Girl friend - 1/2

「ようこそ。いらっしゃい。」
にこやかに自分たちを迎えてくれる青年に、訪れたもの全員が頬を緩めた。
ゼロの仮面が外され、素顔を見せてから実に半年ぶりの再会である。
明るい表情のスザクに、あの時仮面を外させて本当に良かったと、ルルーシュとスザクの住まいであるネオウエルズ近郊のログハウスを訪れた紅月カレンはしみじみ思った。
「さあ。どうぞ入って。」
勧められて中に入った彼女らは、シンプルだが居心地の良さそうな室内に、感嘆の声を上げる。
「意外と中は広いのね。」
「こざっぱりとしていていいじゃないか。男2人の住まいだから、もっとむさ苦しいのかと思った。」
「ジノ。自分と一緒にしない。」
カレンに同行してきたジノとアーニャが軽口を言い合うのを楽しそうに見ているスザクの後ろから、もうひとりの住人であるルルーシュがムッとした声をかける。
「男所帯がむさ苦しいなど、偏見だぞ。
きちんと片付けて毎日掃除すれば、いつでも気持ちよく過ごせるだろう。」
「僕たちあまりいろいろと置かないからね。必要最低限のものしかないから……」
だから余計さっぱりしているのかも。
そういってスザクは、3人にソファを勧める。
「飲み物出すよ。コーヒーと紅茶どっちがいい?カレンは、日本茶の方がいいかな。」
「おかまいなく。私は2人と同じものでいいから。」
「じゃ、私は日本茶にしようかな。」
「私も……」
「えっいいの?私に合わせなくても……」
「なーに。“日本茶”なんて滅多に飲まないからな。」
ジノの答えに、アーニャも頷く。
「OK、じゃあ日本茶にするよ。」
ほどなくして日本茶のいい香りがキッチンから漂ってくる。
3人と雑談していたルルーシュが、すっと立ち上がるとキッチンへ歩いていく。ちょうどスザクが、つり戸棚の最上段にある箱を出そうとしているところだった。
背伸びをしている彼の後ろから、目当ての箱を取って渡す。
「あっありがとう。」
2人のやり取りをリビングの3人は唖然として見た。
「ル…ルルーシュ。あんた……」
「いつの間に、そんなに……」
「スザクより、背、高い。」
驚きの声を上げる3人に、名を呼ばれた本人はキョトンとした顔をしていたが、すぐに恥ずかしそうに目を彷徨わせる。
「あ…ああ。この5年で伸びたらしい。」
「ゼロレクイエムまでは僕の方が高いくらいだったんだけど……10cmは伸びたよね。日本人とブリタニア人の違いかな。」
「そうね。ジノもシュナイゼル様も大きいし……」
「皇帝陛下も大きかった。」
“皇帝”の名にルルーシュが顔をしかめると、スザクが取り繕うように話題をふった。
「シュナイゼル様と言えば、その後どうしているの?」
問いかけにジノが答える。
「ゼロがいなくなっても、ずっとナナリー様の補佐として、内政や外交のサポートをしていらっしゃるよ。」
「そうか。ルルーシュがかけたギアスは解除したけど、そのままいて下さっているんだ。良かった。」
「自由になったからと言って、これといってやりたい事がある訳じゃないから、望まれる事をするだけだって仰ってるぞ。」
「───欲がないのも相変わらずか。」
ルルーシュはフッと笑い、スザクに二言三言話すとそのままキッチンで作業を始める。
お茶とお茶請けを出して、スザクが客の相手をし始めた。
「黒の騎士団の方はどう?まだ星刻がCEOを?」
「いや。星刻殿は騎士団を抜けられた。今は中華で療養しながら天子様のサポートをしているよ。」
「では、今は誰が騎士団のトップなんだ。」
キッチンからルルーシュが尋ねる。
「今は、コーネリア様がCEOを務めている。」
「そうか。」
コーネリアは、悪逆皇帝に最後まで抵抗し、処刑されそうになった者を解放した女傑として全世界に認知されている。エリア総督を務めていたので政治面にも明るい事からも良い人事だ。
ルルーシュとスザクは揃って頷いた。
「以前に比べてずいぶん仕事の質が変わったよ。
紛争の停戦介入よりも、災害派遣の方が増えてきている。」
戦後、放浪の旅を経て黒の騎士団に参加したジノが、最近の業務内容を顧みて話せば、高校卒業後騎士団に戻ったカレンも頷く。
「ナイトメアも、今では土木作業に利用されているし……黒の騎士団も“武闘集団”としての存在意義はないんじゃないかと、超合集国内で意見が出ているみたい。」
「コーネリア様も、規模の縮小を検討する時期に入ってきたのかもと言っている。」
アーニャの言葉に、ルルーシュが目を細める。
「それは……」
「時期尚早だね。抑止力としての存在意義は充分ある。
規模の縮小や解体は、加盟国に軍事力を戻す事に繋がる。そうなれば、元の木網だ。」
ルルーシュが言うよりも先にスザクが話した。その事にルルーシュは目を見開く。
スザクの前に座る3人は、真剣な表情で話を聞いていた。
「……だよね。ルルーシュ。」
にっこり微笑んで自分を見るスザクに、一瞬息を呑んで頷いた。
「評議会議長の神楽耶殿に、超合集国として監視の強化を進言するべきだ。」
「特に、黒の騎士団の存在に疑問を唱えた国だね。」
ルルーシュの提案をスザクが補足する。
「じゃあ。ゼロがそういっていたと神楽耶様に伝えておくわ。」
カレンが了解の返事をする。
「スザク。お前……」
「なに?ルルーシュ。」
呆然と呼びかけるルルーシュに、スザクは小首をかしげる。
「いや…そうやって“ゼロ”をやってきたんだな……」
「うん。ルルーシュから引き継いだもの。必死にやってきたよ。」
「スザクは本当にしっかりと“ゼロ”だったわよ。
ルルーシュのゼロを知っている私でも、中身が替わった事を意識する事はなかったわ。時々、フッと寂しそうな時に、ああ、そういえばスザクだったなあって思い出すくらいだった。
反対に、今じゃルルーシュがどんなゼロだったかあまり思い出せないの。私の運命を変えてくれた偉大な人だったのに。」
申し訳なさそうなカレンに首を振る。
「いや、それでいい。俺のゼロは正義を騙った破壊者だったからな。
そんな者をいつまでも大切にしている事はない。
それに…ゼロ歴でいったらスザクの方が長いからな。」
そういいながらもどこか淋しそうなルルーシュの笑顔に、スザクは眉根を寄せる。
「俺が託したものを、スザクが大事にしてくれていたのかと思うと嬉しいよ。」
「ルルーシュ。」
幸せそうに見つめ合う2人に、ギャラリーの女性陣が溜息を漏らす。
「これだから、新婚家庭にお邪魔するのはいやなのよ。
こっちはまだ独身だって言うのに……」
「見せつけられている方が恥ずかしい。」
カレンとアーニャの会話に、ジノはついていけない。
「おい。新婚…てなんだ?ルルーシュとスザクは子供の頃からの親友だろ?」
「あー。はいはい。あんたは一生分からなくていいから。」
「なんだよ。それは。」
もめ始めたカレンとジノに、原因の2人が慌てて仲裁に入る。そんな様子を、アーニャは携帯に収めた。
「記録……」

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