万聖節に君と…… - 2/3

その翌日のほぼ同時刻。玄関のノックに応じてスザクがドアを開ける。
「トリックオアトリート!」
元気のいい声が六重唱で室内に響いた。ニコニコと笑いながら、すでにいくつもの菓子が入った袋を差し出す子供たちに、出迎えた彼らは目じりを下げる。
「6人……丁度だな。これで最後だ。」
ルルーシュが、1人に1つずつクッキーをつめた袋を渡し、最後の1人の頭をなでてやる。
「良かったな。暗い森の中を頑張って来たかいがあったじゃないか。」
魔女の扮装をしたC.C.が目を細める。その妖しげな表情に、最年長らしい少年がびくりと震えたかと思うと頬を染めた。
「全然怖くなかったよ。ランタンの灯りが綺麗で、それ見ながらここに来たの!」
「ヘンゼルとグレーテルになったみたいで楽しかった。」
年少の男の子と女の子が、目をキラキラさせて言うのに、頭をなでながら頷いてやる。スザクは、満足そうな笑みを浮かべた。
「お菓子の家じゃなく、ただの木の家で残念だったな。」
ルルーシュがすまなそうに言うのに、子供たちが笑う。
「それじゃあ。麓まで送るよ。おいで。」
スザクが、普通のランタンに灯を点して子供たちを先導する。ルルーシュが彼らの最後について歩いた。
二人の間で子供たちは、ガヤガヤともらったお菓子のことや、次に控えている感謝祭やクリスマスの事をはしゃいだ声で話しながら歩いていく。街道にたどり着くと、大きな声で礼を言い手を振って去って行った。
楽しそうに帰っていく彼らを、スザクは目を細めて姿が見えなくなるまで見守っていた。
「子供たちが、あんな笑顔で日常を楽しめる世界を、お前が作ったんだな。」
しみじみと呟くルルーシュに、スザクは首を振る。
「僕じゃないよ。世界中の大人たちが、作り上げてきた。大切なものを守るために……」
「ああ……」

 

カボチャランタンを回収しながら家へ戻る。
その道すがら、スザクはルルーシュに語り掛けた。
「明日。行きたいところがあるんだ。毎年、僕が行っているところ……一緒に来てくれるかな。」
「……教会以外に行くところがあるのか?」
「……教会にはいかない。祈りはいつも家で捧げていた。僕には、教会は敷居が高すぎる。」
「では…どこへ。」
問いかけるルルーシュの目をまっすぐ見つめてスザクは言う。
「ユフィ……ユーフェミア様の墓。」
ルルーシュは目を見開き息を呑んだ。
「万聖節はすべての聖人と殉教者に祈りを捧げる日。ユフィはブリタニア正教では大罪人で地獄の業火に焼かれ続ける悪人にされている。でも、そうじゃないことを僕と君は知っている。」
「ああ。そうなるべきは今のうのうと生きているこの俺だ。」
眉根を寄せるルルーシュの頬にスザクの手が寄せられる。
「君を責めているんじゃないよ。あの時、彼女の側にいなかった僕にも罪がある。第一、あれは事故だ。」
なおも辛そうな表情のルルーシュを抱き寄せて、スザクは言葉を続けた。
「僕は、ユフィこそ殉教者で、聖女だと信じている。11月1日は彼女のために祈りを捧げるんだ。だから──」
「ああ……そうだな。──今年は、2人で行こう。彼女に祈りを捧げるために。」
「ありがとう……」
抱き合って佇む二人を、玄関先のカボチャ大王の側で魔女が静かに見守っていた。

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