共に煌めく青玉の【騎士ー2】※R18 - 3/10

 シュナイゼルは、コーネリア姉妹を別室に移し、傍らのカノンに目配せする。
 カノンは、ジノらを隣室に案内した。
 シュナイゼルのプライベートルームらしい。執務室と同じ材質で造られた家具だが、置かれている調度類は彼の趣味である造形をこらせた陶器類が並んでおり、まるで美術館のようだ。
 その中央にある応接セットの上に、何かが置かれている。
 まず、目を引いたのは軍靴のブーツだった。
 テーブルの上に揃えておかれているそれに、ジノはすぐに思い当たった。小走りに近づき確認する。
「こ…これは………!」
 ブーツの隣の物に、続いて入って来たオデュッセウスとクロヴィスも絶句する。
 それは、スザクが身に着けていた軍服だ。いや。軍服だった布だ。
 刃物によって引き裂かれたそれは、元の形が想像できないほどボロボロにされている。
「服だけじゃない。下着から何から身につけていた物全て壊されている。」
 そう言って、シュナイゼルはボロ布と成り果てた軍服の脇にある箱に注意を向けさせる。
 浅い箱の中には、携帯端末や非情時のコールボタン、服の襟に仕込まれていた発信器、果てはハンカチーフや彼の父親の形見だという懐中時計まで無惨な姿を晒して収まっている。
「一体これは……」
「2時間ほど前の事だ。通いでこの離宮に仕えてくれている者の家の庭先に、これらが入った段ボールが投げ込まれた。
 投げ込んで行ったのは白い軽トラック。労務者風の男が数名荷台の上にいたのを見たそうだが、ナンバーを確認するまでには至らなかったらしい。
 段ボールは、何も印刷のない無地の物で、苦情を言ってやろうと中身を確認し、すぐに私の元へ届けられた。」
「これらが何故、スザクの物だと……?」
「私宛の封筒が入っていたのだよ。」
 蒼い顔で尋ねるクロヴィスに、懐から白い封筒を取り出してみせる。
 無地の、何の特徴もない封筒の表には”SCHNEIZEL”とだけ印字されている。
「中にはカードが1枚とメモリーチップのみ……
 データを確認したのだが……」
 オデュウセウスらに確認のため目を合わせる。
「ご覧になりますか?」
 シュナイゼルの問いに一同頷くが、彼は、ジノに向って眉をひそめた。
「ジノ、君には少し刺激が強いかもしれない。……だが、皇族の騎士になろうというのなら見せた方がいいのかな。」
「はい。見せて下さい。どんなものであっても、狼狽えたりしません。」
 ジノの意志を確認して、シュナイゼルは彼らをデスクに呼ぶ。
 PC画面を開き、既に読み込ませてあるデータを呼び出した。
「入っていたのは全て写真データだった。見ていて気持ちのいいものではない事をあらかじめお伝えしておきますよ。」
 仮面上のデータフォルダをクリックするとかなりの数のファイルが開かれ、その画像に皆、息を呑んだ。
 全て人体の裸像。若い男性のものと思われる裸体の、首から下の部分がパーツごとに写されている。
「こ……これはっ!」
「コウとユフィにはとても見せられない局所が写されたものもある。そして……」
 オデュッセウスは思わず顔を背け、額に手をやった。
「なんてことだ……」
「ジノ。あまり見るものではないよ。」
 クロヴィスに注意され、赤い顔で俯く。
「本人に意識があるのか……意識がない状態である事を切に願うよ……」
 卑猥なポーズを無理矢理とらされている画像が何点か映し出されている。
「本当にここに映っているのはスザクなのですか?」
 信じられないと首を振りながら尋ねる弟に、シュナイゼルは目を伏せて答える。
「残念ながら……体のあちこちにある小さな傷跡に思い当たるものがある。そして、決定打がこの写真だ。」
 左手の写された写真を拡大表示する。その手首にいくつも筋のような傷跡があるのを確認し、クロヴィスは唸った。
「───スザク……!」
 ジノは、両の拳を握り、ギリッと歯を噛み締める。
「───そういえば……これの他にカードが入っていたと言っていたね。」
 皆の意識を写真から逸らそうと、オデュッセウスが尋ねる。
「ええ。たったひと言“大切なものは何か?”と書かれていました。
 そう言ってカードを見せる。
 それも、何の変哲もない白いカードに”What’s your precious?”と印字されている。
「……多分、これらを調べても何も出て来ないだろうね。」
 オデュッセウスは息を吐く。シュナイゼルも、情けない表情で頷いた。
「ええ、おそらく。紙はごくありふれたもので、タイプしたものも大量に普及しているものと思われます。
 手掛りになるのは、使用人が見たというトラックと男達……そして、この画像から解るスザクの監禁場所です。
「───この画像から何が解るかな。」
 オデュッセウスは首を傾げた。
「スザクの体を支えたり掴んでいる腕の数から、少なくとも3人以上の人間が関与している事と、この背景に映っている壁と床の状態からどこかの倉庫もしくは地下室だという事が解ります。
 そして、関与した人物の中に高位の貴族もしくは皇族がいる。
 ……ペルシャ辺りに影響力のある人物を割り出してくれないか。」
 シュナイゼルがカノンに言えば、部屋にあるもう1台のPCを操作し始める。
「兄上。何故、ペルシャのです?」
「これをご覧。お前なら、私より詳しいのではないかな。」
 俯瞰から写されているそれには、床に敷かれた絨毯の柄がしっかりと映っている。
「ああ……確かにペルシャ絨毯の特徴がはっきりと出ていますね。
 ふむ……これは……!もしかしたらこれから辿れるかもしれませんよ。」
「本当かい!?」
 オデュッセウスが声をあげ、シュナイゼルとジノも、クロヴィスを見る。
「ええ。この模様はペルシャでも指折りの工房が得意とするもので、数年前、貴族の間で流行したものです。」
「流行のものでは、同じものを持つ貴族は多いだろう。」
 落胆する長兄に、クロヴィスは首を振る。
「何故、貴族の間で流行ったかご存じないのですね。
 この工房は、受注生産なのです。デザインを1から依頼主の要望を確認してパターンを決定してから織り出す……つまり、世界で1つしかない絨毯が出来るのです。」
 兄弟達の顔色が変わる。
「そして、この工房との取り次ぎをしている業者は、ペンドラゴンに1社しかない。」
「ずいぶん詳しいね。」
「ええ。私はこの業者の上得意ですから。」
 にっこり笑うクロヴィスに、シュナイゼルの口元がつり上がる。
「なるほど。皇室用達か……」
 シュナイゼルの笑みは、ゾクリとするほど恐ろしかった。

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