「ゼロが現れたぁ?」
出撃準備に慌ただしい特派に、ロイドの頓狂な声が響く。
「テロリストの説得を買って出たそうです。自分なら、人質を解放してみせるって。」
助手のセシルの説明に、今度は、楽しそうに声に出して笑う。
「面白いねえ。それで?解放できたらクロヴィス殿下殺害の罪を帳消しにしろ、とでも条件出して来たのかな。」
「いいえ。そう言う条件は……」
セシルの困惑した表情に、ロイドの笑みが深くなる。
「何とも言えずユニークだよね。そのゼロ…って。」
「ロイド主任。出撃準備整いました。」
「はい。はあい。スザクくん、お待たせ。今回もサイコーな数値期待してるよぉ。」
「ロイドさん!!」
特派主任の悲鳴が、夜のしじまに響いた。
激しい爆発とともに崩れ落ちるホテル。
日本解放戦線が誇る超電磁式榴散弾重砲を撃ち破り、基礎を破壊したランスロット。
目の前の窓に黒い仮面の男の姿を確認した瞬間、ビルから火の手が上がった。
ホテルの爆破など作戦にはなかった。追いつめられたテロリストが仕掛けたのか、それともゼロか……
ガラガラと崩壊する建物を前にスザクは愕然とし、そして、悔しさに拳を叩き付けた。
「っ…僕は間に合わなかったのか……!ユフィ……」
うなだれるスザクの耳にゼロの声が響く。
「ブリタニアの諸君。人質は無事だ。」
「え……」
湖を見れば、何隻ものボートの上に人質達の姿があった。
その中に、ユーフェミアの姿も見て取れる。
スポットライトの中、ゼロを中心に黒尽くめの一団が現れる。
戦いを否定はしない。だが、強い者が弱い者を一方的に殺す事は断じて許さない。
撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ。
朗々とゼロの演説が続く。
その様子を、全ての者が固唾をのんで見つめていた。
「力ある者よ、我を恐れよ。力なき者よ、我を求めよ。世界は…我々黒の騎士団が裁くっ!」
「テロリストが『騎士』を名乗るとは……皮肉だね。」
湖畔に立つロイドが笑みをたたえながらつぶやく。
ランスロットの中のスザクは、正義の味方を名乗るテロリストを凝視したまま、ぴくりとも動かなかった。
「お姉様。」
長い髪を揺らしながら駆け寄る妹を、コーネリアは力の限り強く抱きしめる。
「ユーフェミア!無事で良かった。」
「お…お姉様。皆が見ています。」
周りには大勢の軍人が、二人を取り囲んで守っている。
部下の前にも関わらず喜び涙する姉にユーフェミアは戸惑い、照れを隠す様に姉の腕の中から離れた。
「副総督。ご無事で何よりです。」
「スザク。貴方も助けに来て下さったのですね。」
「いえ。自分は何も……」
「何を言っておる。ユフィ、スザクは単機で敵の大型キャノンに立ち向かい、撃退したのだぞ。」
「まあ。そんな危険を冒してまで……ありがとうございます。」
「自分にはこんな事しか出来ませんから。 しかし、実際にユフィ達を助けたのは……」
そう言って、先ほどまで黒の騎士団がいた場所を睨みつける。
「──ふん。奴には、作りたくもない借りを作ってしまった。
だが、いずれ倍にして返す……!」
コーネリアが忌々しげに吐き捨てる。
「何にしても疲れたろう。詳しい話は戻ってからだ。」
ダールトン将軍が撤収の指示を出し、騒然としていたカワグチ湖畔はやがて静寂を取り戻すのだった。
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