a captive of prince 第16章:モザイクカケラ - 3/11

「病室に移ったと聞いて……順調に回復しているようで安心したわ。」
「自室に籠っているって聞いたけど……」
「どうしてもスザクに会いたくて、抜け出して来ちゃいました。」
 茶目っ気のある笑顔に破顔する。
「ユフィ、相変わらずだな……もっと落ち込んでいるのかと思った。」
「……落ち込んでいますよ。」
 先ほどまで明るかった顔を曇らせ、ユーフェミアが言う。
「スザク……特区は………」
「行政特区日本は……失敗だ。
今回の事で、日本人の信頼を取り戻すのはかなり困難だと言わざるを得ない。」
「そう……そうですよね………」
 ユーフェミアは小さく頷いた。
 これからゼロ……ルルーシュはどうするのだろう。
 全面戦争も辞さない態度を思いだし、スザクは眉根を寄せた。
「スザク………」
 不安そうなユーフェミアに笑顔を向ける。
「なんでもない。………それより、僕と一緒で何ともない?」
「え?」
 常と変わらぬ彼女の態度に、僅かな期待をこめて尋ねる。
「僕、日本人だよ。」
 すると、ユーフェミアは一瞬目を大きくすると、その瞳を伏せ首を振る。
「いいえ。スザクはスザクだわ。」
「ユフィ………」
「どこで生まれようと、どこで育とうと、スザクはスザクでしょ?
そう解っちゃったの。」
「ユフィ……それって………」
 ゼロの……ルルーシュの暗示を克服したという事なのか。
 スザクは驚愕して彼女を見る。可憐に微笑む少女からは、殺意のかけらも感じない。
 何事もないように笑うユーフェミアの、その内面の何と強く逞しい事か………
 ルルーシュが、復讐のために血を分けた妹さえも道具にした事に衝撃を受け、生きる気力すら失いかけていた自分がとても小さく情けない人間に思えて来る。
 自分を恥じるスザクに、ユーフェミアな真剣な表情で話しかけて来た。
「スザク……ルルーシュが特殊な力を持っていて、それで私を操ったって言っていたわね。でも、それはスザクの憶測で、証拠もないしルルーシュが認めた事ではないでしょう。」
「だが、状況が揃いすぎている。」
「お姉様に、あれは私の本心からの言葉ではないって言ってくれたのはとても嬉しいの。でも、そのためにルルーシュを悪く言って欲しくない………」
「ユフィ……彼はもう昔の…君のよく知るルルーシュじゃないんだ。
目的のためなら手段は選ばない……血を分けた兄妹でも殺したり利用する冷酷な犯罪者なんだよ。変わってしまったんだ……ルルーシュは。」
「いいえ。変わらないわ。だって、私に“負けた”と言って笑いかけてくれたあの顔は、私のよく知る大好きなルルーシュのままだった。私は、あの時のルルーシュを信じるわ。」
「ユフィ。人は変わっていくものなんだよ。」
「違うわ!どんなに年月が経とうと、取り巻く環境が変わっても、その人の一番根っこの部分は変わらない。
だって、スザク……あなたは……?ブリタニアに来て、貴方は自分が変わってしまったと思う?」
「あっ………」
 スザクは、頭を殴られたような心地がした。
 確かに、生まれ育った国から連れ出され、全く違う環境に放り出されて7年生きて来た。
 置かれた環境に合わせて馴染ませて来たが、その内面は…スザクとしてのアイデンティティは………
「かわってないわ。きっと………私は、日本でのスザクを見た事はないけれど、ルルーシュを通じて枢木スザクという少年を知っている。
 喧嘩早くて乱暴だけれど、正義感が強くて思いやりのある優しい人………ルルーシュが手紙に書いて来た“スザク”と今私の目の前にいるスザクは何一つ違わないわ。」
「───今でも、喧嘩早くて乱暴………?」
「さあ……でも、売られた喧嘩は必ず買って来ていたと思うけど?」
 ユーフェミアの言葉に自分を振り返って苦笑する。
「確かにそうだ。」
「でしょう?ルルーシュだって同じよ。
どんなに姿形を変えようと、行動や考えにはその人がでるわ。
仮面をつけて悪を装っても、中身は妹想いで優しいルルーシュなのよ。」
「───そう言えば、ユフィは彼の事を“ゼロ”とは言わないね。」
「だって、どんな姿をしていようがルルーシュはルルーシュでしょ?」
「ああ……そうか……」
 スザクは、強ばっていた心が解きほぐされていくのを感じた。
 僕は、どこかでゼロとルルーシュを区別して見ていた。
 だから、ゼロと会談を申し込んだときも、ルルーシュが仮面を外し素顔を晒してくれる事を期待しながら、反対にそうされる事を恐れていた。
 クロヴィスを殺し、コーネリアをつけ狙い、多くの民間人を巻き込んだ戦闘をするテロリストと、大切な幼なじみが同一人物だとは認めたくなかったのだ。
 ブリタニアへの攻撃は容認しておきながら………
「矛盾している………」
 スザクは自嘲した。そんな彼を訝るユーフミアに静かに答える。
「ユフィ。僕は、特区設立前にゼロ…ルルーシュと会談したんだ。
テロリストとブリタニアの皇子という立場は崩さずに………その時、君が何故行政特区を提案したのか話した。
だからゼロが式典に現れたとき、ルルーシュは君の気持ちを理解し、協力してくれるものだと思った。それが、あんな事になって……僕は、ルルーシュにはもう想いは伝わらないと決めつけていた。何よりも、君を貶める嘘を僕についた事が悔しかったんだ……」
「だったら、今度はスザク皇子としてではなく、ただのスザクとしてルルーシュと話して。
私達とルルーシュの間に足りないものは会話だわ。
だから、今回は駄目だったけれど、またいつか……ううん、何度でも呼びかけて話をしましょう。そうすればきっと……皆が納得いくいい方法がきっと見つかるわ。」
「───そうだね。」
 憑物が落ちたように穏やかな笑みを浮かべるスザクに、ユーフェミアは安堵した。
「じゃあ。そろそろ部屋に戻るわ。抜け出したのが見つかったら、ナイトオブズリーに怒られちゃう。」
「ユフィ。ジノは………」
「解ってるわ。私の事を信じて心配してくれているって。」
 ユーフェミアの笑顔に、スザクも頷く。
「───外で何かあるのかしら。庁内がなんだかすごく緊張した雰囲気なのよ。中の警備も手薄で……だから、スザクのところへ簡単に来られたのだけれど。」
 部屋を出る間際、ユーフェミアが残した言葉に眉をひそめる。
 なんだか嫌な予感がする………
 スザクは、ベッドサイドに置かれた時計を見た。時刻は午後10時を回ろうとしている。
 ジノとコーネリアの配慮で外部からの情報を遮断されているスザクとユーフェミアは知らなかった。
 このトウキョウで、エリア設立以来最大規模の戦闘が始まろうとしているのを……………

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