「何故、俺を助けた。本当にお前が、総督を殺したのか?」
ジェレミアから奪い取り、逃げ込んだ競技場後で、ルルーシュは刑部賢吾と対峙していた。
「ああ。そうだ。私が殺した。」
「へーえ。凄いな。どうやって総督に近づけたんだ?」
その質問に、ゼロは沈黙で答える。
「まあいいや。おかげで助かったぜ。俺に手柄取られそうだったから、あわてて名乗りを上げたってところか。」
「手柄?」
「あんた、テロリストだろ。総督の首を取ったんだから手柄じゃないか。
おかげで、俺も命を救われたし……それとも、別の理由があって俺を助けたのか?」
「ああその通りだ。お前は何故、親戚の名を語っていたのだ。
本物の枢木スザクがどうなったのか知っているのだろう。」
はっきりと断定するゼロに、刑部は怪訝な表情を浮かべる。
「何故そう思う。お前こそ、スザクがどうなったのか知っているんじゃないのか。」
「質問しているのは私だぞ。刑部賢吾。お前は、枢木スザクを良く知っている。言い換えれば、スザクもお前の事を知っていると言う事だ。
お前が自分の名を語っていると知れば、何かしらの報復があるのは容易に想像がつく。にもかかわらず、最期の首相の子を語って名誉の部隊にいるなどという大胆な真似が出来たのは、本人がお前に何もしてこないと知っていたからではないのか。」
「俺が名誉になったのは生きるためだ。悪さをしすぎて家から縁を切られちまったからな。
手っ取り早く稼げて食うに困らない、軍隊にはいったんだ。
だが、初めからスザクの振りをするつもりはなかった。俺がキョウトの出身だと知った奴が、勝手にスザクと勘違いしたのが切っ掛けさ。
俺はそれを否定しなかった。あんたの言う通り、どうせ本人が出てこない事を知ってたからさ。」
「どういうことだ。枢木スザクは死んでいるのか?」
思わず声が上ずる。その動揺ぶりを、刑部は面白そうに見た。
「スザクの生死が気になるのか。あんた、スザクの知り合いか?」
その質問にも、ゼロは答えなかった。
「まあいいや。”枢木スザク”を旗頭にしたいレジスタンスは沢山いるみたいだが、そんなのは無理なんだよ。」
「どういう事だ。」
ゼロの口調が厳しくなる。刑部は、その様子を楽しむようにくつりと笑った。
どうやら、スザクを旗頭に置きたいために探しているのだと思い込んでいるようだ。
「あいつはな、枢木の家から売られたんだよ。」
「売られた?」
「そう。敗戦と見るや、家の存続を危ぶんだ枢木本家がブリタニアにスザクを売ったんだ。
スザクを差し出す代わりに、枢木…ひいてはキョウト六家の解体を見逃してもらうと言う約束を取り付けてな。」
「それでは、スザクは。」
「さあな。ブリタニア本国に連れて行かれて、そこで処刑されたか、どこかの無人島を戦犯軍人と一緒に耕しているんじゃねえか。」
「──軍民屯田政策か。」
それは、ブリタニアがエリアに対して行う施策の1つ。
軍人や政府関係者を中心とした日本人を、戦争で荒れ果てた土地に送り込み開拓事業をさせたもの。
表向きは食料事情の改善が目的とされたが、実際には、思想的危険人物の隔離と強制労動、思想教育を目的としていた。
もっとも、この施策は1年前に終了しているが、隔離エリアは、今もそのまま残されている。
「そんな強制労働施設に送り込まれたと言うのか。当時は10歳の子供ではなかったか。」
「最期の首相の子供だぜ?ただの子供じゃない。反抗勢力の御輿に担がれない様に隔離されてもおかしくないだろ。事実、当時の軍の一部や六家のお歴々はそのつもりだったらしいからな。
それを、枢木が勝手にブリタニアと交渉しちまって相当慌ててたし。
ブリタニアに見つかる前に隠そうとしたらしいが、迎えにいった連中はブリタニアの攻撃を受けて死んでたらしいぜ。」
「では、スザクは……。」
「そのとき一緒に死んじまったか、生きていてもブリタニアの監視の元じゃねえの?
どっちにしても、日のあたる場所に出て来れねえよ。」
ルルーシュは愕然とした。
敗戦国の首相の息子と言う立場になったスザクがそんなにも過酷な状況に追い込まれていたとは、想像以上の事だったのだ。
自分と同じ様にどこかに保護され、安全な場所で生活しているものと期待していた自分を呪った。
その後ルルーシュは、テロリストと学生と言う二足のわらじを履いて激闘の日々を送りながらも、スザクの消息を求めて隔離地域などを調べ続けたが、彼を見つける事は出来なかった。
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