指揮官であるスザクに何の承諾も無く……!』
「私は、皇帝陛下の騎士ナイトオブラウンズ。私の行動は誰にも規制できない。例え作戦行動中であっても………
 私に命令できるのは、シャルル皇帝だけ……そうでしょ?ジノ。」
 睨み返してくる紅玉の瞳に、ジノは肩をすくめる。
『ああ。確かに………』
「なら、私とナナリー様の邪魔はしないで。」
 シュタルケハドロン砲をトリスタンへ向けるモルドレッドに、ジノは苦笑する。
「スザク殿下。いかがいたしましょうか。ナナリー様にお任せいますか?」
 後方に待機するアヴァロンにいるスザクに指示を仰ぐものの、その口調は、眼下の状況を鑑みれば非情に軽い。
『僕は、ナナリーの選択が正しいと信じる。ナナリーがその身を託した三木光洋という人物を信じるよ。彼女の呼びかけに、真摯に答えてくれると……』
 冷静なスザクの声に、ジノは小さく息を吐く。
「逆上するような人物ではなさそうだが………
アーニャ。万が一の場合は、モルドレッドを破壊してでも総督救助に向うからな。」
 恨みっこ無しだぞ。 
 ジノの通信に、アーニャは薄く笑う事で答えた。
 
 上空と地上、それぞれ事情の違う緊張の中、アヴァロンのコンダクトフロアーでは、スザクがその状況を楽しむかのように政庁に指示を出していた。
「ああ。そうだ。────中継はこのまま続行する。犯人投降のその瞬間まで。
────総督に危害が及ぶ事はない。万が一にもだっ!」

 その言葉通り、三木光洋とその一派は投降した。
 その際、彼のナナリーに対する評価は、希代の詭弁家か、シャルル以上の暴君であった。
 それに対するナナリーの返事が、この歴戦の将校を唸らせる事になる。

「私は、このエリア11の総督………ただ、それだけの人物です。」

2

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です