special day

遮光カーテンの隙間から、柔らかな朝の日差しが室内を薄明るく照らす。
ドア越しに、パタパタとせわしなく動き回る足音と、美味しそうな香が鼻孔をくすぐる。
様々な刺激に、眠りから徐々に覚醒する。まどろみの中、室内に誰かが入ってくる気配を感じながらも、その瞼はまだ閉じたままだ。
「おはよう。」
声と共にカーテンが開けられ、室内は一気に明るくなった。
ルルーシュは、ベッドの中でその重たい瞼を震わせる。
「おはようルルーシュ。もう朝だよ。」
「んー。」
呼びかけに答えるものの、それはまだ声にもならない。
そんな彼に小さく息を吐くと、スザクは窓際からベッドの側へやって来る。
「起きて。朝ご飯出来てるよ。」
「う──っ。」
「本当に夜型だなあ。朝、いつも起きれないんだから………」
もう一度息を漏らすと、眠るルルーシュに顔を近づける。
「ダーリン。起きて。一緒にご飯食べよう。」
そう言って唇を重ねる。
離れようとする頭を後ろから押さえつけられ、深く口づけた。
「ん………っ。」
ルルーシュは、スザクの口内を堪能すると、やっと彼を解放する。
「おはよう。」
「お…おはよ……」
頬を染め、緑の瞳を潤ませているスザクに微笑する。
「朝の挨拶に、こんな濃厚なキスいらないでしょ。」
「そうか?」
抗議するスザクの手首を掴み引き寄せる。
不意をつかれ倒れ込むスザクの腰を抱え、ベッドに転がせた。
「ルルーシュ。」
今まで下に見ていた顔を見上げる。寝起きの彼は普段と違って、どこか表情が緩い。それがかえって妖艶さを醸し出していた。
少し潤んだアメジストの瞳に見つめられると、鼓動が早くなる。
「スザク……食事の前にお前が食べたい……」
そんな事を耳元で囁かれたら、もう、頭がぼうっとしてしまう。
スザクは慌てて首を振った。
「駄目だよ。もう、よそってあるんだから。冷めちゃうよ。」
「後で温め直せば……」
「いやだ。できたてを食べて欲しいから起こしたんだよ。」
「───仕方ない。それじゃあ。今はこれで我慢するか。」
そしてまた唇を奪われる。
エプロンのひもに伸びてきた手首を軽くひねり上げ、にっこり笑いかける。
「早く顔洗ってきてね。ダーリン。」
「分かったよ。ハニー。」
苦笑しながら、ルルーシュは名残惜しそうに額にキスを落とすと、洗面所へと歩いて行った。
ルルーシュがいなくなると、スザクはてきぱきとベッドメイキングし、朝食の準備に戻る。
アリエス離宮に新居を構えた、ルルーシュとスザクの朝の一幕だ。
朝食作りはスザクの担当。夕食はルルーシュ、昼食はどちらかできる方が作るか外食。
朝食は、日によって作れない事が多々ある。もしくは、折角用意しても、ルルーシュのおねだりにスザクが負けて、ブランチになる事も………
今日は、日中外出の予定になっているので、是が非でも朝食を今食べておきたいのだ。
身支度を整えてダイニングに現れたルルーシュは、テーブルの上の朝食に頬を緩ませた。
みそ汁に焼き魚、厚焼き卵に香の物。そして白飯。見事な和朝食だ。
「今日は、ルルーシュの好きな大根とわかめのみそ汁だよ。
納豆もあるからね。」
甲斐甲斐しく世話を焼くスザクに目を細める。
スザクにプロポーズして5ヶ月……新婚生活を満喫している。

 

「やっと起きてきたか。」
食後のコーヒーを楽しんでいたライは、あくびをしながらメインダイニングに現れた魔女に呆れた声をかける。
「ふん。私にしては早起きだろう。」
ふてぶてしく笑う彼女に、時計を見たライは感嘆する。
「本当だ……いつもより2時間早い。
と、言っても、もうすぐ10時だがな。」
「まだ9時半だろうが。」
「あと30分で10時だろう。」
「どういう時間観念をしているんだ、お前はっ。」
「それはこっちのセリフだ。」
不老不死の男女が睨み合う中、スザクが顔を出す。
「おはよう。」
「おはよう……というか、まだ出かけてなかったのか。」
C.C.が驚いた顔をする。
「予定では9時には出るはずだったろう。」
ライのツッコミに、スザクは苦笑する。
「ちょっと予定が狂っちゃって………これからなんだ。」
「10時過ぎには、皆が来てしまうぞ。
鉢合わせにしないようにするはずだったろう。」
「うん。だからちょっと焦ってる。料理の下ごしらえは、夕べ済ませてあるから。」
「ああ。分かった。調理は任せておけ。」
「頼むよ。」
「まあ、後から手伝いが来るからな。」
「あまり期待できないぞ。料理とは無縁の人生を送ってきた奴ばかりだからな。」
引きつった笑みを見せるC.C.にライは冷や汗をたらす。
「そう言えば、お前も厨房に立つ姿を見た事はないな。」
「私は、やれば出来る人間だから安心しろ。」
疑わしげなライから視線を外し、C.C.はニンマリとスザクを見る。
「いつまでも仲がいいのは結構だが、開衿のシャツを着る時は気をつけた方がいいぞ。」
「え……っ。」
「見えてるぞ。首の……」
彼女の指摘に顔を赤くする。
「また?ルルーシュったら……見える所はやめてって言ってるのに……」
「ちゃんとチェックしろ。」
「時間が無くって……」
「どうせ、朝食後、有無を言わさず押し倒されたんだろう。
最近のあいつは、けだもの並みの欲しがりだからな。
ゼロをやってた頃のストイックさはどこに消えたんだか……」
「誰がけだものだ。夜行性動物そのもののお前に言われる筋合いはない。」
声と共に現れたルルーシュに、3人が注目する。
「ルルーシュ。出かけるの分かっているのに………」
スザクが苦情を言うものの、ルルーシュはしれっとした顔で
「虫除けだ。気にするな。」
と、ライに視線を送る。
「いい加減、執念深いぞ。」
「執着心が強いのはこいつの長所でもあり短所でもある。
そう言う所はライ、お前にそっくりだぞ。流石、血族だな。」
「「やかましい。」」
元ブリタニア皇族の声がハモる。
ルルーシュは、スザクのシャツのカラーをたて、そこにスカーフを巻いた。
「ほら、こうすれば目立たない。」
「もう……」
少しむくれてみせるスザクの額にキスを落とし「ごめん。」と謝れば、すぐに笑みを浮かべる。
「それじゃあ、いってくる。夕方には戻るから。」
「ああ。ゆっくりデートを楽しんで来い。新婚さん。」
「あまり遅くなるなよ。」
「はーい。」
仲良く出かける2人を見送り、C.C.とライはため息をつく。
「やれやれ。やっと行ったか。」
「さて、準備を始めるぞ。」
「その前に、私の朝食のピザを焼け。」
「そのくらい自分でしろ。やれば出来るんだろ。」
2人が厨房で揉めていると、玄関のチャイムが鳴る。
「おっ来たようだな。」
「ギリギリセーフだな。スザクも相当焦っただろう。」
「ルルーシュに内緒の、サプライズパーティーだからな。」
「こんにちはーっ。」
「ケーキと飾り付けの材料持ってきたわよ。」
「パーティーのセッティングなら、このミレイ様にお任せあれっ。」
「私の城の酒蔵から、いいワイン見繕ってきたぞ。」
「記録。準備から撮るから……」
「さあ。お2人が戻ってくるまで、やる事はたくさんございますわよ。」
「お手伝いできる事はなんでもしますから言って下さいね。」
ルルーシュとスザクに関わる仲間達が口々に言う。

 

ルルーシュの誕生日を、皆と一緒に祝いたい。
パーティーを企画したのはスザクだった。
結婚後初めての誕生日という事で遠慮する彼らに、スザクは是非にと言う。
「皆のおかげで一緒になれたんだから。ルルーシュもきっと、その方が嬉しいと思う。
皆が、生きていていいんだと誕生日を祝ってくれた方が……」
だったら、いっその事ルルちゃんに内緒のサプライズパーティーにしましょう。
と、言ったのは勿論ミレイだ。
話はトントン拍子に進み、会場セッティング中ルルーシュをどうするかが問題になり、スザクが外に連れ出す事になったのだ。
「帰ってきたらどうせ大騒ぎになるんだ。
今のうちに、ゆっくりと2人きりで誕生日を祝うがいいさ。」
皆でわいわいと飾り付けや料理をしているのを見ながら、ピザを頬張り魔女が呟く。
「C.C.悠長に食べていないで早く手伝えっ。調理担当が少ないんだ!」
ミレイ、リヴァルと一緒に奮闘しているライが叫ぶ。
「はいはい。」
仕方ないなと苦笑しながら、エプロンを手にするC.C.だった。

「はい。これ。」
手渡された包みに、ルルーシュは目を丸くする。
「スザク?」
「この本、ずっと探していたでしょ。」
それは、中世の芸術家で発明家の遺した論文の複製の初版本だった。
「よく、手に入ったな。」
「うん。色々とコネを総動員して……気に入ってくれるかな。」
「勿論だ。嬉しいよ。」
照れくさそうにスザクが笑う。
「でも、どうして……」
何故こんな高価なプレゼントを貰えるのか分からず、ルルーシュは首を傾げた。
そんな彼に、スザクは笑みをこぼす。
やっぱり忘れている。自分の事に無頓着なのは昔も今も変わらない。
「だって、今日は特別な日だもの。」
「え?」
相変わらずキョトンとしている彼に笑いかける。
「誕生日おめでとう。」

今日は、君がこの世に生を受けた特別な日。
皆で祝うよ。
生まれてきてくれて、ありがとう。

0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です