a captive of prince 第16章:モザイクカケラ - 11/11

「ひどい男だね。ゼロってさ……」
 突然かけられた言葉に、スザクは驚いて声のした方を見る。
 いつの間に入ったのか、プラチナブロンドの床に届きそうなほどの長い髪の少年が、ドアを背にたっていた。
 身に着けている衣服から貴族……それも、かなり高位な家柄の子息だと分かる。
 しかし、今この時間この状況で何故……政庁に避難して来て親とはぐれたのだろうか。
「君は……どこから来たの?名前は……」
 迷子ならば親に届けてやらねばならない。ベッドから起き上がり少年の元へ行こうとするスザクを、少年は言葉を続ける事で引き止めた。
「本当にひどいヤツだよ。ゼロ……ルルーシュは……スザクの事をこんなに泣かせて。」
「えっ……!?」
 今。ゼロをルルーシュだと言わなかったか。
 驚きに目を見開いて自分を見るスザクを、少年はクスリと笑う。
 そうして動けずにいる彼の元へ歩み寄った。
「初めまして……と言うべきなのかな。君は憶えていないだろうけど、僕らは何度も会っている。
 でも、名乗った事はなかったから、やっぱり初めましてだね。V.V.だよ。」
 その、人のものと思えぬ記号のような名前を反覆する。
「ブイ・ツー……?」
 唖然とするスザクを、少年はくすくすと笑う。上目がちに覗き込んで来るその態度は、小さい子供独特のもので愛らしく映るものなのだが、このV.V.には当てはまらないようだ。
 その笑みは、幼い子供のものとは思えぬ老猾さを感じさせ、それと相反する容貌がむしろ禍々しささえ醸し出している。
「ゼロは超常の力をもっている。君やシュナイゼルが考えている催眠術や暗示なんかじゃない。もっと強力で恐ろしい力だよ。
 “ギアス”と彼は呼んでいるようだね。」
「ギアス……?」
「そう。かけた相手の意志をねじ曲げ、自分の命令に従わせる絶対遵守の力。それが、ユーフェミア皇女を狂わせた正体だ。」
「君は一体……どうしてそんな事を……
いや、それよりもどうしてゼロの正体がルルーシュだと知っているんだ。」
 驚きと警戒をもってスザクは尋ねる。
「言ったろう。僕と君は仲間だって………
君が知りたいと思う事はなんでも教えてあげる。だから、僕に協力して?
優しい世界を、僕たちの力で造るんだ。」
「………優しい世界…………」
 子供の笑顔が禍々しさを増す。
 悪魔に魅入られたかのように目をそらす事も出来ず、スザクはV.V.を見つめた。

「どうするカレン。このまま諦めるか。」
 魔女が、ふてぶてしい笑みを浮かべて問い質す。
 それに、カレンは燃えるような闘志をたたえた強いまなざしで答えた。
「冗談じゃない。ここで、こんな形で諦める事なんて出来ないわ。」
「そうだ。お前達はまだ何の行動も起こしていない。まだ、スタート地点にすら立っていない。
ルルーシュが思い描いた青写真の、これはまだ始まりに過ぎない。」
「ゼロ抜きで、私達に出来る?」
「無理だな。細かい計画はあいつの頭の中にある。」
「なら、やっぱりあいつをブリタニアから取り返すしかないのね。」
「ああ。そのためにも私達は生き残らねばならない。」
「あのナイトオブラウンズの言う通りというのは癪に触るけど、生き残っている部隊と合流して潜伏先を探すわ。」
 通信するために紅蓮に走るカレンを、C.C.の穏やかな声が引き止める。
「カレン。もう迷いはないな。」
「ええ。ルルーシュもブリタニアに大切な人や心を傷つけられたって知ったから。あいつが目指そうとしているものも、理解したつもり。
C.C.ありがとう。話してくれて。」
「礼を言うのはこっちの方だ。私の魔王を取り戻すのに協力してくれると言ってくれて。」
「ルルーシュが何故“魔王”なのか……それも教えてくれるんでしょうね。」
「ああ。───時期がくればな。」
 その答えに不満げな顔をするが、すぐに意識を仲間との交信に切り替える。
 そんなカレンを見つめ、C.C.は一人言のように誰かに話しかけるのだった。
「ああ。私は決めたよ……シャルル達とは手を組まない。
お前はどうする……お前のお気に入りの皇子に接触したようだぞ。
そうか……では、そっちはお前に任せるよ………私の望み?
そうだな。それもまたゆっくり考えるさ……なにしろ私にはうんざりするほど時間がある。」
 魔女がクスリと笑う。
 その笑みは、何かを楽しむかのように不敵で、その黄金の瞳は、沖天にさしかかろうとする太陽と同じ輝きを放っていた。

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