a captive of prince 第16章:モザイクカケラ - 2/11

 スザクは、術後の経過良好という事で集中治療室から一般病室に移されていた。
 ジノが見舞いにいくと、ベッドに半身起こした状態ではあるが、顔色は良くなくテーブルに置かれた食事も手つかずのまま放置されていた。
「スザク……まだ食べていないのか。流動食の許可はおりているんだ、食事をとらないと治るものも治らないぞ。」
 努めて明るく接するが、スザクは生彩のない顔で首を振る。
「欲しくないんだ……下げてくれないか。」
「無理にでも食べないと、どんどん体力が衰えるぞ。傷の治りも遅くなる。解るだろう?」
「ああ。でも………」
 食べようとしないスザクに、ジノは実力行使にでた。
 皿からスープを掬うと口に運ぶ。口を開けるように促すと、渋々という様子ですすった。
「どうだ?」
 食事を口にした事に安堵し、感想を尋ねれば苦笑で応える。
「───おいしいよ。」
「食事を旨く感じられれば上等。」
 うれしそうに次々とスプーンを運ぶジノに、半分ほど食べるともうお腹一杯だと断る。
 それでも、スザクが食事をとった事に満足したジノは、皿を下げた。
「栄養を取ったらよく眠る。これが怪我を直す早道だぞ。」
 おどけて言うとベッドのリクライニングを下ろし、スザクの体を寝かせた。
「ジノ。なんだかお母さんみたいだ。」
「母親ぁ?せめて兄貴ぐらいにしてくれよ。」
「年下だけどね。」
 2人は顔を見合わせ、くすくすと笑う。
「早く元気になれ。ユーフェミア様も心配していたぞ。」
 ユーフェミアの名に、スザクはほころばせていた顔を陰らせる。
「ユフィ………どうしてる?」
「今は、本国での裁きを待つ身だ。自室に蟄居して頂いている。
 でも、お元気にしていらっしゃるよ。」
「───そうか。」
 ジノの笑顔に、スザクもほっと安堵の笑みを浮かべる。
「失礼します。」
 挨拶と共に病室のドアが開き、武官が入って来た。
「ヴァインベルグ卿。」
 入り口付近でジノに声を掛け彼を待っているのに「どうした。」と席を立つ友人を、スザクは怪訝な表情で見守る。
 武官は、ジノに二言三言告げると、スザクとジノ両方に敬礼して出て行った。
「すまない。ヤボ用が出来た。」
 相変わらず笑顔で話すジノだが、その顔がどこか緊張しているのを見逃さなかった。
「何かあったのか?」
 尋ねれば、ジノはますます笑みを深くする。
「大した事じゃない。フジの後始末がまだ残っているんだ。」
 その答えに、スザクはすまなそうな顔をした。
「気にするなって。それじゃあ、また様子を見に来るよ。」
 去り際、閉じかけたドアから顔を出して「しっかり寝るんだぞ。」と念を押す彼に、自然と笑みがこぼれる。
 ドアが閉まる時に笑顔が見れた事に安堵したジノは、廊下で自分を待っていた武官には引き締まった顔を見せる。
「状況は?」
「黒の騎士団を中心とした反乱軍は、租界の外2kmまで迫って来ています。
コーネリア総督御自ら反乱軍を迎え撃つべく、ご出陣されます。」
「そうか───。いよいよだな。」
 嵐の前の静けさ………これから起こるであろう激戦に備えるピリピリとした緊張を肌で感じ、ジノは薄い笑みを浮かべる。
 弱冠16歳ではあるが、帝国最強騎士団に身を置くジノにとってはこの緊張は慣れ親しんだものである。
 自分は参戦しないが、それでも独特の高揚感にその碧眼を煌めかせた。

 ジノが、スザクの病室を離れるのを近くにひそんで伺っている人物がいる。
 武官と連れ立ってこの政庁の中心部に向って歩き出すのを確認すると、その人物は滑り込むように病室に入っていった。
 突然の来訪者に、スザクは目を丸くした。
「ユフィ………」

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