「コウ、ユフィ。待たせたね。」
応接に待たされていた姉妹は、この離宮の主である兄が他の兄弟らを連れて戻ってくると揃って席を立った。
「兄上。スザクの事、何か分かりましたか。」
シュナイゼルの配慮で詳しい事を知らされていない2人は、ここでやきもきしながら待っていたのだろう。苛立ちをにじませて問いかけて来るコーネリアに、シュナイゼルは申し分けそうに眉を下げた。
「気をもませて申し訳なかった。いくつか手掛りを見つけてね。
今、スザクが監禁されている場所の特定をさせている所だ。」
「スザクの居場所が分かったのですか。」
「犯人も見えてきたよ。悲しい事に、私達の兄弟が関わっているらしい。」
シュナイゼルの報告に、ユーフェミアは驚きで顔に手をやり、コーネリアは厳しい表情を浮かべる。
「犯人が、どうやって宮廷内からスザクを連れ出したか、その手口も分かった。」
そう言ってカノンにPCのモニターを用意させた。
「これは、宮廷庭園の通用口の監視画像なのだが……」
モニターには出入り口に横付けされている白いトラックが映っている。数人の男達が庭に入って行き、数分後に大きな袋を担いで戻ってくると、それを荷台に載せトラックは走り去った。
「この門の管理をしている者に確認したが、初めて見る顔ばかりだったそうだ。しかし、提示されたIDは本物で、今まで担当だった者達と配置換えになったのだと言っていたので、特に気にせず通したらしい。出入り業者に確認させた所、そのような事実は無く、今日は手入れに入る日ではないそうだ。」
コーネリアの顔がさらに険しくなる。
「君の言いたい事は分かるが、今はスザクの救出に集中しよう。」
職務怠慢だと喉まで出かかった彼女であったが、オデュッセウスの忠告に言葉を飲み込む。
「この画像には、しっかりと車のナンバーが映っている。
交通管制センターで、この車の走行経路を追跡している。
そして、注目して欲しいのはこの後……通常ならこのような場所に用のない人物が映っている。
走り去るトラックを見送るように立つその人物に、コーネリアの目が釘付けになった。一見して騎士である事が分かる。その男は、宮中で見知った人物だった。
第五皇子の専任騎士であったが、先日の模擬戦で禁止武器であるスラッシュハーケンを使用してもなお、スザクに負けたためその職を追われたダグラス・フレイザーだ。
「まさか、この男が………?」
驚きを持ってシュナイゼルの顔を見る。
その時、1つのコール音が鳴った。クロヴィスの携帯端末だ。
「ああ……そうか。ありがとう。そうそう……今度エリア11政庁のパーティールームの内装を模様替えしようと考えているのだが……うん。また良いものを見繕ってくれ。では、また。」
「すまないね。余計な出費をさせてしまったかな。」
「いいえ。丁度考えていた所でしたから。
……例の絨毯の発注元と納品先が分かりましたよ。フランツの注文でフレイザー卿の屋敷に届けたそうです。
なんでも、騎士就任の祝いの品だそうですよ。」
「フラツ殿下は、フレイザー卿を叙任すると、家屋敷と使用人を与えたそうです。」
クロヴィスの説明をカノンが補足する。
「主人からの贈り物という事は、あそこはただの地下室ではなく、主の緊急避難場所という事かな。と、するとやはり……」
「あの兄弟の指示で動いたと考えた方が自然ですね。
エリア6では尻尾が見えていたがどうしようもなかった……今度こそは!」
コーネリアの瞳が鋭くなる。
「例のトラックですが……エレイン皇妃の離宮付近で見失ったそうです。」
カノンの耳打ちに、シュナイゼルの口元がつり上がった。
「では、皆でスザクを迎えに行こうじゃないか。」
「兄上。私の兵を使って下さい。元はと言えば、私が呼び出したために起きた事なのですから。」
コーネリアの申し出にシュナイゼルは首を振る。
「違うよ、コーネリア。あの時の私の判断の甘さが招いた結果だ。
情けなどかけずに徹底的に叩いておくべきだったのだ。」
シュナイゼルはそう言うと、奥歯を噛み締めた。
「おっ奥様……っ。
夜中の突然の訪問に、応対に出た執事はこの離宮の主である皇妃を振り返った。
ただ事ではない雰囲気に玄関に現れたエレイン・ディ・ブリタニアは、外の物々しい有様に息を呑む。
玄関の外では、シュナイゼル・コーネリアを先頭に多くの兵士や装甲車などが城を取り囲んでいる。
「一体何事です。私の城をこのような無粋なもので取り囲んで。
軍隊による警備など頼んでいませんよ、コーネリア。」
「はい。エレイン様。警備のために参ったのではありません。
犯罪者を捕らえるために参ったのです。」
「はっ犯罪?私の城の中に犯人がいると?言いがかりも大概に……」
皇妃がまだ抗議しているのにも関わらず、シュナイゼルはカノンと共にづかづかと中に入る。
「おっお待ちなさい。私は、入っていいと許可した覚えはありませんよ。」
「エレイン様。申し訳ありませんが、ご説明している時間も惜しいのです。中を捜索させて頂きますよ。」
シュナイゼルは言い捨てると、執事に兄弟の部屋への案内を求める。
「そ、捜索……一体何の嫌疑で……」
「皇族誘拐の嫌疑です。皇妃様。」
「誘拐!?それこそ何かの間違いだわ。」
説明するカノンに、エレインは食って掛かる。
「シュナイゼル!このような狼藉、ただではすませませんよっ!」
「はい。もし間違いであったなら宰相の職を辞する覚悟で参っております。妃殿下もそのおつもりでお願いします。」
怜悧な輝きを放つ薄紫の瞳に、皇妃は壮絶な笑みで答えた。
「いいでしょう。その言葉、しっかりと覚えておきますよ。
貴方も、忘れないでちょうだい。」
「もちろんです。」
薄い笑みを残して城の奥に消える背中を、エレイン皇妃は忌々しげに見送った。
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