共に煌めく青玉の【騎士選抜】 - 1/3

 神聖ブリタニア帝国、帝立ボワルセル士官学校。
 戦女神と名高いコーネリア第二皇女殿下、騎士の最高位であるナイトオブラウンズに名を連ねるノネット・エニアグラム卿も在籍した名門校に、今、1つの騒動が持ち上がろうとしている。
 学校長で、神聖ブリタニア帝国軍統合本部幕僚でもあるヴァイエルン将軍は、自分の前にいる穏やかな笑顔の美青年に冷や汗を浮かべていた。
「……しかしながら、閣下。ここはあくまでも、誉れ高いブリタニア軍の将来を担う若き精鋭を養成する場。お祭り騒ぎのような試合に場所を提供するというのは……」
「若き精鋭の鍛錬の場であるからこそだよ。
 ここを卒業したものは、すぐに実戦で大変な功を上げている。それは大変素晴らしい事だ。前線でよりいっそう実力を発揮するためにも、こういう訓練は悪いものではないと思うよ。」
「───訓練…で、ありますか……」
 ヴァイエルンはまた汗を拭った。真夏の炎天下でもないのに、手の中のハンカチは既にぐっしょりだ。
「何より、軍の士気高揚に役立つと思うがね。
 勝者の冠たる報償は……」
「それは、むろん…勝者は、皇族の方の騎士となり得る実力があると宰相閣下がお認め頂けるとあれば……しかし……」
 なかなか首を縦に振らぬ将軍に、青年は嘆息する。
「……この学校の訓練中、我が弟が巻き込まれた“事故”は。この2年で何件あったかな……」
「そ…それは……」
「彼は、ただ私の弟という訳ではない。皇帝陛下よりお預かりして、私が皇族として養育している人物だ。」
「………」
「……貴方を信じて託した私が間違っていたのかな……」
「めっめそうもない。私は、殿下の安全を第一に……」
 必死に訴えるヴァイエルンに、数ヶ月前就任したばかりの若き宰相は、うっそりと笑う。
「ありがとう。では、今回の事もスザクの安全を確たるものとするためだと、肝に銘じてくれたまえ。」
「イ…イエス ユア ハイネス。」
 ヴァイエルンはがっくりと肩を落とした。
 そもそも、皇族自ら乗り込んできて提案した事に、否など通るはずがないのだ。
 しかし、この申し出は、名門と誉れ高いこの士官学校としては、何とか回避したかった。
 努力はした……したのだ。自分なりに……相手が悪すぎたのだ。
 宰相閣下に、一介の軍人が意見出来るはずがないのだから。
───あの皇子に関わらなければ良かった………
 心の中でつぶやくヴァイエルンであった。

「失礼します。」
 呼び出されて校長室に入ったスザクは、そこに、この時間なら普段は別の場所にいるはずの人物を見つけ、眉根を寄せる。
───見なかった事にしよう………
「スザク・エル・ブリタニア候補生。お呼びにより参上しました。」 
 脱帽で敬礼すれば、ヴァイエルンは小さく頷く。・
「ブリタニア候補生。貴君の外泊申請を受理した。お迎えに来て下さっている。一緒に帰りなさい。」
「はっ。ありがとうございます………?」
 頭を下げて礼を言うものの、自身に覚えがない事に横目でちらりと迎えに来た人物を見やると、涼しげなしたり顔が返ってくる。
 シュナイゼルは、応接のソファから立ち上がると、校長に絵に描いたようなロイヤルスマイルを向けるのだった。
「では校長。後の事はよろしく。」
「イエス ユア ハイネス。」
 立ち上がって敬礼するヴァイエルンに首を傾げながらも、スザクはスザクで校長への挨拶をかささず、部屋を出る兄の後を追った。
 廊下を歩く2人の皇子を敬礼で見送る学友達に微笑みで答えながらも、腹の中に沸々と湧き上がる感情を必死に抑えていた。
 スザクは、迎えのリムジンに乗り込むや否やそれを爆発させる。
「一体何事です。わざわざ迎えにいらっしゃるなんて……!
 なにかよくないことでもあったんですか!?」
「とんでもない。スザクが心配するような事は何もないよ。」
「だったら何故───校長に何を話したんです……?」
 怪訝な表情で覗き込んでくるスザクに、シュナイゼルは楽しそうに笑う。
「お前が巻き込まれた“事故”の件数を尋ねただけだよ。」
「──兄さん。それは、ヴァイエルン将軍が気の毒です。
 明らかに僕を狙ったものも、事故として処理してもらっているのですから。」
「勿論。その事については、校長としても帝国軍人としても、非常に適切な対応をしてくれていて、感謝しているよ。」
「……なのに、なんでわざわざその事をネタに校長に無理強いするんです。」
「私が彼に無理強いしたなんて、どうして解るんだい?」
「兄さんが、わざわざ出向いてきているからです。
 将軍、憔悴してましたよ。」
 断言されて、シュナイゼルは肩をすくめる。
「兄さん。僕の事を心配してくれるのは有り難いのですが……校長にあまり心労をかけないで下さい。事故が起きる度、配下を学生として送り込んでくるから、教官が本当にやりずらそうで……」
 気の毒です。
「だから、後2ヶ月で卒業するように段取りしたんだよ。」
「──また卒業時期が早まってる……先週は3ヶ月と言ってませんでしたか?」
「大丈夫。お前の実力なら、今でも実戦に出れるよ。」
 とぼけた笑みを浮かべるシュナイゼルを、上目遣いで睨む。
「──僕に何か隠してますね。」
「隠し事なんて……詳しい話は城に戻ってからにしようか。」
 楽しそうに車窓を流れる風景に目をやる兄に、スザクはため息をついた。

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