モニターに映る映像を、翡翠とラベンダー色の瞳が見守る。
画面は、エリア11にある中華連邦総領事館とその前に配置された軍の様子を中継している。
ブリタニア軍と中華連邦領事館の間には、磔にされた犯罪者がずらりとなんでいた。
1年前のブラックリベリオンで捕らえられた黒の騎士団の幹部達である。
副司令の扇要をはじめ日本解放戦線瓦解後、黒の騎士団に合流した“奇跡の藤堂”こと藤堂鏡志郎と彼の配下である四聖剣のうち3人の姿もある。
スザクは、多少の縁がある人物が犯罪者として磔られている現実に眉をひそめた。
領事館の門前に壁のように立ち並ぶ彼らを、その前に配置された兵が銃で狙う。
『かつて、黒の騎士団を名乗りエリア11を混乱させたテロリストの処刑が、今まさに行われようとしています。
部下の処刑に、ゼロは果たして現れるのでしょうか。』
テレビアナウンサーが緊迫する現場の様子を伝えるのを、離宮の居間でくつろいで見る2人の皇子のうち、この国の宰相を務める金髪の美青年が面白そうに、弟に話しかける。
「ギルフォードも思い切ったことをしたものだね。彼は、ゼロの正体を知らないのかな。」
「恐らく……コーネリア姉上の性格では、自分たちを苦しめていたテロリストが廃嫡された弟だったとは、例え自分の騎士でも………」
「話せないだろうね。」
スザクの話に、シュナイゼルも頷く。
処刑の時刻が来た。
『イレヴン達よ。お前達が信じたゼロは現れなかった。
全てはまやかし!奴は、私の求める正々堂々の勝負から逃げたのだ!』
ギルフォードが、部下に指示を出す。
『構えっ!』
画面を見つめるスザクの目が細められる。
ナイトメアが構える先には、大型護送車数台にすし詰めにされた黒の騎士団員250名がいる。
軍のバリケードの外で見守るイレヴンの中から悲鳴が上がった。
『違うな。間違っているぞ。ギルフォード。』
『───後ろから来たかっ。ゼロっ。』
バリケードの外、イレヴン達の背後にナイトメアが一体姿を現す。開かれたコクピットから立ち上がった黒衣の怪人の姿が映し出された。
『ゼロですっゼロが現れました!なんと言う愚かな行為でしょう。
ゼロは一人です。ナイトメアフレームで現れたという事は自首する意志はないという事でしょうが、たったひとりでどうやって……』
「───さて、たった一人で250人もの仲間をどうやって助け出すか……ゼロお得意の“奇跡”を起こすかどうか楽しみだね。」
「ええ──きっと、彼は一人でもやり遂げますよ。」
「ふむ……中華領事館内でも何かあったようだが……」
「爆発がありましたね……どうやら、中華内部でも色々あるようですよ。C.C.が取引を持ちかけられたのでそれを受けたと言っていましたから。
総領事館の中では、ゼロが行動を起こせば出撃できる準備が整っているそうです。」
「しかし、ずいぶんと便利な特技を身につけたものだね。
離れている人物と道具を使わずに会話できるとは……」
「C.C.とアーニャだけですけれどね。」
感心する兄に、スザクはクスリと笑うと肩をすくめた。
せり上がり、中華連邦総領事館側に傾くフロアパーツ。
突然、自分たちの立つ地面が動き、その傾斜に従って体勢を崩したまま滑り落ちるブリタニア軍。
拘束されていた者達も、護送車両ごと転げ落ちた。
ゼロの号令を合図に、領事館から躍り出るのは紅蓮弐式を初めとする黒の騎士団のナイトメア達。
ギルバート・G.P.ギルフォード卿とゼロの一騎討ちと思われた総領事館前は一瞬にして騒然となった。
「ほお……面白い闘い方だ。」
「あれは、ブラックリベリオンでコーネリア姉上の租界防衛戦を崩した戦術です。」
中継画像を見ながら2人の皇子は感嘆する。
G-1ベースが滑り落ちその下で戦闘中だったグランストンナイツのナイトメアを押しつぶした。
さすがにこの光景にはスザクもシュナイゼルも息を呑んだ。
「───仕方のないことだが……この先、コウにゼロとの共闘を説得するのは骨が折れそうだね。」
ため息まじりの兄に、スザクも肩をすくめる。
戦場を映すカメラが2機のナイトメアを追い出した。
1機はゼロのグロースター。もう1機は、最近実践配備されたばかりの最新型ナイトメアフレーム“ヴィンセント”。
ゼロを護るために攻撃を仕掛けてくる敵を難なく撃退し、逃げるゼロを着実に追いつめている。
「───カレン……援護は難しいか……」
ゼロの親衛隊長であるカレンの紅蓮は、敵からの攻撃から仲間を護るのに手一杯だ。
スザクは、ヴィンセントの追撃を嬉々として報じる中継画像に唇を噛んだ。
その時、1機のサザーランド…紫のボディにマントを装備したグランストンナイツからランチャーが発射された。
だが、その弾道は逃げるゼロ機では無く、追うヴィンセント目がけている。シュナイゼルは首を傾げた。
「デヴィットにしては珍しいな。タイミングを外すとは……」
「このままなら、ルルーシュは助かりますね。」
安堵の声を上げたスザクは、その直後息を呑むことになる。
ゼロが、方向転換し、ヴィンセントの前に飛び出したのだ。
「ルルーシュ!」
弾はグロースターの腕を吹き飛ばし、ゼロ機は敵の前に崩れ落ちた。
「馬鹿なっ。敵を庇うなんて……!」
唖然とするスザクの隣りで、シュナイゼルは、ふむと微笑する。
「───これも、ルルーシュの計画のうちかもしれないな。」
「計画……?」
「何か考えがあるのだろう。でなければ、あんな真似をするはずがない。」
この次に入ってきた映像が、シュナイゼルの考えが正しかったことを証明した。
ギルフォードがゼロ目がけて放ったランスを、ヴィンセントが受け止め、ゼロを守ったのだ。
シュナイゼルは笑みを深くし、スザクは浮かしかけていた腰をソファに戻し、ほっと息を吐き出した。
『そこまでだ、ブリタニアの諸君。これ以上は、武力介入と見なす。引き上げたまえ。』
領事館から発せられた勧告が、ブリタニアの敗北を知らしめることとなった。
「この声の主かな……黒の騎士団に取引を持ちかけたというのは。」
「ええ。おそらく。黎星亥という人物です。」
「なるほど。反宦官派の大立て者と目されている人物だな。」
シュナイゼルの目が細められる。
「───兄さん。何を考えているんです?」
「ルルーシュが、彼をそのままにしておくはずがないと思ってね……」
宰相の顔で人の悪い笑みを見せる兄に、スザクは肩をすくめる。
「ともかく、これでゼロの手に駒が戻った訳だ。
彼の今後の活躍を祝って乾杯しよう。」
シュナイゼルは侍従にシャンパンを用意させた。
琥珀色の液体の入ったグラスを傾け、兄弟は遠く離れた地で本格的に動き出す反逆者の勝利を祝うのだった。
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