a captive of prince 第15章:崩落のステージ - 4/7

「そんな……どうして…嘘だ………!」
「嘘ではない事は、貴方が一番お分かりでしょう。」
「………信じられない………」
 一緒にこの施策を推し進めて来た妹の本心に愕然として呟く従兄を、神楽耶は居たたまれない気持ちで見ていた。
 どうしてこの人は裏切られてばかりなのだろう。
 最初は、父親に10年生きていて初めて出来た親友を奪われそうになった。次は、自分の祖母に家の安泰のため敵国に売られ、そこで一緒に暮らし妹だと思ってきた人物に、銃を向けられた。
 その度にこの人の心はどれだけ傷つけられてきたのだろう。 
 きっとブリタニアでも、皇族とは名ばかりの辛い日々を送っていたに違いない。単騎で、最前線で闘う皇族など見た事も聞いた事もない。
 兄だというシュナイゼルでさえ、式根島ではゼロ諸共殺そうとしたと聞いている。
 そんな思いをしながら、何故ブリタニアに居続けるのか……
 お兄様は、首相を殺してしまったから今の日本があるのだと思っているのかもしれない。でも、それは違うのです。
 スザクが手にかけなくとも、枢木ゲンブと日本の行く末は決まっていた。
キョウトは、枢木首相の暗殺とその後の日本降伏のシナリオを、あの日の1ヶ月も前から用意していたのだ。
 ただ、そのタイミングを伺っていただけ……
 思えば、この人は周りの思惑に振り回されて来た。
 ただ、旧い家に生まれただけで従妹と婚約させられたり、父親が首相なのだからそのあとを継ぐのは当然と、過大な期待をかけられ、捨てられ、利用され……今は、血のつながらない妹の不始末の尻拭いまで……!
 もう、そんな貴方を見ていたくない。自分から逃げ出せないというのなら、私がして差し上げます。

───貴方を自由に───

 あのどさくさに紛れて袖口に隠し持っていたニードルガンを、神楽耶はゆっくりとスザクに向けた。

「神楽耶……」
「神楽耶様……!」
 少女の姿に、スザクとゼロは息を呑む。
「NACは、特区日本参加を撤回しますわ。異論ございませんわね。桐原公。」
「こうなった以上、それもやむを得まい。あの皇女の嘘だったのだから。
スザクよ。お前もここで見限ってはどうだ。ブリタニアを。」
「彼女は…ユフィは嘘など……」
「いい加減、目を覚ませ。枢木スザク!」
 老人が一喝する。
「お前が、あの国に利用され続ける事を望むと言うなら止めはせん。だが、お前がブリタニアにいる限り、日本はいつまでも搾取され続けるのだぞ。
お前が、真に闘うべき相手はどこにおるのだ!?」
「それは………」
 答えかけて、スザクは息を呑んだ。自分たちを取り囲んでいる緊迫した空気………
舞台袖から鋭い視線が、神楽真達に突き刺さっている。SPの一人がどこかに通信をしている。
 皇子に向ってあれほど詰め寄り、あまつさえ、銃を向けているのだ。彼らがそう言う態度に出るのは当然だ。
 ステージだけでなく、スタジアム上段からも、銃口が狙っている気配がある。
 普段から厳しい視線に晒されているからか、それともスザクしか目に入っていないのか、神楽耶は自分に向けられている悪意に気づいている様子がない。
「神楽耶……銃をこちらへ……」
 努めて穏やかに、手を差し出す。
「スザク。私達と日本を取り戻すと言って下さい。」
「神楽耶……銃が狙っている……早くこっちに渡すんだっ。」
「答えて!」
「駄目だっ!!」
 いくつもの銃声が会場に響く。静けさを取り戻しかけていたものが、再び騒然となった。
 神楽耶は、叫び声と共に自分に向ってきた従兄に抱え込まれるように押し倒された刹那、銃声が鳴り響き大勢の足音がこちらに向ってくるのを聞いた。
「殿下っ!」
「ご無事ですか。殿下っ。」
「………大…丈夫………」
 苦しげな声で従兄が答える。神楽耶は、自分に覆い被さっている人物がゆっくり起き上がる時、その白い皇族服に真っ赤な色を見た。
「スザクっ!」
 左の肩口と、右の脇腹に赤いシミがある。
「殿下!」
 駆け寄るSPに、スザクは厳しい声をかける。
「誰が発砲を許した!」
「し…しかし、その女が、殿下に銃を………」
「それは誤解だ。彼女は、落ちていた銃を拾って、渡そうとしていただけだ。」
「で…ですがっ。」
「今1度言う。彼らに害意はない。
この会場内で、いかなる理由があろうとも、日本人を攻撃する事は許さない。」
 スザクの体が、ぐらりと傾いた。
 神楽耶とゼロが駆け寄ろうとしたその時、上空より激しい風が吹き下ろされる。
 彼女らを始めその場に居合わせた者は風に煽られ、体勢を崩した。
『それ以上、殿下に近づく事は許さない。』
 頭上から轟く声に顔を上げた神楽耶とゼロは、眼前に巨大な鎌の刃を見た。
 視線をあげれば、そこには青いボディに白い顔の、これまで見た事のないナイトメアが、ガウエンのように中空に立っている。
「──これはっ。」
 誰もがその巨人に注目した。
「このナイトメア……まさか……」
 ゼロがうわずった声を上げる。
 地上に降り立った巨人のコクピットが開かれ、中から白いパイロットスーツの青年が飛び降りて来る。
 晴天の空に映える金糸の髪……精悍な顔立ちの青年は、ステージに倒れているスザクに駆け寄り助け起こした。
「殿下。しっかりして下さい!」
 呼びかけに、スザクはうっすらと瞳を開ける。
「───ジノ……?」
「はい。ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ。
たった今、殿下の御前に馳せ参じました!」

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