「テロリストに、身分を明かしたと言うのは本当か?」
一夜明け、ホテルジャック事件の詳細が明らかになってくると、人質等の証言からユーフェミアの無謀な行動がコーネリアの耳まで届いた。
総督室に呼び出されたユーフェミアは、今にも青筋立てて怒鳴りそうな姉を前に身を縮こませた。
「はい。でも、あの時私が名乗り出なければ、人質の少女が暴行され殺されていました。」
怯える少女が思わず漏らした『イレヴン』という言葉。
それが、テロリストの琴線を刺激した。怒りに声を荒げる男。少女をかばう友人達の態度も、さらに火に油を注ぐ形になってしまった。
見れば、自分と同じ年頃。きっと、学校の友人同士で観光に来ていたのだろう。
楽しい思い出になるはずだった旅行を恐怖に変えた男達への怒りと、皇女としての矜持がユーフェミアを突き動かした。
「私は、確かに無謀な事をしたと思います。けれど、そのままにして彼女等を見殺しにしてしまっていたら……私は、こうしてお姉様の目をまっすぐに見る事は出来ませんわ。」
凛として、臆する事なく自分を見返す妹に、コーネリアはフッと笑みを浮かべる。
「スザクも同じようなことを言っていたな。」
「あら。スザクと同じだなんて。嬉しいわ。」
嬉しそうにほころぶ妹に、コーネリは戒告する。
「だが、スザクとお前では立場が違う。お前は、このエリアの副総督なのだぞ。立場に見合った行動を心がけよ。」
「はっはい。総督。」
コーネリアの厳しい声に、ユーフェミアは背筋を伸ばした。
「そこでお前は、ハラキリをした草壁等を見たのだな。」
「はい。私が通された部屋は、自殺したテロリストだらけで……」
むせ返るような血臭の中、累々と転がる死体を見下ろしてその男が立っていた。
仮面のテロリスト。クロヴィスを殺した男、ゼロが。
「ゼロは、なんと言っていた。」
「彼らは、良心の呵責で死を選んだのだと…そして、私には副総督就任の祝いを……」
「何だと。忌々しい!」
「クロヴィス兄様を殺した理由を聞いたのです。そうしたら…ブリタニア皇帝の子供だから殺したのだと答えました。そして…私にも銃を……」
「ユフィ……!」
コーネリアの手が伸び、ユーフェミアの手を取る。それに励まされて、ユーフェミアは俯いていた顔を上げた。
「ゼロは…お姉様との約束だから、今は見逃すと言っていました。
あの人物は、一体誰なのでしょう。とても、ただのテロリストとは思えません。お父様に、並々ならぬ恨みを抱いている様に見えました。」
仮面越しからでも分かるゼロの怒りと憎しみ。
その激しさに、ユーフェミアは恐怖よりもむしろ懐かしさのようなものを感じていた。
それが何故なのか。今は分からないが……
a captive of prince 第4章:黒の騎士団 - 4/5
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