a captive of prince 第4章:黒の騎士団 - 5/5

「黒の騎士団…ね。ゼロがついに自分の組織を立ち上げた、という事かな。
そして、正義の味方を気取って、不正を働いているブリタニア人を取り締まっている…と。」
 モニター越しの兄が何やら楽しげに語るのを、スザクは眉をひそめて見た。
「それは警察の仕事です。内偵調査中に黒の騎士団に押し入られて、巻き添えで負傷した警官も出ています。」
「その警官には不幸な事だね。黒の騎士団へのイレヴンの支持は上がっているのだろう?」
「はい。」
 苦々しく答えるスザクに、シュナイゼルは内心安堵した。
「カワグチ湖の事件以来、黒の騎士団を支持する声はイレヴンだけでなく、名誉や一般のブリタニア人にまで及んでいます。」
「ブリタニア人の中にまで、テロリストを支持する者がいるのかい?」
 意外だというシュナイゼルの言葉に、スザクはため息とともに頷く。
「『被害者』とされる者が不当な事を働いたのですから。儀族の様に見えるのでしょう。
コーネリア姉上は、とんでもない偽善者で扇動者だと怒っています。」
「その通りだね。ゼロの…黒の騎士団の目的は、総督府の権威の失墜かな。」
「……恐らく。」
 兄の考えをスザクも肯定する。
「黒の騎士団に煽られて、最近では他のテログループも活動が激しくなって来ています。
黒の騎士団の目的とは一体……」
「それは、勿論国家転覆しかないだろうね。」
 はっきりと断定するシュナイゼルに、スザクの表情が硬くなる。
「恐らく黒の騎士団は、エリア11でも有力なテログループになるだろうね。
小さな組織を飲み込み、他の有力グループと覇権争いをする様になるだろう。」
「──イレヴン同士で争いを……?」
「そうなってくれればこちらとしてはずい分楽だが……さて、ゼロがどう動くか……
イレヴンではないらしいね。彼は……。」
「ユーフェミアの話からすると、ブリタニア人の可能性もあるらしいです。
それも、皇室にかなり近い身分の……」
 コーネリアと幕僚等の会議に参加した時のことを思い出して言うと
「実に興味深い話だね。」
と頷く。
「そして今日も、コーネリアはゼロに刺激されたテロリスト討伐かい?」
「はい。今日は、チュウブ地区の有力グループを潰すとか。」
「スザクは行かなかったんだね。」
 面白そうな表情で言うシュナイゼルに、スザクの眉間のしわが深くなる。
「置いていかれたのです。特攻まがいに敵に突っ込む奴は、安心して連れて行けないと言われました。」
 それが、例のカワグチ湖の事件の事だと知っているシュナイゼルは、声を上げて笑う。
「コウの心配はもっともだと思うよ。」
「ですが。自分は軍人です。軍人なら、時にはそういう作戦もあるでしょう。」
 頬を膨らませて反論するスザクに、シュナイゼルは先ほどまで見せていたのとは打って変わって、真面目な顔をする。
「確かにそうだけどね。軍人である前に、お前は皇族だ。他人の上に立つべき存在なのだよ。
お前に何かあれば、お前の側にあった者達が責めを負う事にもなりかねない。」
「それは……」
 言い返そうとしたスザクではあったが、特派のメンバーの顔が浮かび、口をつぐんだ。
「ロイドご自慢のナイトメアではあるけどね。あれは、あくまで試作機で実戦に向いているとは言いがたい。
何しろ、未だに脱出装置がないそうじゃないか。」
 本人が聞いていたら頭を抱えそうな痛いところをつかれ、スザクは目を彷徨わせる。
「単機での突撃は、よほどの事がない限り、今後認めない。」
「シュナイゼル兄さん……!」
「いいね。これは、宰相としての命令だよ。」
「───イエス マイ ロード。」
 返事はしたものの、不満げな弟にシュナイゼルは苦笑する。
「コウに心配かけるのではないよ。あれも、ユフィというおてんば娘を抱えて大変なのだから。」
「ユフィが聞いていたら怒りますよ。」
 兄の軽口につられて、スザクも笑みをこぼす。
「スザク。お前の命は、お前だけのものじゃない。その事を肝に銘じておくのだよ。」
「はい。」
 真摯に答えるスザクに、シュナイゼルは満足そうに微笑むと通信を切った。

       

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