「ご苦労だった。賞金をかけられていたそうだな。」
訪れたスザクを、コーネリアは苦笑で迎えた。
「はあ…驚きました。まさかそんな事になっているとは……」
苦笑するスザクに、同席しているエンドーバーが目を細めて尋ねて来る。
「しかし,何故,名乗るような事に?」
「相手が名乗ってきたので、こちらが名を明かさないのは礼を欠くと思いまして……」
「そもそも、私は貴方に降伏勧告の指示を出した覚えがないのですが。」
「そうですね。ですが、あまりにも易々と敵の本拠に近づけてしまいましたので……」
「で?」
エンドーバーの笑みがさらに深くなる。その怒りをにじませた表情にジノは思わず後ずさりしてしまうが、スザクはけろりと言葉を続けるのだ。
「命令にはありませんでしたが勧告しました。」
何か問題でも?と首を傾げてみせる。
将軍の手の中の鞭が、ピシリと音を立てた。
「そんな事は貴方のすべき事ではない!命令通り本隊の到着を待って退避すれば、ご自身の命を敵の前に晒すような事にはならなかった!」
声を荒げる将軍に、スザクは静かな目で答える。
「だが、私には必要な事だった。敵を見極めるには……
エリア解放を目指すレジスタンスか、ただの無法者の集まりか……どうやら後者のようだったが……
心配や気苦労をかけて申し訳なかった。」
エンドーバーの怒声に臆する事無く、強い意志を持ったまなざしで理由を話す。そして頭を下げるスザクに、将軍は苦虫をかみつぶしたような顔で、1度立ち上がった自分の席に座り直した。
「───それが、兄上様からのご指示ですか。」
その問いに無言で頷く。
「姉上。勝手な真似をしまして申し訳ありません。」
頭を下げるスザクにコーネリアも息を吐く。
「元々この出征も宰相閣下のご命令だからな。
あの方のやり方ではあるが……もう少し事情を話しておいてくれると,余計な心配をせずに済む。」
「はい。以後気をつけます。」
コーネリアは微笑むと,話を戻した。
「鉱山の占拠は,総督を追い落としエリア解放のためではないとすると……これは茶番という事だな。」
「そうですね。あの程度の連中に駐留軍が手を焼いていたとは信じられません。
フェルナンデスとは古い付き合いですから,今更他家に乗り換えとは考えにくいですし………」
「宰相閣下を袖にする理由がありませんな。」
コーネリアとエンドーバーは顔を見合わせて頷く。
「連中を手引きしたものが,内部にいるな。あそこは,総督府も力が及ばない。」
「捕らえた者の詮議と,採掘プラントの関係者の身辺の洗い出しを急がせましょう。」
事の成り行きをオブザーバーを決め込んで眺めていたヘンドリックスが言う。
「必要あらば連中は本国に連行する。そのように兄上にはお伝えしておけ。」
「解りました。」
頷くスザクに,コーネリアは人の悪い笑みを向けた。
「さて、スザク。理由と結果がどうであれ、命令違反はお前も認めた通りだ。罰は受けてもらうぞ。」
「……やっぱり……?」
スザクの顔が引きつる。
「一般兵に混ざって、武器の手入れと管理を帰国するまでやるんだ。」
「イエス マイ………」
「ちょっちょっと待って下さい。コーネリア様!」
ジノが大声を上げる。
「皇子殿下と一般兵を一緒にするなんてっ………何かあったらどうするんですかっ。殿下の顔なんて知らない連中なんですよ。」
「だからジノ。お前も一緒だ。」
「私も?」
「スザクの騎士候補だろ。それに、スザクを止められなかった罰だ。」
「と、いうことは……まさか………」
「不本意だと嘆いていたが、バートも一緒だ。」
「しょ少佐自ら………」
「しばらくバートには頭が上がらないな。」
スザクが溜息を漏らす。
「分かったら、今すぐ行けっ!」
「はっはい!」
2人は、敬礼をすると慌ただしく飛び出して行った。
「エンドーバー済まなかった。これで勘弁してやってくれ。」
苦笑するコーネリアに、将軍も笑みをこぼす。
「はい。しかし,あの悪童どもの事だ。またひと暴れしそうですな。」
息を漏らしながらも楽しそうに言うエンドーバーに、コーネリアの笑顔が引きつった。
数時間後───
コーネリアの元に、武器を管理している部隊で乱闘騒ぎがあったと、ギルフォードから報告があがることになる。
ヘンドリックスの報告に、コーネリアは顔をしかめる。
「証人をみすみす殺されてしまうとはな………」
「申し訳ありません。」
「───この、採石場の現場監督がテロの協力者というのは間違いないのだな。」
手元の資料に、また息を漏らす。
「はい。我々が、敵司令部となっていた管理棟を奪い返したとき,テロリストの人質として解放した者でしたが……テロリストのリーダー、ザイール・アブドゥルの話によると、今回の事は全てこの者の発案で、奴らは手伝っただけだと言う事です。」
「ふん……金で雇われたのか。」
「御意。今の総督を追い落としたところで、エリア解放がなされない事は分かりきっております故。エリアのナンバーズに、自分たちの存在を知らしめる事が出来れば良いと考えていたようです。」
「ふん。馬鹿馬鹿しい……自分の虚栄心のために、他のナンバーズを貶めただけではないか。奴らをテロの首謀者として、総督府に引き渡せ。」
「イエス ユア ハイネス。」
「今回の騒ぎを引き起こした張本人と、その雇い主の糸は、これで断たれたという事か……」
「残念ながら。」
「まったく……黒幕は解っているのにな…兄上も歯がゆい事だろう。」
解放された人質として、エリア内の病院で健康状態の診断を受けていた男が、その最中に死亡した。死因は心臓マヒ。
病死と公表した後、体内から薬物が発見された事が報告された。
「この男が中心に動いていた事は間違いないだろうが、この件に加担した者は他にいるのではないか?」
「現在取り調べている者が数名。鉱山の警備部隊の者です。
テロリストと一緒に、殿下を襲っていました。」
「テロリストに殺された事に出来ると踏んだ訳だな……」
コーネリアは、手の資料をバサリと椅子の上に放り投げた。
「そのもの達の口を割らせろ。どんな手を使っても構わん。
皇族の命を狙ったのだ。失敗すればどうなるか、覚悟の上だろう。
その覚悟がいかほどのものか……見せてもらおうじゃないか。」
コーネリアは冷徹な笑みを浮かべた。
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