a capthive of prince 第8章:スザクに命ず - 2/7

 船の進む先に緑の島影が見える。目的地の式根島だ。
 合流地点の指定はシュナイゼルからだったが、彼が何故そこにしたのかはスザクにも知らされていない。
 唯一、事情を知っていそうなのがロイドだが、詳しい事は知らされていないのだと、いつもの飄々とした口調で答えるのみだ。
 何かごまかされていると思うが、会えば解る事だと寄港準備に意識を向ける事にした。
 準備作業に慌ただしい艦橋へ②人の皇族が現れると、作業の手を一時止め敬礼する。
「到着予定時刻に変更はありません。副総督。」
「そうですか。」
「護衛艦につきましては、湾内に入らず、そのまま近海で警戒任務に当たらせます。」
 艦長の説明にスザクが頷くと、ユーフェミアがそのようにと指示を出す。
 スザクが公務に就くにあたって与えられた役職は、副総督補佐。
 よくもこんな役職をひねり出したものだと、スザクにふさわしい役職をコーネリアに指示された文官達の苦労を考えると頭が下がる。
 今まで日陰の身だった“おまけ”の皇族が突然表舞台に出る事になり、総督府及び軍を統括する統治本部には大きな動揺が生じた。
 “お飾り”副総督ユーフェミアの扱いにも苦慮しているというのに、今度は、皇位継承権こそないが宰相の弟が公務に就くとなると肩書きのみの閑職という訳にもいかず、さりとて、ナンバーズ出の皇族に大きな顔をされるのもしゃくに触る。
 純血派ほど極端ではないものの、選民思想にどっぷりと浸かったエリートも納得できる役職だった。
 面倒な者同士を一緒に行動させた方が、扱いが楽だという結論に至ったらしい。
 これならば、スザクの後ろ盾であるシュナイゼルやコーネリアも文句はないだろう。
 おかげで、スザクはユーフェミアと行動する事が多くなり、軍務よりも福祉活動や講演、セレモニーへの出席など、広告塔としての役割が多くなった。
 軍艦に乗船するなど、久しぶりだ。
 何事もないと思うが、出資者であるシュナイゼルに研究の成果を見せるためにランスロットも載せてきている。
 忙しく動き回る乗組員を少々羨ましく思って見ているスザクに、立場上指揮官席に座ったユーフェミアが、椅子を用意させましょうかと気遣う。
「いいえ。大丈夫です。ここは彼らに任せて、私は格納庫の様子を見に行きたいのですが。」
「許可しましょう。」
 ゆっくりして下さいと小声で送り出したユーフェミアは、艦橋を出て行くスザクの後を下士官が慌てて追いかけていくのを見て苦笑した。
 スザクも、周りの方々も大変ですわね。

 式根島に到着した一行を、島の司令部の士官が出迎える。
 シュナイゼルも予定通りの到着と報告を受け、ユーフェミアが、ではここで待ちましょうとスザクに確認したときだった。
 地響きと共に司令部の建物から黒煙が上がった。
 司令部の奥。島に茂る森から何機ものナイトメアが躍り出てくる。
「───黒の騎士団!」
「一体いつの間に……」
 唖然とする軍人達に、スザクの激が飛ぶ。
「何をしている。至急現状の把握を!司令部と通信は繋がるか!?」
「はっはい。司令であるファイエル中佐を始め、司令本部の機能は損なわれていません。現在応戦中。」
「副総督。ここは危険です。艦内に避難して下さい。」
「いいえ。私はここにいます。それよりも、スザクは司令部の応援を…ランスロットを持って来ているのですから。」
「しかし……」
「お待ち下さいユーフェミア殿下。スザク様に出撃命令は……先日の報復も考えられます。」
「なら尚更です。報復を恐れて逃げ隠れするなど、ブリタニア皇族の名が泣きます。」
 凛としたユーフェミアの声が、さらに何か言おうとした士官の口をつぐませる。
「スザク。私の事は何も心配ありません。ブリタニア皇族として、敵を迎え撃って下さい。」
 懇願にも似たユーフェミアの命令に頷くと、後ろに控える者達に指示を出す。
「ロイド少佐。ランスロットの出撃準備を。」
「イエス ユア ハイネス。」
「それから、隊長。沖で警戒中の護衛艦に、島周囲の探索を海上と海中の両方する様に指示を。」
「海中も、でありますか。」
「ここに基地がありながら、上陸を許してしまっている。これだけの部隊を運ぶのなら船か、もしくは…
黒の騎士団が潜水艦を所有しているという情報はないが、考えられない事ではない。」
「イエス ユア ハイネス!」
 スザクの考えに合点のいった部隊長が下士官に指示を出すのを見て、スザクも出撃のために動き出す。
「では、副総督。いって参ります。」
「はい。無理はなさらないで下さいね。」
「ありがとうございます。副総督もお気をつけて。」
 士官らに敬礼で送り出されるスザクを見つめるユーフェミアは、祈る様に胸の前で手を組んだ。

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