a captive of prince 第16章:モザイクカケラ - 9/11

「いいえ。」
 ジノが静かな声で答える。
「私は、コーネリア様とスザク様の伝言をお渡しするために参りました。」
「───伝言?」
「はい。コーネリア様もユーフェミア様も、殿下の復讐に利用された事はお分かりです。ですが……殿下をそうさせたのはご自分達にも非があると……恨みになど思っていないと、そう仰っておいでです。」
「………恨みに思っていないだと?俺は、ユフィの信頼と信用を地に落としたのだぞ!!」
「7年前、おふたりを救えなかった事を悔いておられる皇族の方は多くいらっしゃいます。クロヴィス様もそのおひとりでした。」
「まさかっ。」
「本当です。クロヴィス様は、ルルーシュ様とナナリー様を捜すために総督に志願されたのです。」
「───そんな馬鹿な………」

───生きていてくれて嬉しいよ。私と一緒に、ブリタニアへ帰ろう────

 あれは、本心からの言葉だったのか。怒りと憎しみ……そしてナナリーへの強い想いに捕われ、クロヴィスの言葉をその通りに受け止めなかった。自分の命を惜しむばかりに口走ったでまかせだと……
「コーネリア様からのご伝言です。帰ってこいと………」
 ルルーシュはひと言も発せず、目を見開くばかりだった。
 驚愕の皇子に、騎士は言葉を続ける。
「スザク様は、どうか自由に……と。」
「……自由………」
「ご自身はブリタニアから離れる事は出来ない、だからせめてルルーシュ様には、ご自分の思う通りに生きて頂きたいと………」
「スザク………っ!」
 ルルーシュは、膝からガックリと崩れ落ちた。
 全て赦すというのか……俺を………ゼロを………!
 自らの野望のために利用したというのに!
「私の役目は果たしました。どうなさるのかはルルーシュ様のご意志です。」
「───お前は、皇帝の騎士なのだろう。謀反人を見逃すのか?帝国に仇成す存在だぞ。」
 ルルーシュの問いに、ジノは首を振ると強い意志を感じさせる目を向けた。
「全てはスザク様のためです。私のこの地位も。
私が主と定めるのはシャルル・ジ・ブリタニアにあらず。スザク・エル・ブリタニア殿下ただお一人です。」
「───スザクの騎士………?」
「スザク様は、認めようとして下さいませんが。」
 情けなさそうに笑うジノにルルーシュは唖然とする。
「何故だ……ヴァインベルグ家と言えば名だたる名門。その嫡子ともあろう者が、何故、ナンバーズ出身の皇子の騎士を望む。」
「生まれも血筋も関係ありません。私は、あの方の目に惹かれたのです。」
「目………?」
「はい。あのエメラルドグリーンの瞳に……あの方の目は生きていますから。」
「生きている………」
「ブリタニアに来たばかりの頃。ご自分の置かれた立場に混乱されていた時でさえ、スザク様の瞳は強い光を放っていました。
あの、エメラルドグリーンの輝きは誰にも負けません。
あの頃……スザク様は絶望の中におられました…命を絶とうとなさった事も1度や2度ではありません。」
 その告白に、ルルーシュは眉根を寄せた。
「だが、その度に息を吹き返し、瞳の輝きも強くなっていった。
死の淵から這い上がる度、あの方は強くなる。その強い精神力が、私を惹き付け、あの方のお側に仕えたいと思わせるのです。
そして、ルルーシュ殿下。貴方のその紫紺の瞳も、スザク様と同じ輝きをお持ちだ。」
 ルルーシュの眉がピクリと跳ね上がる。
「貴方の目も、何者にも屈せぬ輝きがある。
……どうなさいますか。国に還り裁きを受けますか?」
「裁き?」
「皇帝陛下御自ら、ゼロを裁くと仰せです。」
「フン……そうしてまた、政治に利用しようというのか……
ふざけるな!俺の人生は俺のものだ。誰の干渉も命令も受けない!自分の信じる道を生きてやる。」
 ジノが不敵な笑みを浮かべる。
「ならば、この難局を乗り切り、生き抜いて下さい。 
私も、こんなところであっさりとゼロを捕らえてしまっては面白くない。」
「つまり、今は敵ではない……と?」
「戦場で遭遇すれば、遠慮なく叩かせて頂きますが。」
 楽しそうに笑うジノに、ルルーシュは真剣な顔を浮かべた。
 どうする……この男の力を頼るか。
 ルルーシュは未だこの地にやって来た目的を果たしていない。
 ナナリーを見つけ、救い出すという目的を。
「では、ナイトオブスリー。お前に頼みがある。妹のナナリーが何者かに攫われた。」
「ナナリー様が!?」
「ああ。ここに連れて来られた事だけは解っている。救出を手伝ってはくれないか?」
「………そのために戦列を離れたのですね。」
「そうだ。ナナリーを失っては、何のための反逆か……全てはナナリーのために俺はっ………」
 ジノの目が見開かれる。
「ナナリー様のため……母君の無念を晴らし、おふたりを捨てた帝国への復讐ではないのですか。」
「それもある。だが、俺が闘う理由はナナリーが安心して暮らせる世界を造るためだ。
強者のみが優遇されるのではなく、弱者と呼ばれる人々が安心して生きていける世界……そのために、今の世界を壊す!」
 ジノは、目の前の皇子に目を細める。堂々と立つその姿に、追いつめられた反逆者の影は微塵も感じない。
「───やはり、あなたとスザクはよく似ている。人を惹き付けてやまない輝きがある。………おふたりは手を組むべきです。
やり方が違えど、求めているものは恐らく同じだ。」
 ジノとルルーシュの目が合った。
「ナナリー様をお救いできたあかつきには、どうかスザク様と話し合って下さい。協力者は国の中に大勢います。」
「お前もその中のひとりか。」
「はい。勿論。」
 ニカッと笑う騎士に、ルルーシュも笑みを浮かべる。
「あいつは……ひとりではなかったのだな………」
「ルルーシュ様もですよ。殿下がこの地で生きていらっしゃる事を信じている方はちゃんといました。」
「───そうだな。」
 笑い返すと、自分の背にある巨大な扉に向き直った。
「そこですか………?」
 ジノも真剣な表情でルルーシュの隣りに立つ。
 2人がその扉に手をかけようとした時、銃声が轟きルルーシュの手元で火花が散った。
「ジノっ。何をしている。早くその謀反人を取り押さえろっ!」
 響き渡るバリトンの命令。
 彼らが入って来た入り口から射し込む日の光を遮るように立つ1つの影。
 隻眼の騎士。神聖ブリタニア帝国騎士の頂点に立つ男。
 ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインがそこにいた。

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