a captive of prince 第16章:モザイクカケラ - 7/11

 トリスタンを飛行形態から変形させる。ジノは、ナイトメアの残骸に寄りかかるように座り込んでいる皇女に駆け寄った。
「殿下っ。」
「ナイトオブスリー……戦況は…我が軍に有利だ……」
 膝をついたラウンズに、コーネリアは途切れ途切れに言葉を続ける。
「……私の負傷は……極力伏せて欲しい。兵が…皆が動揺する……」
「分かりました。人目に触れぬよう、軍医をここへ……」
「か……神根島………」
 ジノの言葉を遮るように地名を告げる。
「そこに……ゼロが……」
 探し求めていた人物の名に、はっとして皇女を見つめる。
「それ以外は……駄目だ…思いだせない……」
 コーネリアは、ジノの目を正面から見据えた。
「ジノ・ヴァインベルグ。頼みがある……ゼロを止めて欲しい。」
「止める?捕らえるのではないのですか。」
「あれは……帝国に弓引く反逆者ではあるが……同時に、我が弟でもある。第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア……それが、ゼロの正体だ。」
 皇族の口から三度告げられた名に息を呑む。
「私は、あれの姉だ……弟の過ちは正さねばならぬ……それが、私の…姉としての努めだ………
ナナリーのためにも…あやつにこれ以上罪を重ねさせる訳には……
こ…こんな事を頼むのは筋違いだと分かっている…が……貴公に頼るしか………」
「コーネリア様。何故私に……?」
「お…お前は、スザクの騎士になるはずだった男だ……
私達の、ルルーシュへの想いも……知っているだろう………」
「───今も変わらず愛していると……?実の妹姫を貶められ利用されたのに?」
 試すようにジノは問いかけた。
「……そうさせたのは私達だ……恨むなど……ユフィは爪の先ほども思っていまい。
帰ってこいと……伝えてくれぬか……?」
「イエス ユア ハイネス。必ずお伝えします。」
「行けっ!神根島へ。」

 遠く飛び去って行く機影を見送り、コーネリアは思う。
 罪は購わねばならぬ……私も……お前も……… 
 お前を“ゼロ”にしてしまったのは私達の罪……せめて、謀反人としてではなくルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとしての最期を……
 赦せよ……ルルーシュ……ナナリー………

 地平線より太陽が姿を現す……陽の光に照らされ、空気が赤く燃えた………

 膠着状態の戦況に動きが生じた。
 黒の騎士団の指揮に乱れが出て来たのだ。政庁を守るのはコーネリアの騎士も務める“帝国の魁”と呼ばれるギルフォードとグランストンナイツ。彼らがこの機を見逃すはずも無く、攻勢に出た。
 黒の騎士団の戦線の乱れは、ひとえにゼロの突然の離脱に原因がある。
 行方知れずになった妹、ナナリーの捜索を優先し、指揮を全て藤堂に任せたのだ。
 いかに藤堂であっても、これほどの戦闘で全体を把握するのは至難の業だ。ゼロが全体を、藤堂が前線をと指揮を分担して来たからこそ組織的戦術を可能にして来たのだ。
 ゼロの戦線離脱は各戦局に不安と混乱を齎し、敗色が濃くなっていく。
 そして、リーダーであるゼロに見捨てられたという想いも強くなっていく……
 輻射波動を失いながらも闘うカレンも不安にかられていた。
 そんな彼女の元に、1つの通信が入る。
『カレン………』
「扇さんっ。大丈夫なんですか!?」
 裏切った協力員によって銃撃され、重傷を負った副司令扇要からのものだった。
『カレン……ゼロを追うんだ。彼の行動には……何か理由があるはずだ………』
「追うっていっても……ゼロの機体は……それに、どこへ向ったのかも……」
『見えないか……上だ。』
 扇に促されて上空をモニターすれば、租界を離れ飛んで行く飛行体が映し出される。
 戦闘機のようなフォルムの白い機体は、あのラウンズのものだ。
「あれは……」
『きっとゼロを追っている……彼を護るんだ。
ゼロは……ナオトの遺志を継ぐものだ……死なせてはいけない。」
「はいっ。わかりました!
 補給班、接収した輸送機を私に回せっ。最優先だ!!」
 白い機体が飛び去った方角を索敵班が割り出す。
「この方角は……神根島……っ!?」

 海原に巨大な影が2つ落ちていく。
 その音を背に聞きながら、ルルーシュは今敵と共に海に沈んだ巨大ナイトメア、ガウエンをシュナイゼルの目の前で奪った洞窟を目指した。
 そこに多くのブリタニア軍人がいた痕跡は無く、岩肌と扉のような大きな岩盤があるだけだ。
 洞窟に近づいた時のようなトラップは無く、何の障害も無くそこに辿り着けた事に、ルルーシュは警戒を強くする。
───やはりあのトラップは時間稼ぎか、目的は俺か…C.C.という可能性もある………
 いずれにせよ、ナナリーの無事を確認してからだ───
 幾何学模様のような線が描かれた巨大な扉……地下洞窟の天井には、以前ルルーシュ達が降りて来た穴が残っているため、そこだけ明るい。
 ルルーシュが慎重にその扉に手をかけた時だった。
「そこから手を離してもらおうか。ゼロ。司令官が戦線を放棄してこんなところに何の用なのかな。」
 聞き慣れないテノールの声。いや、1度だけあの行政特区のステージで聞いた。
───こんな時に………!
 ルルーシュは、仮面の下で毒づいた。

1

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です