「スザク。死ないでください。」
ユーフェミアは、奪い取ったナイトメア「ポートマン」を必死に操縦しながら祈りにも似た声を漏らす。
彼女の中に激しい後悔と自責が渦巻いていた。
あの時、周りの軍人は報復の可能性も示唆していたではないか。
この戦いに身を投じる事もコクピットから出るようにも自分が命令した。
彼のためと思ってしたことなのだが、自分の考えが浅はかだったばかりに。
自分の言葉の重みを、何も解っていなかった。
「私…私のせいでスザクを死なせるなんて事……!」
絶対に、嫌!!
樹木をなぎ倒しながら、森を抜ける。
ランスロットの姿を確認したとき、頭上に影を見つけた。
「あれは……お兄様のアヴァロン……!」
戦場と化した交渉の舞台に突如巨大な影を落としたものに、空を振り仰いだ黒の騎士団団員たちは息を呑んだ。
「あれは……戦艦!?」
「ど…どうして、飛んでいるんだ?」
驚愕と動揺の声が、通信パネルを通して届けられる。
それに対して、藤堂は怒鳴るように指示を浴びせた。
「狙い撃ちされる!周辺の木を盾にして、敵の射程をしぼらせるな!影から撃ちまくれ!!」
空飛ぶ戦艦、アヴァロンに向けて地上から一斉に砲撃する。
アヴァロン側面の機銃の銃口が地上に向けられ、頭上から弾丸が降り注いだ。
それらは黒の騎士団のナイトメアを破壊し、窪地に仕掛けられているナイトメアの動きを止める装置“ゲフィオンディスターバー”の力場発生ポットを破壊する。
ランスロットを捕らえていたフィールドは消滅した。
「軍人は命令に従わなければならないんだ!」
スザクが怒鳴れば、ゼロも怒鳴り返す。
「はっ!その方が楽だからな。人に従っている方が!シュナイゼルに依存するのも、そういう訳か!」
「違うっ。僕は、兄さんに依存なんか……っ!」
そのとき、通信パネルが受信を伝える信号を発した。
「これは…ロイヤルプライベート……」
2人の意識が、それに集中する。通信パネルから、2人にとって馴染みのある声が流れた。
『……ク……スザク……』
「兄さんっ。」
『聞こえるか……スザク……』
相変わらずジャミングの効果で、プライベート回線でさえ聞き取りにくい。
『……ご苦労だった……もう……なさい……』
「───なにを……もうスザクはいらないというのか。もう不要だと?だから死ねと……!!」
ルルーシュの怒りが、冷たい機械に囲まれたコクピットに響く。通信パネルからは、忌々しい声が断続的に流れてくる。
『……く……そこ……死……これから……いだ……スザク……スザク……愛してるよ……スザク……』
「兄さん……その言葉をもらえただけで…僕はもう……最期にあなたの声が聞けて良かった……」
「黙れっ!そんな言葉で、スザクを惑わすなっ!」
ゼロが、怒りをこめて通信を叩ききる。
「僕は、惑わされてなどいない!勝手な思い込みで、決めつけるなっ!」
「決めつけなどではない!お前も聞いただろう。
シュナイゼルにとって、お前は所詮……っ!」
言いかけた時に、外の異変が2人にも伝わった。
コクピットの外が暗くなり、銃声が飛び交う。
後方を振り返ったスザクは、上空にアヴァロンを見た。
……やはり、あの命令は兄さんのものだったんだ。
なら、僕のやるべき事は……!
「スザク!本当に死ぬぞっ!」
「このままでいいんだっ!ブリタニアの皇族として、死ねればっ。
兄さんの役に立てるなら!!」
「このっ…分からず屋が!」
ゼロが、仮面のギミックを外し左目を見せた。
突然現れたゼロの素顔の一部に、スザクの目が奪われる。
「生きろっ!」
赤い鳥が、スザクに向って羽ばたいた。
その数十秒後───
アヴァロンのハッチが開き、巨大な砲火が地上に向って放たれた。
そして……辺り一面を吹き飛ばした。
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