a captive of prince 第16章:モザイクカケラ - 10/11

「───ヴァルトシュタイン卿………何故貴方がここへ。」
「何をしている。ゼロを捕らえ御前に連行するようにとの、陛下の勅命ではなかったのか。」
 驚くジノに構わず、ナイトオブワンは真直ぐに彼らに向って歩いて来る。
「それは……しかし、ゼロはっ………」
 ルルーシュだったのだというよりも先に、ビスマルクはルルーシュに跪く。
「お久しぶりでございます。ルルーシュ殿下。」 
 何の迷いも驚きも無く挨拶をするビスマルクに、2人は目を見張る。
「ゼロは俺だと解っていたのか。───皇帝もかっ!」
「陛下は、なんでもご存知です。殿下。」
 ニヤリと笑う騎士に、ルルーシュは眉を吊り上げる。
「なんでも……?俺とナナリーが生きている事も知っていたというのか。その上で何も……俺が行動を起こしても今日まで放置して………なら、何故今頃お前を……っ!」
 怒りに任せてまくしたてるルルーシュが全て言い終わらぬうちに、騎士の拳がその細い躯の、みぞおちに突き刺さる。
 ルルーシュはうめき声と共に苦痛に顔を歪めると、そのまま隻眼の騎士に倒れかかった。
「遊びの時間はこれまでです───殿下。」
 ビスマルクは、ルルーシュの体を受け止めその顔に仮面をかぶせると、肩へ担ぎ上げた。
 そのまま出口へ向う彼に、ジノが追いすがる。
「まっ待って下さい。ヴァルトシュタイン卿、殿下を一体どこへ……」
「決まっている。本国の陛下の元へ連れて行くのだ。」
「で…ですが………」
「ジノ・ヴァインベルグ。主命に背くつもりか!
 エリア11のテロリスト、ゼロを捕らえ陛下の元へ届ける。それが、ナイトオブラウンズに課せられた勅命であり、その仮面の下を詮索するものではない。分を弁えろ!」
「イ…イエス マイ ロード………」
 悔しげに歯噛みしながら頭を下げるジノに、ビスマルクはクスリと笑みを浮かべた。
「では、我々のこの地での役目は終わった。帰還するぞ。」
「お待ち下さい。私は、スザク殿下をお護りするようにとも命を受けています。殿下の安全が確保されるまで、ここに留まりたいと思います。」
「良かろう。では、ゼロを連行する役目は、私が引き受ける。後数時間もすれば、シュナイゼル様の軍も到着される。
それまで、このエリアの事はお前に任せる。すぐにトウキョウに帰るのだな。」
「イエス マイ ロード。」

 飛び去るギャラハットを見送り、ジノは頭を左右に振ると拳をトリスタンに打ち付けた。
「くそっ!」
「───ゼロ………ルルーシュは、本国へ連れて行かれたの……?」
 呆然とした少女の声が、耳に届く。
 後ろを振り返ったジノは、そこに先ほど自分たちの前から逃げ出した少女の姿を見た。
 憔悴し、涙の痕も残るその顔に、侮蔑の表情を浮かべる。
「あの方がどうなろうと、君には関係のない事だろう。」
 その言葉にカレンは一瞬顔をしかめるが、すぐに俯く。
「それよりも、仲間の応援に行かなくてもいいのか。
いや……もう、生き残った仲間を捜して逃走ルートを確保すべきだな。もうじき、本国から援軍が来る。黒の騎士団もこれで終わりだ。」
 俯いたままのカレンに目もくれず、ジノはトウキョウ租界へ戻っていった。
「………解っているわよ……言われなくても。黒の騎士団はもうおしまい……
日本解放の夢も……なにもかも………」
「つまらんな。そんなに簡単に諦めのつくものだったのか。お前達の“夢”は。」
 一人きりだと思っていたところへいきなりかけられた声に、カレンは驚いて振り向いた。
 そこには、見知った顔の少女が不敵な笑みを浮かべて立っている。
 まるで、たった今海から上がって来たかのようなずぶぬれの姿で。

 夢を見ていた……もう遥か昔、スザクが一番幸福だったと思える頃の夢を…… 
 ルルーシュとナナリーの3人で、幸せについて語り合った事があった。
 それは、きっとガラスのようなものだと言い出したのは誰だったか……確かにそこにあるが透明で、でも、角度によって様々な光でキラキラ輝いている………
 その「幸せ」も、戦争によって粉々に砕け散ってしまった。
 砕けた欠片を拾い集めて、モザイクのように繋ぎ合わせれば、またあの頃に戻れるだろうか。
 ベッドサイドテーブルに置かれた時計を手に取る。
 父、枢木ゲンブの形見の懐中時計……実の父親と繋がる唯一の品であるその蓋を開ける。その蓋の裏には、色褪せた写真が貼られている。
 それはまさに今、夢に出て来た3人一緒の写真。
 幸せそうに微笑む自分たちの姿に、頬を緩めそっと指で撫でた。
「ルルーシュ……ナナリー………」
 2人の顔がにじむ……自分が泣いているのだと解った。
 モザイクの欠片を繋ぎ合わせても、もう元には戻らない。
 つぎはぎだらけのいびつな絵……もう、あの頃には戻れない。
 美しく優しかった日々はもう帰って来ない……分かっている。
 これは、過ぎ去りし日々への惜別の涙だ。

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