a captive of prince 第16章:モザイクカケラ - 8/11

 背後から近づいてくる気配は1つ。
 ブーツの踵を響かせてやって来る長身の男の手には銃が握られている。
「こちらをむくんだ、ゼロ。ゆっくりと………」
 有無をいわせぬ圧力に、ルルーシュはゆっくりと振り向いた。
「ナイトオブスリー。ユーフェミアが行おうとした蛮行に、虐げられてきた者達がついに立ち上がったのだ。我々は、彼らに賛同し我々の信じる正義を行っている。」
「仮面を外してもらおうか。素顔も晒せぬ者の主張など、どれほど真理をついていようが所詮戯れ言に過ぎない。
帝国のやり方に不満があれば、正々堂々と申されるが良かろう。
私は、ブリタニア皇帝直属の騎士。騎士の最高位を戴く者として、貴公の秘密も、その想いも全て引き受けるつもりでここに参った。」
「私の秘密……?」
「その仮面の下に隠されている素顔……誰にも口外しないと約束しよう。外して頂けませんか……殿下。」
 皇帝の騎士の口から出た敬称に息を呑む。
「無理矢理暴くような真似はしたくありません。どうか………」
「私を『殿下』と呼びながら、その狼藉はなんだ。」
 ゼロの指摘に肩をすくめると、ジノは銃を収め膝を折った。
「平にご容赦を……どうかこの私めにご尊顔を拝する栄誉を賜りたく、お願い申し上げます。」
 ジノの嘆願に、ゼロは仮面の後ろに手をやった。
 カチリと音が響き、仮面が外される。
 その下から現れた白皙の面、流れる黒髪……騎士を見下ろす紫紺は主と同じロイヤルパープルの瞳。
 その姿にジノは目を見開き息を呑む。
「うそ………」
 跪く騎士の斜め後方から、少女の悲鳴にも似た声が漏れた。
 岩陰から赤いパイロットスーツの少女が、ヨロヨロと現れた。
「やあ、お嬢さん。ずいぶんと勇ましい姿だ。パーティードレスも素敵だったが、その姿もお似合いですよ。」
 以前出会った時とは全く違う姿だが、ジノには、彼女がスザクのパーティーで会った病弱だという少女だとすぐに分かった。
「元皇位継承者。神聖ブリタニア帝国第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下でいらっしゃいますね。」
 後ろで青い顔をしている少女に分かるように名を確認する。
 真直ぐに自分を見据える男に、ルルーシュはゆっくりと頷いた。
「な…なんで……どうして……ルルーシュが……ゼロ………」
 カレンは、驚きのあまり一歩二歩とその場を後ずさる。
「ゼロがルルーシュで……ブリタニアの皇子………」
 混乱するカレンにルルーシュは微笑する。
「───そうだ。俺がゼロだ。黒の騎士団を率い、神聖ブリタニア帝国に挑み、世界を手に入れる男だ。」
 薄い笑いを浮かべて目の間に立つ男を、カレンは愕然として見つめる。
───何を……何を言っているのよ……こいつは……
 世界って…なに?私達の目的は、日本を取り戻す事ただそれだけ。
「あ、あなたは……私達日本人を利用していたの?私のことも!」
 すがりつくような目で問いかける。本当は否定して欲しい……だが、彼女の願いは届かなかった。
「結果的に日本は解放される。文句はないだろう。」
「っ!!」
 カレンが顔色を失った。
「あ……ああああ………」
 涙があふれる。
 結果……?結果的って……扇さん……ゼロは……お兄ちゃんの夢の後継者なんかじゃない……この人は…敵の皇子で……私達を弄んで……私達は利用されたんだっ!
 少女が涙を散らしながらかけ去って行った。
 その後ろ姿を見送り、ルルーシュは足下に跪く若い騎士を見下ろした。
「どうやって私の正体を知った。コーネリアか?」
「はい。コーネリア様…ユーフェミア様。そして、スザク様から伺いました。」
「───!!スザク……スザクが俺の事を知っていた………?」
 驚きに目を見開くルルーシュに、ジノは静かに頷く。
「私が一番始めに殿下の事を知ったのは、スザク様からでした。
この反乱を鎮めようと、負傷をおして出撃なさろうとしたのをお止めした時に……」
「いっ一体いつから………」
 まさか……あの夜。文化祭の前夜、俺の元へ忍んでやって来た時には……もう知っていたのか………?
「ユーフェミア様が、神根島で知られたそうですね。
スザク様には、澤崎の反乱の後に話されたそうです。」
「で……では、あの行政特区は……」
「ユーフェミア様は、ルルーシュ様とナナリー様のための施策であったと……スザク様は何も仰られませんが、恐らく同じお気持ちかと……
ですが、それもルルーシュ様にとっては、復讐を果たすための道具でしかなかったのですね。」
「なに……?」
 睨みつけるように見上げて来る騎士に、眉を吊り上げる。
「貴方は、ユーフェミア様の好意につけ込み、あの方が最も忌み嫌う言葉を言わせた。どんな方法でそうさせたのかは解りませんが……」
「───!俺の力の事……ギアスの事も知っているのか……」
「ギアス……それが、殿下がお持ちの力ですか。」
 ジノの問いかけに、ルルーシュは歯噛みした。
 しまった……こんな簡単な誘導尋問に!
「お前にその事を教えたのは誰だっ。」
「スザク様です───」
「スザクが………」
 クッとルルーシュが笑みを漏らした。
 そうか……あいつが…………
 スザクの命を救うために使ったギアス……身に起きた事と今回のユーフェミアの異変を照らし合わせて、そう結論づけたのか………
 ルルーシュは、低く笑いだした。
 クックックック………
 笑い声が、洞窟に響く。
「フ……ククク………それで?私を捕らえるために、お前を差し向けたのか。」
 半ば諦めて皇帝の騎士に問う。
 ユーフェミアだけでなく、スザクまで救いの手を差し伸べようとしていたとは衝撃だった。今思えば、スザクの言葉の端々に黒の騎士団から手を引かせようという意図が伺える。
 それをはね除け、ユーフェミアを汚し従妹を護るために負傷したスザクをも利用し、反乱を煽ったのだ。愛想を尽かされて当然だ。
 自分はほぼ丸腰……逃げ隠れできぬ洞窟で目の前には帝国最強を誇る騎士……万事休すだ。

1

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です