a captive of prince 第3章:ゼロ - 2/4

「情けない。どんな弱みを握られたのか知らないが、テロリストに屈して重罪人を開放するなど、帝国軍人の恥だ。」
「ありえない…あの人が……。」
今もって呆然としているスザクに、カリーヌが言う。
「あーあ。あんな情けない男を代理執政に推薦するなんて。スザクも人を見る目がないわねえ。」
「え?」
突然話題を自分にふられて言葉を失うスザクに、第一皇女のキネヴィアが追い討ちをかける。
「そうだねえ。いくら急遽決めねばならなかったとはいえ、ろくに調べもせずに推したスザクにも責任があろう。
そうではないかい?シュナイゼル。」
「そうですね。スザクが推したジェレミア・ゴッドバルト辺境伯は勿論私の方でも調査しましたが、あの『ゼロ』という人物の言う”オレンジ”なる物は見つかりませんでした。
調査不足のまま皇帝陛下にご報告し、任命した責任は当然私にもあると認めざるを得ないでしょう。」
「では、兄弟揃っての失態と言う事になるねえ。」
スザクばかりか自分にも責任があると言い出したシュナイゼルに、キネヴィアは楽しそうに笑う。
「だが、シュナイゼルでさえ見つける事が出来なかったジェレミア卿の弱みを探し出すとは、あの黒い仮面の男は、なかなかの傑物ではないかい。」
「兄上。テロリストごときを傑物などと……」
オデュッセウスがさも感心した様に話せば、笑顔をたちまち険しくしてキネヴィアがたしなめる。
その剣幕に、オデュッセウスもあわてて失言だったと訂正した。
そんなやりとりをよそにエリア11では、見事に名誉ブリタニア人を奪い去ったゼロと混乱する軍の報道がされていたが、ぶつりと中継が切られ画面が暗くなった。
「あーあ。つまんないの。私、もう帰るわ。」
カリーヌが席を立つのを合図に、他の皇族も三々五々その部屋を去って行き、後には、シュナイゼル・スザク・オデュッセウスの3人が残された。
「兄上、申し訳ありません。僕の人選が甘かったために、兄上にまでご迷惑を……。」
お掛けしまったと頭を下げるスザクの肩に、シュナイゼルは優しく手を置く。
「顔を上げなさい。スザク。あれは、私でも知らなかった事なのだから。
ジェレミア卿は、これまでの経歴を鑑みても適切な人事だったと信じている。
信じられないのは、彼がとった行動だ。」
「シュナイゼルの言う通りだよ。
私の知る限りジェレミア・ゴッドバルト辺境伯は、実直て忠誠心に熱い人物だ。
その彼が、ああも簡単に従うとは…まさに青天の霹靂としかいい様がないよ。まるで、悪魔に魅入られてしまったようじゃないか。」
「兄上も、そう思われますか。」
「うむ。バトレー将軍等にしても同じだよ。誰一人クロヴィスの側にいなかったなど、あり得ない話だ。
あの、ゼロという人物。どんなからくりで人心を惑わすのか……薄気味悪いね。」
そう言って、オデュッセウスはブルリと震えた。そして、顔を上げたスザクに、にっこりと微笑む。
「だから、君が気に病む事ではないと思うよ。
むしろ、キネヴィアとカリーヌの事では、2人に申し訳なかった。
ここしばらくは大人しくしていたので、いい加減スザクの事を認めたのかと思ったのだが……」
「姉上とカリーヌの性格はよくわかっています。あの程度の事、気にする迄もありませんよ。」
シュナイゼルは、嘲笑とも取れる笑みを浮かべた。
第一皇女であるキネヴィアは、その立場故非常に気位の高い人物で、皇帝がスザクを養子とすると発表した時も激しく反対した。
ナンバーズと蔑んでいる者が、自分と同列に並ぶなど屈辱でしかないという態度を隠そうとしなかった。
そして、第五皇女のカリーヌもキネヴィアを見習ってか、母親が大貴族の出身であるのもあって幼い時から傲慢な少女であった。
オデュッセウスやクロヴィスなどが、年長者に対する態度ではないと再三注意して来たが、
「例え年上でも、皇位継承権のないスザクは、私より身分は下よ。」
と、スザクに対して尊大な態度を改める様子はない。
争いを好まないスザクがへりくだった態度で接しているからこそ表立った攻撃はしてこないものの、何か切っ掛けがあれば今回のような事は茶飯事である。
「僕は、自分がお二人から何か言われる事は気にしません。
けれど…僕のせいで兄上まで悪く言われるのは辛いです。」
「大丈夫だよ。だが、お前に辛い思いをさせてしまったかな。済まなかったね。」
お互いにかばいあう兄弟の姿に、オデュッセウスから笑みがこぼれる。
「本当に二人は仲がいいね。羨ましいよ。」
そう言い残して、彼も部屋を後にしていった
「シュナイゼル兄さん。オデュッセウス兄上が仰られた事……」
「うむ。クロヴィス殺しの時といい、今回のジェレミア卿の事といい、ゼロが何か特殊な能力を持っているのは間違いないようだね。」
「一体何なのでしょう。」
「さあ。今のところは何なのか見当もつかないが……確かに、兄上の仰る通り薄気味悪い人物ではあるね。」
その能力も目的も分からぬ黒尽くめの怪人……
そんな人物のいるエリア11に、最愛の弟を再び送り出す事に、シュナイゼルは大きな不安を抱えていた。
そしてスザクもまた、不安を抱えたままエリア11に赴く事になる。

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