a captive of prince 第19章:革命 - 3/12

「本当に立派だったよ。君の妹は………」
 しみじみと思い出して言うスザクに、ルルーシュは苦虫をかみつぶしたような顔をする。それが“照れ”である事は百も承知だ。
『と、ともかく…だ。今回は無事にすんだが、いつもそうなるとは限らない。ナナリーには───』
「自分の命は、自分一人のものではない────
よく言っておくよ。」
 ルルーシュが心配していたってね。
 楽しそうに話すスザクに、眉間の皺をますます深くしてルルーシュは通信を切った。
 ぶつりと切れ真っ黒になったモニター映り込む自分の顔に、思わず苦笑する。
 それは、スザクをからかって遊ぶ時のシュナイゼルに良く似ていた。
「ルルーシュが嫌な顔をするはずだ。」
 その時、デスクの上の内線電話がコール音を発した。
『殿下。本国のシュナイゼル様より、プライベート通信が入っております。』
 噂をすれば…………
 クスリと笑みをこぼせば、電話口の向こうで秘書のアメリーが怪訝な声で問いかけてくる。
『殿下?お繋ぎしても………』
「ああ。たのむよ。」
 つい先ほど沈黙したばかりのモニターに、今度は。金髪白皙のギリシャ彫像の如き青年が映し出される
『やあ、スザク。久しぶりだね。エリア11の舵取りは順調かい?
 先日は、ナナリーが大活躍だったようだが。』
「ええ。エリア最大の反抗勢力が出て行ってくれましたからね。
 新しい政策に賛同する企業も増えてきましたし、ブリタニア人のナンバーズに対する締め付けは大分緩くなってきましたよ。
 先日の件で、ナンバーズ寄り過ぎると批判していた者達も静かになりました。」
『それは何よりだ。
 しかし─── ナナリーも思い切った行動に出たものだ。
 あれも、予定通りなのかい?』
「とんでもない。総督の独断です。
 政庁に戻ったら、ローマイヤ女史が青筋たてて怒ってましたよ。
 ナナリーは、2、3日、小言と嫌みを聞かされ続けたそうです。」
 その報告に、シュナイゼルも苦笑する。
『彼女が怒るのは尤もだからね。
 コウや私の気苦労が少しは理解できたのではないのかい。スザク?』
 ニヤリと笑う兄に、スザクはぴくりと眉を震わせた。
『若さに任せた軽はずみな行動は、足下をすくわれかねない。
 それだけは、肝に銘じておく事だ。』
「はい。」
 忠告に素直に答える弟に満足の笑みを浮かべると、シュナイゼルは本題を切り出した。
『オデュッセウス兄上の婚姻が決まったよ。』
 その報告に、スザクは一瞬目を見開いたがすぐに細められ、そのまなざしに厳しさが宿っていた。
「大宦官が、こちらの申し出を受けたのですね。」
『そうだ。条件は、ブリタニアの爵位。』
「自分たちの立場の保証と引き換えに、天子と人民を売る……と。」
 問いかけに、シュナイゼルが頷く。
 

 先帝の死去より、天子を祭り上げ巨大連邦国家の頂点で甘い蜜を吸ってきた大宦官ではあったが、彼らの横暴がいつまでも見過ごされるはずも無く、求心力は徐々に弱まっていた。
 それを如実に現したのが、先日のエリア11総領事の暗殺である。
 危機感を募らせた彼らは、星刻の仲介で黒の騎士団の要求を受け入れ鳳来島を日本人に貸与したのだ。少しでも自分たちに有利となるカードを得るために。

その事で連邦解体も時間の問題と読んだシュナイゼルが一計を案じ、求婚者が引きも切らせずにやってくるオデュッセウスに持ちかけたのだ。
『最近、陛下から中華へ進軍せよとの要求が強くてね………
 多くの血が流されるよりは…と、打診してみたのだが。
 こんなにあっさりと受託するとは思わなかったよ。
 黒の騎士団と交渉を持ちながら涼しい顔で……彼らの厚顔無恥ぶりには虫酸が走る。』
 顔をしかめるシュナイゼルに、スザクはひとつの疑問を投げかけた。
「天子様は何と………まだ13歳と伺っています。父親ほども年の離れた兄上に嫁がれる事を了承されたのでしょうか。」
『それが中華人民のためならば……と。──切ないね。』
「オデュッセウス兄上は。」
『大切にお迎えすると……妻としてではなく、他国からの友人としてね。
 ただ、形式だけは踏まなければならない。天子様には気の毒だが、書類上の事と割り切って頂くしかないね。』
「本当にこれがベストなのでしょうか。」
『長年にわたる両国の軋轢……弱体化した体勢を考えれば、今しかないと思っているのは、父上も同じなのだよ。』
 スザクの眉間に、深々と皺が寄せられる。
 皇帝が、シュナイゼルの案を了承した───
 それは、大きな戦争が回避されたという事だ。シャルルがこの婚約に異を唱え、侵攻する事を選べば大国同士泥沼の戦争が待っている。
「でも────そのために一人の女性の人生が大きく狂わされてしまう………」
『いたし方のない事だね………』
「他人の意志によって、自分の望まない形で他国に籍を置く事──が、ですか?」
 問いかけにシュナイゼルは目を見開き、厳しい表情の弟を見つめる。
 室内は、重い沈黙に支配された。

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