「地下道のリニアキャノンに、単機で突撃した!?」
コーネリアの報告に、シュナイゼルは顔面蒼白になった。
そんな兄の姿に、コーネリアは内心溜息をつく。
「まさか、君の指示じゃないよね。」
念押しのようで、かなり疑わしそうに尋ねられ、コーネリアはこめかみをヒクヒクさせた。
「当然です!私は止めたのですが……」
「スザクが強行した…?」
「いえ…結局私が許可した事です。」
そういって目を伏せる妹に、今度はシュナイゼルが溜息を漏らす。
「あの子も頑固だからね。一度言い出したら聞かないところがある……
世話をかけて申し訳なかったね。」
弟の我が儘を詫びるシュナイゼルに、コーネリアは頭を振って答える。
「そういう訳ではないのです。皇族として臣民を助けたいと言われ、ほだされてしまいました。」
「スザクがそう言ったのかい?」
「はい。」
モニター越しに兄妹は顔を見合わせた。 どちらも頬が緩んでいる。
「それは…君が許可してしまったのも頷けるかな。」
そう言いながら、口元に手をやる。どうも、顔がニヤけて仕方ない。
そんな兄の様子に、姫将軍と言われる猛女の表情も柔らかくなる。
だが、自分の腹心であるダールトンの忠告が頭をもたげ、顔を引き締めた。
「ですが、兄上。」
「何だい?」
「私は時々、スザクを見ていると怖くなる事があるのです。」
「怖い?」
聞き捨てならない言葉に、表情が硬くなる。
「どういう意味だい?」
「スザクは…もうそんな事は考えていないと言っていますが……
あれの闘い方を見ていると、時々、死に場所を求めて彷徨っている様に見えるのです。」
士官学校を卒業したスザクを、すぐに自分の部隊に配属させ、ダールトンの元で戦術と戦略のイロハを仕込ませた。
元々、戦術面に於いては士官学校在籍中から実力があったスザクであったから、次々と軍功をあげていった。
が、ともすれば暴走とも取れる無茶な戦闘をする事がままあるのだ。
「──それは、私も気になっているところだよ。」
自分が指揮する戦場に従軍させた事はないが、カノンに取り寄せさせた戦闘データから、同じ懸念を持っていた。
「やはり。あれは、まだ………」
「そう簡単に癒える傷ではないのだろうね。無意識なら、少々厄介だ。」
「定期検診の際、カウンセリングを必ず受けさせます。」
「そうだね。特派のクルーミー中尉にも、特に注意する様に指示しておこう。
コウ。いろいろと気を使わせてしまって済まないね。」
「いえ。私にとっても、スザクは可愛い弟ですから。」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。くれぐれもよろしく頼んだよ。」
「はい。」
通信が切れ、真っ暗になった画面を前に、また息を漏らす。
どんなに言葉を重ねても、スザクの傷が癒える事はないのだろう。
あれはまだ自分を罰している。
父親の…枢木ゲンブが祖国に対して行った背信行為、己の欲望のためにナナーリーとルルーシュに危害を加えようとした事、そして、その父親を自ら殺した事……
全てが、幼いスザクの身の上に一度に起きた事だ。
幼い正義感で、覚悟など毛頭もなく感情のままに刃を振るった。
その代償は、10歳の子供が負うにはあまりにも大きすぎる。
「それでも私は、お前に私の側で生きていて欲しいと願ってしまう。」
業の深い生き物だ…私という人間は……
シュナイゼルは自嘲し、目を閉じると背もたれに体を預けた。
a captive of prince 第4章:黒の騎士団 - 3/5
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