「フ…ククク……ハハ……アハハハハ……」
宰相府に向うためリムジンに乗り込んだ途端笑い始めた皇子に、同乗したジノも頬を緩める。
「相変わらずやる事が派手だな。ゼロは……
バベルタワーを倒壊させて、その下で指揮していた総督のG-1押しつぶしたらしい。」
楽しげなスザクにジノは苦笑する。
「殿下。不謹慎ですよ。」
「ああ。そうだね。カラレス侯爵のご冥福を祈ろう。」
そう言って手を合わせるスザクの携帯端末が鳴った。
「───やあ。カレン。今どこに?うん……みんな無事に……そうか……」
通信相手は、エリア11にいるカレン・シュタットフェルトらしい。会話の途中痛ましげな表情を浮かべる様を、ジノは首を傾げて見守った。
「それで彼は……?そう、さすがだな。
そんなに怒ると、眉間に皺が寄って、美人が台無しになるよ。」
側に座るジノの耳にも、カレンの声が漏れ聞こえてくる。スザクは楽しそうに笑った。
「からかってやいないさ。それで?君はこっちに来れそうなの?
うん……分かった。気をつけて。」
「カレンからか?」
通信を切ると同時に尋ねかけるジノに、そうだと頷く。
「向こうの報告?」
「ああ。味方がひとり戦死したらしい……僕も子供の頃から知っている人物で、藤堂先生の部下だ。」
「───そうか。」
「ゼロを、敵の攻撃から庇って死んだらしい。……彼……卜部さんの覚悟を無駄にしないためにも、ゼロと黒の騎士団への支援は今まで以上にしていく。」
強い意志をたたえる翡翠の瞳に、ジノは神妙な顔で頷いた。
そんな彼に、スザクは表情を緩め話題を変えてきた。
「面白い話もあったよ。あのゼロは影武者らしい。
本物は、鳥かごに戻ったそうだ。」
「監視の目を欺くため?」
僅かなやり取りで理解したジノが確認すると、スザクはまた楽しそうに笑う。
「例の映像はC.C.だそうだ。
その事を知らされていなかったと、カレンが相当おかんむりだったよ。」
「しかし、相当な演技力だな。どう見ても本物のゼロだったぞ。
いや……あの仮面とコスチュームはかなりのインパクトだからな……それっぽく振る舞えば、皆、本物と思い込む。」
「それは違うな。ジノ。“ゼロ”は記号に過ぎない。あの仮面もコスチュームも記号示す符号だ。
その真贋は、行動によってのみ評価される。」
「───ゼロを支持する者達が望む正義を行う事によって?」
スザクの目が細められた。
「極端な話。僕だってゼロになれる。」
楽しそうなスザクに、ジノは顔をしかめた。
「私としては、あの扮装のスザクは見たくないな。」
「うん。正直あの格好はちょっと遠慮したいかな。」
2人は、顔を見合わせると声を上げて笑った。
笑い終わる頃、車が停車する。宰相府に到着したのだ。
玄関前の車寄せには、既に何台か駐車している。
SPが取り囲むように警護する中、ジノの先導でスザクは建物の中に入っていった。
宰相執務室のドアを開けると、兄シュナイゼルが副官のカノン始め、文官武官に慌ただしく指示を出していた。
シュナイゼルは、スザクの姿を認めるとゼスチャで応接のソファに座るように勧める。2人は黙礼すると腰掛けた。
一通り指示を出し終え「すまないね。」と声をかけて2人の前に座る兄に、スザクは首を振る。
「予定通り、目標を解放したようです。対象は、自らの意志で鳥かごに戻ったそうですが。」
「おやおや……やはり、弱点を握られていては思うようには動けないようだね。」
「ええ……彼の行動規範は、ナナリーにありますから。」
「ふむ……こちらが干渉するわけにはいかないからな。本人になんとかしてもらうしかないが……」
「彼なら、きっと何かしらの手を打つと思いますよ。」
楽しそうに話すスザクに、シュナイゼルも微笑む。
「では、お手並み拝見と行こうか。
問題は、どうやって我々が味方である事を伝えるか…だが………」
難しい顔をする兄に、スザクも困った顔をする。
ブリタニア側のルルーシュへの支援体制を整備してきたスザクだが、それを当人にどう知らせるべきか、頭を悩ませている。
というのも、ルルーシュの共犯者であるC.C.は、仲介役を引き受けるつもりがないからだ。
「私が間に入ってやる必要がどこにある。
堂々と、ルルーシュに告げればいいじゃないか。」
「だが、皇帝やV.V.を欺きながらルルーシュとコンタクトを取るには、仲介者は必要だ。カレンか君のどちらかがなって貰わないと……
君の方がルルーシュに近い存在だろう。共犯者なんだから。」
「私は、面倒な事は嫌いだ。」
鼻で笑う魔女の顔を思い出し、スザクは大きく息を吐いた。
「提案なのですが……」
ため息と共に切り出したスザクに、シュナイゼルは首を傾げた。
「僕が、直接伝えるというのは……?
カラレス総督の後任を、陛下はもうお決めになったのでしょうか。まだでしたら……」
「お前が立候補し、総督としてゼロと話す……?だが───」
シュナイゼルの言葉に、スザクは目を瞬かせる。
「お前より先に名乗りを上げた人物がいてね。」
苦笑しながらも、どこか楽しそうな兄に、スザクは怪訝な顔をするのだった。
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